拾った女
横尾茂明:作

■ 事の成り行き4

女の寝息に乱れはなかった。

(そういや…先程あんなに乱暴に抱いたのに全く起きる気配を見せなかったが…)

(ちょっと…この女…やばくない? …まさか頭を打って昏睡状態なんてこと…)
(おいおい…冗談じゃないぜ…もしもここで死なれたら…)

俺は急に不安になってきた、応接間を行ったり来たりして考える…。
先程来のHな感情などは今や何処かに消し飛んでしまった。

(シャワーも浴びたし…もうアルコールの臭いはしないだろう…)
(さっきの病院に行こう…確か救急何とかと看板に書いてあったな…)

(あっ…この包帯は……まっ…マズイなー……)
(はーっ…やってられないぜ…ったく、何で俺が苦しまなけりゃいかんのよー)
(……………………)

俺は急に腹が立ってきて…思わず女の頬を叩いた。

(ぅうん………)

女が呻いた…そして…ゆっくりと目が開き…また閉じる…。

「おい!、起きろ!…」
知らぬ間に俺は叫びながら女の肩を揺すっていた…。

女は揺れながら次第に体をこわばらせ…俺をしっかりとした眼差しで見つめだす…。

「やっと起きたか…おい! 大丈夫なのか…」

「ぁぁ…は…ハイ…」

「あぁぁよかった…どうなるかとおもったぜーったく」
俺はへたり込むように床に尻餅を付く…。

「あ…あのー…ここは何処ですか…」

「俺んちだよ!」

「あなたは…どちら様…」

「どちら様はないだろー…助けてくれって言ったのはお前の方だぜ」

「ぁぁぁ…そうでした…ごめんなさい…」

「お前…さっき体中がイテーって言てたけど…もういいのか?」

女は言われて気が付いたように体のあちこちを押し出した…。
「ぁぁ…ハイ…右の腰が痛いです…」

「お前…一体どうしたんだ、頭を切ってるが…車にでもはねられたのか?」

「…………………………」

「あぁぁ…私…思い…思い出せないの…」
「あのー…私は誰です……?」

「知るか!、俺が聞きてーよ、冗談もたいがいにしないか」

「ぁぁぁ……思い出せない…思い出せないの…」

「お…お前…本当に分からんのか…オイ…冗談じゃないぞ…」

「そー言やー、お前…頭ぶつけてたな…ってことは記憶喪失…?」
「おいおい…ほんとかヨー…服のポケットとか…身につけてるもん何かあんだろー」

女はコートのポケットを探しはじめる…暫くもぞもぞしてたが…
「何も入っていません…そ…そーだ、バック…」
「あのー…私…バックは持っていませんでした?」

「お前が倒れてたところには…確か…なんにも落ちてなかったぜ」

「……………………」

「もー考えてても埒あかん、俺はもう寝る !…いいか、夜が明けるまで思い出すんだぞ」
「ファーッ…眠い、まっ…しかし、死ななくてよかったぜ…本当に…」
「じゃーな、朝になったらちゃんと帰るんだぞ!」

俺はそー言うと自分の部屋に向かった。
しかし…ベットの中にもぐり込むと…またもや不安がよぎる…。
(あのまま記憶が戻らんかったら…どうするよ)
(警察に届けるしかないか…しかし事情を聞かれたらどう答えりゃいいんだ…)

(まさか道で拾いました…は…ねーよなー)
(頭の傷を見て…病院には何故連れて行かなかったと聞かれたら…)

(カーッ…やてられないぜ…何でこんな事で悩まされんといかんのだ…アホラシ)
(もー寝よ…)

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