人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として2

「それにねココだけの話だけどね、今の時間で働いてる子は全員人妻なんだよ」
「え…ぇ……ぇ?」
「貴女と同じ、何か理由があって働いてるんだよ」

抵抗していた筈の身体が、自然と力を失う。

「うちの店もソレを承知でね、安心して働いてもらう為にやってるの」
「…… ……」

店長がゆっくり立ち上がり、私の肩をポンポンと優しく叩いた。
どうしようと迷っている最中の出来事で、再び私はソファーに座らされる結果となった。
(他の働いてる人も……私と同じ…人妻……)
情報番組とかでもたまに見かけるが、まさか本当に人妻が多いとは……。

「理由は別にいいのいいの、金が欲しかったら手っ取り早く高収入がいいでしょ?」
「……」
「うちはね〜本番は絶対禁止だし、女の子の希望に沿ってコースも立てられるの。
だからね〜これは無理とか言ってもらえれば、そういう客は入れないからサ。」
「……そぅなの…ですか?」
「ウンウンそうそう、うちはだから安心して働ける訳よ、ウン」

どうしよう……心が動いている自分が恐ろしい。
どうしよう……困っている現状と高収入を頭の中で天秤に掛けてる。
(どうしよう……私……)

「パーっと短期間でお金貯めて、直ぐ辞めちゃえばいいんじゃない?。
それが風俗のウリだしねぇ、ねぇ新井さん。」
「パーっと……直ぐ辞めて……」
「そそ、あまり深く考える事も無いし〜火遊びみたいなものじゃない」
「…… …… …… ……」

店長の言葉は、甘い誘惑のように聞こえてくる。
テーブルに置かれたパンフレットへと視線を落とした。
(私、知らない人とこんな事……を)
そう思うと決心が鈍る。

「あの……」
「はいはい、何でしょう?」
「あの…知らない人と1日どれくらい対応するのでしょうか?」
「それも女の子の自由、早くお金が欲しかったら働く時間も延ばせば良いし」
「なるほど……」

眼鏡を人差し指でクイッと上げ直して店長は畳み掛けるように言う。

「新井さんは知らない人と、フェラや素股とかするのが怖いんですねぇ?」
「……は…ぃ」

(何を当たり前の事を言い出すの?)
怖いに決まっている。

「会員制だしね、気に入ってもらえたら固定のお客が来るよ?。
それを増やせばいいんじゃないかなぁ〜?。」
「でも……1人って訳にはいかないですよね……」
「まぁねぇ〜空いてれば新規の客は入れますねぇ」
「ですよ…ね」
「困りましたなぁ〜、うちもねぇここまで悩む方にはお引取り願ってるんですよ」

腕組しながら店長は言った。
(恥ずかしいぃぃ……)
面接に来てまで覚悟を決められない私は、さぞ滑稽に見えるだろう。

「でもね〜新井さんは実にいい、清楚だし美しいし恥じらいがまた堪らない。
何とかしてあげたいなぁ〜って思ってしまう。」
「……スイマセン」
「スリーサイズ、幾つ?」
「ぇ?」

いきなりだったので驚いて聞き返してしまった。

「スリーサイズ」
「あ…はぃ……あの、恥ずかしながら84・56・88……です」
「ほほぉ〜〜〜実に魅力的な身体をしている、特にお尻が大きいのがいい」
「……」

またボッと顔面が真っ赤になる。
再び店長が尋ねる。

「ぶっちゃけね、幾らほど欲しいの?」
「……一千万位、です」
「いっせん…まん〜〜、そりゃまたどうしたのぉ〜〜?」
「ブランド物の衝動買いで…カードが焦げかけて……その…」
「なるほどねぇ〜〜、そりゃあ大変だ」

ある程度まとまったお金で返済しないと、もう駄目な所まで来ている。
追い詰められているのも事実だった。
だから私は、こんな如何わしい所しかないと覚悟を決めて電話をした筈だったのに……。
(どうしよう……)
と、思いつめた時だった。

「新井さんさぁ、僕と契約しない?」
「ぇ?」
「毎回違う他人とスルのが、嫌なんでしょ?。
だったら僕限定で契約しない、愛人契約を?。」
「あいじ…ん?」
「勿論、本番は無しでね」
「ど、う…いう事ですか?」

いきなりの提案に頭が回らない。
しかも愛人だなんて……。

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