人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として5

私は店長さんに賭けた。

「薄めの化粧といい、そのスーツスタイルもソソられるなぁ〜。
落ち着いた感じも見せつつ、それでいて自分の身体を美しく見せる着こなし。」
「ふ、普通の服……です」
「いやいや〜それをね、見事に着こなしている人妻理紗ちゃんは素敵だよ?。
何ていうんだろうねぇ〜……そうっ、妖艶っていう感じだ!。」
「そん、な」

確かに今日もクローゼットで何着も試着をして、姿見の前には立った。
地味目に地味目にと選んだ服と化粧だった筈。

「家庭からちょっと遊びに来たって感じ、いいねぇ〜」
(この人、こういうのが好みだったの?)
失敗した。

「いいねぇ〜実に良いよ理紗ちゃん〜。
これから会う時はそういう服を着てきてね?。」
「や、止めておきます」
「え、何で?」
「その、そんなに持ってないし……」

私の即答に田崎さんは、契約書の一部を指先で軽く叩いた。
四:契約中の時点、理沙殿は私田崎○○に従う事。
思わず、契約書第四項と田崎さんを見比べる。

「取り合えずさぁ取り合えずだよ?、服くらいの事で規制事項の確認はねぇ?」
「す、すいません」

よく考えてみればそうだ。
何でもかんでもNGだと契約は成立しないし、これ位の事で田崎さんの怒りを買うのも後先怖い。

「わ、かりました……出来るだけご希望に添えるようにします」
「うんうん、プレイ中は私が服を用意しておくから安心してね」
「?」
「自前の服でプレイ嫌でしょ、契約したとはいえ夫以外の男とアヤシイ事した服だよ?。
それを着れるんだったら別にいいけどねぇ?。」

咄嗟に考える。
こんな事になってしまったブランド物の服や靴、この人に見せびらかせる為に買った訳ではない。
自前の物に嫌な思い出があったら着れない。
脳がそれを判断した。

「あ、いえ……その、お世話になります」
「うんうん、この経費は契約金から差し引かないから安心して」
「で、でもあの、プレイって実際……何を…すれば?」
「あぁうんうん、そうだったね〜理紗ちゃんには言ってなかったっけ?」

そう言った田崎さんは、手元に置いた黒鞄から雑誌を3冊テーブルに置いた。
ハッとする、そして言葉にならない。

「えと?」
「どう?」
(どう、て……これ)

田崎さんが雑誌のカラーページをゆっくりと捲る。
私には考えも付かない行為がそこには曝け出されていた。
耐え難く目を逸らすが、田崎さんが再び口火を切った。

「私の趣味はね、コレ」
「……」
「コレはね露出プレイっていうの」
「……」
「全くの素人をね、こういう風に露出させて楽しむプレイ」
「……」
「肉体的快楽は感じなくてね、こういうのが趣味なんだ、どう?」
「……」

どうと問われても言葉にもならない、「冗談じゃない」という言語。
無言で席を立った。

「待って待って、理沙ちゃん!」
「こ、こんな事っ……出来る訳っ!!」
「うんうん出来ないよね〜、だからね私は街中でやるつもりはないの」
「だ、だ、だ、だっだぁ、だからってこんな事っぉ!」
「無論写真とか映像とかに納めるつもりも無いよ。
個人的出展というのかな、理紗ちゃんのチョットした妖艶な姿が見れればいいの。」
「で、でも!」
「性的行為は無いよ、それに場所は限定するし写真とか残らないようにする。」
「で……も」
「どこのお店に働いたらね、本番は無いけど肉体的性行為はあるよ?。
それに対しても尚、私が提示した月25万なんてまず無理。」
「……」
「私の個人的出展なんだけどねぇ?」
「……」
「さっきのを見せた通り、挿入とか肉体的快楽は必要無いよ。
ただね、色んな理紗ちゃんが見たいだけなの。」

事務所に無言の空気が雪崩れ込む。
契約書と田崎さんの言葉と、雑誌の中で顔はモザイク処理されてつつも痴態を晒している女性の事を考える。
恥ずかしいのを見られるのは嫌だ。
お化粧している最中だって恥ずかしい。
でも……。
田崎さんは大分妥協してくれているのは確かだ。
困っているのは明らかに私なのだ。

「私」
「ええ、ええ」
「ホンとに後に残らないのですよね?」
「ぶっちゃけ言うと、私もこういう仕事してる身。
愛人とか個人契約とかは本当はいけないんです。
言わずとも解ると思いますが、あるお上の契約でね。」

その言葉に、踏ん切りが付いた。
私は首を縦にふった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊