人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として10

待ち合わせは1時間後の、5つ先の駅。
田崎さんはわざわざ人目に付くと拙いだろうと別行動を提案し、最寄駅から5つ目の駅にある繁華街を指定した。
凄く気を遣ってくれている……電車に揺られながら私はそう感謝した。
最寄り駅でも大抵の物は揃う位に栄えているので、近所の住人は特別な用がない限り殆ど下車しない5つ目の駅。
ちょっと迷いつつも指定された南出口へと辿り着いた。

「こっちこっち〜」
「ぁ」

お腹をタプタプと揺らしながら歩いてくる田崎さんだった。

「ぇ、どうして先に?」

確かお店を出てから直ぐ駅に向かい一番の電車に乗った筈だった。

「そりゃあねぇ〜レディを待たせる訳にはいかんでしょぉ」

死語っぽいレディという言葉にちょっと可笑しくなるが我慢。

「と、いいますと?」
「タクシーですっ飛ばして待ってましたよ」
「ぇえ!?」
「ま〜ま〜、このくらい朝飯前ですよ、レディの為ならねぇ〜」
「す、すいません…です」
「気にしない気にしない、じゃあ早速ですけど行きましょうか。
実は店に連絡してあるんですよ、これから行くから良いのキープしておいてってネ。」

私が返事をする間もなく、田崎さんは歩を進めて行った。
慌てて私はその後へと足早にローヒールを進めるのだった。

見渡す限りは下着の類ばかり。
だけど、これが下着と呼べるとは到底思えなかった。
卑猥な布ばかりが目に付く。
本来隠さねばならない箇所を、より淫らに見せるためだけのイヤラシイ下着ばかりだった。

「か、帰ります」
「あれあれ、プレゼントいらないの?」
「こ、こ…こんなプレゼントなんて……要りませんっ!」
「そぅ〜残念だなぁ、素敵な物ばかりなのにぃ?」
「わ…私っ、こんな物の趣味なんてありませんからっ!」

こんなもの着けるほど私はこんな安っぽい女じゃない、そう怒りが込み上げてきた。
だけど笑みを漏らして田崎さんは言うのであった。

「そう、理紗ちゃんの趣味じゃないんだぁねぇ〜〜でもね?」
「……?」
「これは僕の趣味なんだよ」
「ぁ」

今、ようやく気付いた。
プレゼントというのは建前であって、これはあくまで田崎さんの趣向によるものだという事を……。
愕然とする私に追い討ちを掛けるかのように田崎さんは言った。
愛人契約としての命令を……。

「理紗ちゃんに選んでもらおうかと思ったけどサ。
あんまり気が乗らいみたいだし、僕が決めてあげるよ奥さん〜?。」
「うぅ……そ、それは……」
「あ〜あ〜あ〜心配しなくていいよ、ある程度もう見繕ってあるからさ。
きっと……気に入ると思うよ理沙ちゃんも。」
「そ、そ……んな」
「これなんかね〜〜どうかな、どうかな?」

躊躇した手に、無理矢理手渡されたのはブラジャーだった。
(嘘でしょ……これは絶対下着じゃないわよ……)
投げ捨てたい気分だった。
黒の総レース仕様なのだが肝心のカップ部分は全く無く、レースの紐みたいな作り。

「んふふふ、お上品な奥さんにはレースの黒が似合うと思ってねぇ〜。
奥さんの為にね、オーダーメイドしてたんだよぉ。」
「…… ……」
「あとね、あとね、ショーツはコレね?」
「ぇえっ!?」

田崎さんの手で目の前に突き出されたショーツは、ブラと同じの黒レース仕様。
言葉を無くしたのはその事ではなかった。
両手で左右に引っ張られたショーツの中心、そこは大事な箇所を隠す部分だった筈。
そこに……田崎さんの人差し指が突き出ていたのだ。
(な…んて事!?)
大事な箇所を隠すべき部分がぽっかりと穴が開いているのだった。

「ここもね?」
「…… ……」

後にしたショーツのお尻の部分にも穴が…… ……。
もはや言葉もならない。
私の反応を楽しむかのように田崎さんは更にハンガーを手にする。

「あと美しい奥さんを飾るに相応しいのがコレね〜?」

ガーターベルトとネックストッキング、これも総レース物だったがドギツイ赤だった。
それらを次々と手渡されて、ただただ躊躇するばかり。
白や水色を好み、身体のラインを強調しない清楚を基本とした下着しかつけたことの無かった私には到底考えられない代物。

「さ、さぁさぁ〜着てみようか?。
更衣室はあそこだよ?。」
「…… …… ……」

淫猥な下着を手にし、全身がガクガクと震えていた。
(これを……着ける、の?)
…… ……ホントに?。
私が私でなくなってしまう気がした。

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