人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として13

発車寸での所で、調べてあった電車へと私は飛び乗った。
(はぁぁぁ〜〜危なかったわ……)
動き出した列車の中で、まずは安堵する。
履き慣れないハイヒールで早歩きしたせいか、大分息が乱れている。
(あ、そうだ、5分位乗るんだっけかしら……?)
大きく肩で息をしながら、車内に掲示してある路線図へと目を移したところ……。
周囲の乗客の視線を感じた。
それも至る所から……男女関係無く見られていた。
(あ、やだ私……息乱れすぎ?)
かなり恥ずかしくなり、ドア付近の手すりのスペースに身を落ち着かせた。
隅っこであり他人との接触が少ないこのスペースが私は大好きで、空いていれば必ず陣取るのだ。
空気のような存在でありたい、それが目立つ事の嫌いな私。
(……あら?)
だが、違和感を感じた。
背中越しから来る視線の波、それも異常な程の大量の視線。
息は整った筈なのに何故?。
(ぇ、えと、ぇえ……何かオカシイの、私?)
慌てて手を頭にやり、髪を整えようとしたが髪型は乱れていないようだ。
ドアのウインドウに自らを映してみた。
(ぁっ!!?)

そこに映るモノは私?。

私の今しているドギツイ化粧は、今流行であるナチュラルメイクの女性達とはだいぶ浮き……。
普段も普通に着こなしている清楚を基本とした水色シンプルブラウスと、膝が隠れる長さである白のフレアスカート。
上下はちゃんと着こなせていた。

だが…… …… ……。

スカートから伸びる両足が包む物、それは異彩を放っていた大きな網目の黒い網タイツと真っ黒のハイヒール。
(ぁ…ぁあ……コレ私が変に見られてるから?)
上下の清楚な服装を見に包むものの化粧はドギツク、足を包む物が破廉恥な網タイツと黒いハイヒール。
違和感あり過ぎだった。
(わ、私のカッコが変……なんだ、それを見られてる訳っ!?)
今、初めてそれを確認した私だった。
(ぃゃだあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜……)
ドアにウインドウにも目をやる事の出来ない私の今の格好。
途端耳まで真っ赤に染まり、ドア付近の手すりで俯くしかなかった。
背中越しからの周囲の視線は止まらない。
それは好色染みたモノ、軽蔑を露にしたモノと様々だった。
(は、早く着いてぇぇぇ〜〜〜)
この場を早く逃げ出したかった。
だが列車は止まらない……そうだったこの電車は快速だった。
周囲から見られているという状況に、私の全神経も研ぎ澄まされていた。
ガタンゴトンと電車が動く音、それに混じって研ぎ澄まされた聴覚が囁き声をも捕らえていた。
つり革に身を委ねていた大学生っぽい2人組みだった。

「なぁなぁ、あの女ってまともな仕事じゃなくね?」
「ああ、俺もそう思ってたっ……て、アレ?」
「ぇ、何よ?」
「いやお前ってさー、フェロモン系よりも可愛い系の方が好みだったんじゃネ?」
「まぁ〜可愛い系が良いけどよぉ、あれはソソるだろ、どんな男でも」
「おぉ〜〜ようやく解ったかよお前もぉ、でもまぁあの女は玄人だろーよ。
お前じゃぁ釣り合わねーし、あの女も満足しないって。」
「ま〜〜そうかもしれねぇけどさ……一度で良いからヤッてみてぇよなぁ。
プロのテクニックっての味わいてえってな。」
「へっへっへ、あれを手懐けるのは玄人だろうなぁ」

卑下た笑いが続いた。
そんな風に見られている……私は消えたい気分だった。
(ちょっと……そんな風に……見ないでっぇぇ!)
走る電車の床に視線を落としながら、顔おろか全身を真っ赤に染めている私。
チラ見を繰り返される私への視線が突き刺さる。
そして、方々から好き勝手な異性からの囁き声も止まない。
張り詰めた聴覚は聞きたくも無いのに、様々な周囲の声を拾ってゆく。
女子高生3人組の声だった。

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