人妻の事情
非現実:作

■ その時は妻であらず9

あの日から…… ……欲求不満という我慢の枷がどうも外れたらしい。
夫を会社へと送り出してから、暇さえあれば一日中擬似オナニーに耽る毎日。
Hなサイトを巡りサイト上の女性を自身とだぶらせては発情している私……。
誰に見られても恥ずかしくない様に磨き上げられた爪が自慰防止板の網目をカリカリと音を立てる。
ブラウスとブラジャーを剥ぎ取った胸を滅茶苦茶に揉みしだく私……。
(振動が欲しいぃ)
ありとあらゆる家電で自慰を試した。
掃除機、洗濯機、冷蔵庫、シャワー…… ……。
どれもこれも挿入という最終地点までは至らない。
(で、でもぉコレも気持ちイイのぉ!)
「頼み」の田崎さんは2ヶ月経っても逢瀬の連絡が来ないのだ。
他愛の無い近況報告がたまに来るだけ。
(どこまで……ぃ、意地悪な人なのぉよっぉ!)
挿入出来ない状態である為か、擬似自慰は欲求不満と共にエスカレートしていった。
要を足す必要も無いのにトイレに入る回数が格段に増えた。
これは最近のお気に入り。
本当の使い道からは到底考えられない水勢マックスにしてのビデである。
噴射されるビデの水鉄砲に、爪楊枝が辛うじて入る程の網目を寄り近くまで受け止めるのだ。

「ぁっぁあああぁっぁはっぁンゥくぅっぅ〜〜〜」

思わず声が出てしまうくらいにキモチイイ。
夫が帰ってからもこの衝動は抑えられず、度々トイレに駆け込んでは自慰を繰り返した。
トイレが近くなったねと心配する夫にも、適当に誤魔化して私はビデで性処理をしていた。
私の頭の中は、快楽で埋め尽くされてしまっている。
自慰防止板で完全に満たされないこの身体をどうにかして満たしたい、常日頃そればかり考えている。
弄る下半身はカリカリと乾いた鉄の音。
(届かない……届かないぃのぉ!)
磨きあげられた爪は金網を悪戯に鳴らし……そして金網の最奥のオ○ンコからは「触って」という合図のネットリとした液を垂らし続ける。
毎日がそんな風。
思考はHの事しか考えられず、そうはいっても慰める事も出来ずに。
そのくせ私の内股はナプキンをしないと出歩けない位にシトシトと濡れ続けていた。

そんな毎日の中で、アノ衝動を知ってしまった私には物足りない日々だった。
そう……宅配の若いお兄さんに事の事情を知られてからの……アノ獣染みた視線。
だから私は考えた。
(これは契約違反じゃないないでしょ?)
あまり思考が回らない頭で考えた、快楽を得る方法を。
全くの他人に見られたアノ衝動をもう一度……。
(そ、それなら簡単じゃない?)
今、私のみが持つ様々な衣装が置かれている物置で着替えている。
(赤のガーターベルトに赤の網目状のストッキングでしょ)
(それに……そうねウン、キャミソール着てコートとかいいかも)
(それに……下は……)
魅せる為に着替えている。
(やっぱり……コレかなぁ)
心臓の鼓動が3倍速に上がっている。
これからの事を思うと否応無しに。
私はそれほど快楽に飢えている。
手にしたスカートは少々の風が靡いても危うい程の股下20cm余りのフレアスカートだった。
ストッキングは穿かない。
座る時、エレベーターの時、あらゆる想像が頭を巡る。
(見えちゃう?)
だけど…… ……その期待感すら心地良い。
入念に化粧を施し、まるで別人に扮した程の化粧を施す。
三面鏡に写る私はどうみても貞淑な妻ではなかった。
まるで別人。
(でも……これでいいの)
疼いている身体が強制的にアリだと判断している。
私は観られる為に……それこそが私の快楽だと自負して今から家を出る。

貞淑な妻?。

ごめんなさいアナタ……。
玄関で特に高い10cm程のピンヒールに履き替えて、私は納まらないこの衝動を満たす行為に先走った。
自然とハァハァと息が荒くなっている。

「見て」
「私はこんななの」

そうね……これってば視姦。
私は玄関の扉を手にした。
(何で早く気付かなかったんだろう……)
そんな後悔の念が私を攻める。
「貞淑な妻がこんな事?」という考えは一切過ぎらない今の私……。
……どうかしている。
(でも無理……もっぅう無理ぃ)

穿きなれないピンヒールでカツカツ言わせながら……新たな扉を自ら開いたのだった。

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