百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第一章 亜湖とさくら1

いつもの通りに登校し、そしていつもの様に下校する、そうやって3年間通い、そして卒業していく。殆んどの高校生はそうである。

県立相生高校のいつもの放課後、茶色のブレザーとブレザーよりは少し色の薄い茶色のミニスカートの制服に身を包み、高校生では珍しいツインテールの髪型をした身長165cm位のやや大柄な少女が2年生の教室を目指して走っていた。
その少女の胸には赤いバッチがついていた。赤は一年生の色だった。
「亜湖センパイ」
1組の教室のドアを開け息を切らしながら先輩の名前を呼んだ。呼ばれたのは長崎亜湖、清純派のアイドルのような顔立ちで髪型はボブカットにしていた。
身長は169センチ、ほぼ170cmとクラスで大きい方だった。
「さくら、待ってたよ」
亜湖は笑顔で返した。亜湖の友人も亜湖の後輩の宮田さくらが毎日来ることは知っていて亜湖と帰るときはさくらも一緒にいる、という構図が出来上がっていた。
さくらは亜湖とその友人と帰るのがいつもの楽しみだった。また、亜湖の友人もさくらを妹のように可愛がった。
その時に見せるさくらの可愛らしい笑顔はみんなの心をを潤した。


亜湖とさくらの二人は国道の路地で友人たちといつもの様に別れた、そして自分達の家―――、と言っていいのだろうか? 二人が目指したのは国道沿いの施設だったからである。相生坂田孤児院―――。ここが二人の帰るところだった。
二人は孤児だった。亜湖もさくらも小さい頃に両親を亡くし、ここの孤児院に入った。二人は年が近く、更に他の同年代の子供達は一人、また一人と親戚やその他の引き取り手が現れて引き取られていったが、引き取り手が無く最後まで残った関係で二人は励まし合って今迄生きてきた。

しかし、ここから先はいつもの様にはいかなかった―――。
様子がおかしかった。孤児院に近づくと増えて来る工事用の車両。更に近づくと、孤児院の正面入り口からダンプトラックが出て来たのだった。廃材を積んで―――。
「え―――」
亜湖はダンプトラックが出て来て行った後、その場所がどうなってるのかを見て驚いた。それ以上声が出なかったのだった。
「セ、センパイ……」
さくらが声を掛ける。亜湖は、
「ちょっと……聞いてくるよ……」
と言って一人で行こうとするとさくらは亜湖の袖を引っ張り、
「私も」
と言った。二人は工事車両を指揮しているヘルメットを被ったおじさんに声を掛けた。
「ああ、ここのお嬢ちゃんか。実はね―――」
工事のおじさんはかなり話を詳しく知っているようだったが言い辛そうに話した。ここの孤児院は1年前から税金を滞納し続けていてその関係でここからの立ち退きを要求されていたのだが、それを断り続け、更に亜湖やさくら、そしてここに住んでいた他の人達にはその事実を知られないようにしていたのだった。
しかし、それにも限度が来たと見るや、施設長の坂田氏と一部の上役は夜逃げしてしまったのである。その為、施設は差し押さえられ、取り壊しの為の車両が入ってきて取り壊しを行っているのであった。
「そ……そんな……」
亜湖は膝から崩れ落ちた。そして両手で顔を覆った。しかし、さくらが居た為に泣く事は出来なかった。さくらも亜湖の横で膝をつき、呆然としていた。おじさんは
「かわいそうだけど、俺達も仕事なんだよ。やらなきゃいけないんだよ……」
と言った後、亜湖の肩を叩き、
「せめてと思って、まだ職員さんが一人残ってたから、協力してもらってここの子達の出せる荷物は出して置いた。みんな自分達のは持って行ったよ―――」
と言って庭を指差した。そこには二つ、小さなタンスが置いてあった。

せめてもの救いだった。これで着る物が無いという事は無く、そしてタンスの上には卓上用の本棚もあった。そこには教科書等が入っていた。

しかし、これからどうやって暮らしていけばいいのだろうか―――。もう住む場所も無く、金も手持ちでお互い3000円位ずつ持っているだけである。もう学校に行くのも無理だ。だからと言って働こうにも住所が無ければ仕事に就くことも出来ない―――。どちらにしろ二人には絶望しか待っていなかった。
もう裏の世界に身を染めてしまうしかないのか―――。風俗やAV出演等、女子高生なら需要はある。
「後で……取りに来ます……」
亜湖はおじさんにそう言うのが精一杯だった。二人は肩を落としてその場を立ち去るしか出来なかった。その時一台の白ベンツが通り過ぎたが、二人が気付く事は無かった。


亜湖とさくらはフラフラと繁華街を歩いていた。流石に怪しい街だけあって色んな人が声を掛けてくる。勿論二人の体狙いが殆どだ。しかし二人とも殆ど聞こえていなかった。あるスカウトマンが亜湖とさくらに声を掛けたが返事もせずに立ち去ろうとした事に腹を立て、
「聞いてるのかコラ。今ここでヤッてもいいんだぜ」
とさくらの胸倉を掴んだ。さくらは、
「ひっ!」
と悲鳴を上げる。周りの人は5メートル以上離れ、自分は巻き込まれないよう、見て見ぬ振りをして通り過ぎて行った。
「や、やめて下さい。聞かなかった事は謝ります……」
亜湖は男に向かって進み小さく言った。
「あ、亜湖センパイ……」
さくらは消えそうな声で呟いた。
「だからさくらは離して下さい―――」
と更に言った。男はさくらを離し、
「じゃ、お前が慰み者になるって言うんだな?」
といやらしい視線を亜湖に向けた。亜湖は男から視線を外し、顔を斜め前に向けて頷いた。男は亜湖の顔、胸、腰、ミニスカートから出ている太腿―――、亜湖の体を舐め回す様に見て、
「よし、その度胸が気に入った。体格もな。胸も大きすぎず小さすぎず、丁度いいぜ―――」
と言って、さくらには、
「お前は帰りな。折角センパイに助けてもらったんだからな―――俺の気が変わらないうちに」
と言って亜湖を連れて行こうとした。さくらは何も言う事は出来なかったがその場を去る事も出来なかった。今迄自分と一緒に居た亜湖とこんな所で別れなければならないなんて想像も出来ず、また亜湖がこんな何だか訳の分からない男に犯されてしまう、という事を受け入れることも出来ずにいた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊