百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第一章 亜湖とさくら5

「すごく綺麗な人だったね」
さくらが言った。亜湖は、
「そうだね、本当に美人って感じ……」
と答えた。すると、
「アイツには気を付けた方がいいぞ」
と反対方向から声がした。声の主は某格闘ゲームの少佐のように髪を立て、Tシャツに迷彩色の短パン姿の、身長は亜湖よりも高く175cm位はありそうで腕も太くこれまた如何にも格闘技しています、という感じの女性だった。とはいえ顔は目鼻立ち整っていて、モデルの事務所に入り髪を伸ばして化粧すればトップモデルになれそうな感じではあった。
「え……?」
亜湖が聞いた。その女性は、
「あいつはああ見えて新人イビリが好きだからな。まあ、ああ見えて、と言うのはさっきの姿の時にしか当てはまらないけどな。リング上では全くの別人だ。さっきの姿のイメージが強いとリング上でアイツを見てもアイツだと分からないぞ」
と言った。亜湖は、
「そ、そうなんですか……、あ、すみません。私達今日から入った新人で、長崎亜湖です。宜しくお願いします」
ととっさに頭を下げ、挨拶をした。さくらも、
「私は宮田さくらです。宜しくお願いします」
と挨拶した。その女性はそれを聞いて、
「私はジェネラル美紗だ。新人戦の時は覚悟するんだな。新人だからと言って手加減はしない」
と威圧するように言った。亜湖もさくらも恐怖を感じたがさっき社長の視線に耐えた事を思い出し何とか震えずに済んだ。
「さっきのアイツはポニーっていうんだ。アイツは今でこそ強いが新人の時は弱かったな。そう―――アイツが新人の時、新人戦で相手したが、4分持なかったぞ、3分57秒だ。お前達は何分持つか楽しみだ」
と言ってから、ジェネラル美紗は亜湖とさくらに繰り返し警告するように、今のアイツは強い、と言って去っていった。亜湖もさくらも、さっきの女の人が何で”ポニー”という名前でやっているのか分からなかった。また、いきなり新人戦でジェネラル美紗のような巨漢に当たるのかと思うと気が重くなった。

更衣室―――。
松本香―――ロングのストレートの髪でメガネを掛けた清楚なお嬢様風の女の人―――はロッカーの鍵を開け、ハンガーを取り出してジャケットを脱いで掛けた。そしてスカート、ブラウスを脱ぎ、下着姿になった。可愛らしい黄色のブラジャーとパンティーである。
香は横にある鏡に映る自分の下着姿を見てから、ロッカーに視線を戻し、
「クスッ―――楽しめそうな新人が入ったわね。下着姿で闘うなんて……ずっと待ってたわ。そういうの―――」
香はそう口に笑みを含めて笑い、メガネを外して丁寧にメガネ拭きでメガネを拭いた後、さらにそっとメガネを包みたたんでから、メガネケースにしまった。そして着ていた服を丁寧に畳んでロッカーに綺麗にしまった後、メガネケースを畳まれた服の上にそっと置いた。
それから持って来たポシェットの中から小さく畳まれた服と髪を留める輪ゴムとリボンを取り出した。
服を広げ、そしてシャツの方は頭から被り、残った方―――ハイレグのブルマ―――をパンティの上に穿いた。体操服とハイレグのブルマが香のコスチュームだった。ブルマの中にシャツは入れないで外に出している状態でだ。
そしてリボンを銜え、髪を留める輪ゴムを腕に掛けた状態で綺麗な黒のロングのストレートを両手でかき上げ、それから腕に掛けたゴムで縛り、ポニーテールの髪型にした。その後銜えていたリボンをゴムの上から縛り、ポニーテールのアクセントとした。もう清楚なお嬢様は居ない、ここに居るのは先程、ジェネラル美紗の言っていたレスラー”ポニー”である。

香は、ロッカーに鍵をかけた後廊下に出て控え室を目指した。すると銀蔵はさっきと同じ様に立っていたが、亜湖とさくらが居ない事に気付き、二人が居ない事を念入りに確認した後で、
「銀蔵さん―――」
と香は声を掛けた。銀蔵は、
「何だ?」
と答えた。香は、短く舌を出し、上唇を軽く舐める仕草をしてから手を背中で組み、胸を突き出す様な仕草をしながら銀蔵に歩み寄った後で、
「あの二人の新人、新人戦で相手したいんだけど、いい?」
と聞いた。銀蔵は、
「一人はジェネラル美紗に当てる。もう一人は決まっていないから、お前でもいいだろうな。但しどっちがだれと闘うか、までは決まっていない」
と答えた。香は、
「そう……有難う。嬉しいわ」
と答えた。銀蔵は、
「分かっているとは思うが、新人戦で新人に負けたりしたら、評価はかなり下がるぞ」
と警告した。香は、
「フフ……、大丈夫よ。心配しないで」
と言ってクルッとポニーテールを翻して控え室に入って行った。銀蔵はそれを見届けた後、社長に内線を掛けて、香が新人戦の相手を務めたい事を伝えた。


亜湖とさくらが帰って来ると銀蔵は、
「そろそろ試合が始まる頃だろう。リングサイドに行くぞ」
と言って二人をつれてリングサイドに向かった。三人が付いた時に丁度試合が始まった。試合はポニー対プルトニウム関東だった。二人は身長こそほぼ同じだが体重―――見た目が全然違っていた。ポニーは出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいるという理想的な体型をしていて、体操服プラスハイレグブルマがそれを際立たせていたが、プルトニウム関東はそういったのとは全く無縁で脂がたっぷりと付いており、表のプロレスにもよくいる悪役レスラーそのものの体型である。その為ポニーの様なブルマ姿やコスプレ等出来る訳もなくアマレス風コスチューム+覆面姿だった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊