百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第二章 香3

「入門希望ですが、説明聞かせていただけますか?」
香は、社長に会うや否や言った。自分の望むものかどうかというのを先ず聞きたかった。社長がルールを説明すると、それを聞いて香は、
「やります」
ときっぱりと答えた。先ず一番にガチンコでやる、という事。そしてガチでやるという性質上顔面攻撃を認めてしまったら直ぐにKO等で試合が終わってしまう。あくまでもスリーカウントで決着を付けるというプロレスの性質に拘り、顔への攻撃はビンタやつかみ技のみ。そして極力ギブアップも狙わず、関節技は相手の体力を奪う事を目的に掛けるというものだった。香は自分の顔を傷付けられたくないと思っていたので拳や物を使って顔を殴ってはいけないというルールは重要だった。更に、凶器攻撃も厳しく取り締まる。あくまでも体対体のぶつかり合いを重視した、とはいえプロレスらしさを出す為に場外に限り、そして頭以外になら椅子攻撃を認めた。その為の椅子、よくプロレスで見るパイプ椅子を場外鉄柵の外に並べてあると言うのだ。そして場外戦になっても、カウントを取らない為リングアウトは無い。そう―――動画で見ていたプロレスで興醒めだったのは電流爆破もそうだが、それ以上に、大物同士の対決になると決まって反則や両者リングアウトで試合が没収されてしまう点だった。それが無いという事も大きかった。
「衣装はどうするのかしら?」
社長は聞いた。香はそこまでは考えていなかった。しかし、ルール説明の時に聞いた、服装は自由であり、本当に色々な服装の人同士が闘っている事を具体例を上げて説明されていたので、
「それに関しては少し時間を貰っていいでしょうか?」
と答えた。社長は、
「いいわよ。今週中には教えて下さい」
と答えたのだった。
そしてこの日は銀蔵に場内を案内されて、更に自分のロッカーを与えられた。香の一日目はこれで終わった。


香が休日に向かったのは何とブルセラショップだった。そこには売りに来たギャル風の女子高生かそれらを買い求める、どう見ても変態にしか見えないオタクしかいなかったので、黒のロングの髪にメガネを掛け、ジャケット着て膝位までの長さのスカートを履き上品な感じを振りまいていた香が入った時は、店員も客も驚いていた。しかし、逆にそういう人が売った物こそ高値で取引されるのでそういった事を期待した。
しかし、彼らの期待は裏切られる事になった―――。何故なら香は売りに来たのではなく、買いに来たからであった。そう、プロレスの試合で使う衣装用に、である―――。恥ずかしい気持ちはあったが、どうせもう二度と来ないし、ここで今自分をじろじろ見ている客にだって二度と会わない。だから構わない、と思った。
試合は有料サイトで放送されると聞いたので、自分の姿がインターネットで配信されるのと言う事である。その時、ストレートの黒髪+例えば開城学園の制服や体操服だったり、もし体にまだ合うようだったら中学時代のジャージ、等で闘ったりしたら同級生や先輩、後輩に、香が闇プロレスに染まっている事がばれてしまう事になる。それは避けたかったので、兎に角普段の自分と闘う姿の自分とは切り離せるようにしようと考えた。
その考えた結果が体操服+ハイレグブルマ姿だった。今や女生徒の体操服にブルマを採用している高校など何処にも無い。更にハイレグ型のブルマなどブルマが標準だった時代にだって無い。だからこそネットで自分を晒しながらも自分の正体を隠すのには丁度いいと考えた。
更に髪型である。ストレートのままでは何より自分の正体がバレバレであるし、そうでなくても長い髪は闘うのには邪魔であった。それならば、という事でポニーテールに纏める事にした。ポニーテールは快活なイメージがある。香は運動も得意であるが、そちら方面はすっかり忘れられて勉学の代名詞になっている。そんな今の自分とは、ポニーテールにする事によって全くイメージが変わる筈だと考えた。本当は髪を染めた方が良いのだろうが、今の黒い艶のある髪は気に入っていたので帰るときには色を落とす、という条件を含めても、絶対に染めたくない、色は抜きたくないと思っていたので染める事は考えなかった。
当然、メガネは外す事になる。服装、髪型を変えることによって自分のイメージを変えるのだが、メガネを外す事でそれの仕上げとなる。

またメガネをしたまま闘えば、先ず自分にダメージを与える凶器になってしまうし下手すれば失明してしまう。幸い香の裸眼視力は、本当に一時もメガネがないと生きていけない、という程悪いものではなく、0.4位なので試合で相手や物を認識するには充分だった。


次の日、闇プロレス丸紫に行った香は衣装を披露した。メガネを外しポニーテールに髪を纏め、そして半袖シャツの体操服にハイレグのブルマ姿―――。
「まるで別人ね」
社長にも言われた。香は社長にそう言われた事でこれで決まりだ、と思った。

香は自分の欲求を満たすため―――、そう技を掛け、そして掛けられた相手の痛がる姿を見る為に、今までトレーニング経験は皆無であったが誰よりも一生懸命取り組み、その御蔭で新人戦の頃には充分に力も強くなり、そして技も沢山覚えていた。
そして入門して4ヵ月後の今からおよそ2年前―――、新人戦の日が来た。相手はジェネラル美紗。香よりも身長は11cm、体重は18kg上回り、リング上で向かい合えば自分もそんなに小柄ではないがそれでも虎と兎が戦うみたいに感じた。

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