百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第二章 香4

試合開始のゴングが鳴った。ジェネラル美紗は肘を軽く曲げ両腕を前に差し出した、いつでも組みに来い、といったあんばいだった。
香は美紗の存在感に圧倒されながらもこれだけ大きな相手に自分が技を掛けたらどうなるだろうと考えると―――。

組み合った―――。香は予想以上の力で上から押し付けられる圧力に驚きたまらず振りほどいた。美紗は人指し指を立てて、クイクイと、もう一度来いよ、と挑発する仕草をした。
香は少し後ろに下がるや否や、助走を付けて美紗と組み合った。助走をつけた分勢いが付き、美紗をロープ際まで追い詰めた…かに思えた。
美紗の背中がロープに着いた感覚は香にも伝わった。その瞬間―――、美紗の太い腕でがっちりと頭を決められてしまった。
「あああ…ぐぁ」
香は声を出してその痛みに耐えた。そう、見せ場は最初だけで終わってしまったのだった。その後はグラウンド戦でがっちり痛めつけられ、悲鳴を上げていた。おまけに場外では鉄柵攻撃鉄柱攻撃と立て続けにやられ、場外で大の字になるという屈辱を味わった。
香は相手を大の字にしたいのであって自分がそういう姿を晒す事は屈辱以外の何物でも無かった。

香は気絶こそはしなかったが闘う力は失っていた。美紗は場外で大の字になっている香のポニーテールを掴み強引に引き起こし、そしてリング内に入れた。
香はポニーテールが乱れている事に気付き、ダメージを負い言うこと聞かなくなった体を動かし何とか直した。ポニーテールは戦闘のコスチュームであり、もう一人の自分の象徴なので解けてしまう訳には行かなかった。
もはや勝つ事はおろか、技を一つでも掛ける事すら諦めた香だったが、優秀な委員長である自分を守るために選んだこのコスチュームを崩される事だけは許さない、という意地だけは残っていた―――。

美紗が遅れてリング上に戻って来て、まだ倒れている香のポニーテールを掴み起こした。ポニーテールは少し乱れたが、今直したばかりなので解けそうにはならなかった。そして香が起き上がると美紗は自分の股に香の頭を挟み、胴を抱え込むようにクラッチして持ち上げようとした。香は足をばたつかせ抵抗したが、力が強くなり技も覚えたとはいっても所詮今までの新人に比べればレベルが高い、というだけの話であって、第一線で闘っている美紗から見ればまだまだヒヨッ子レベルであった。その為香は簡単に逆さに持ち上げられてしまった。香は観念して暴れるのを止めた。

『パイルドライバーで持ち上げられちゃったら、下手に暴れないで諦めて大人しく食らいなさい』

山崎亜希子に言われた言葉である。彼女はここのレスラーではなく実況を担当しているが、新人指導も担当していた。何故持ち上げられた後は諦めろと言ったのかというと、逆さにされた状態で暴れたりすると持ち上げた方が誤って離してしまう可能性があるからだった。そうなると頭からモロに落下し命に関わるからであり、落下しなくても、暴れる事により自分の体の位置が相手の腕から滑る事で下がり、技を実際に食らった時、首へのダメージが大きくなるからである。それを考えると、ここは大人しく食らっておいて、次に耐える事を考えた方がいいのである。
逆さまにされた香は恥辱を味わう格好になっていた。ブルマにシャツを入れないスタイルだったので、逆さまにされる事によりシャツがめくれ上がりこの時つけていたピンク色のブラジャーが丸見えになってしまったのである。香はそうなっている事には気付いていたが、もうこんな屈辱は味わいたくないから早く掛けるなら掛けろ、と思っていた。


美紗のパイルドライバーが入った。香はゆっくりと崩れ落ち、うつ伏せに倒れて一回ビクッと痙攣した。美紗は香の痙攣が止まった事を確認するとゆっくりと香の体を半回転させ仰向けにさせた後フォールに入った。
カウントが入る。香は意識はまだ失っていなかったので何とか返そうとしたが、片足を持ち上げるのが精一杯だった。
カウントスリー、試合時間は3分57秒―――。しかし香にはとても長く感じた。そして美紗が引き上げた後も暫くの間、肩膝を立てた大の字状態で天井をボーっと眺めていた……。

その後この屈辱を胸に香はトレーニングと練習に励み、その御蔭でメキメキと頭角を現した。1年前―――。ジェネラル美紗と同じ位の体格の外人レスラーが居た。そのレスラーとの試合の時、自分より大きく、そして遺伝的に日本人よりも力の強い外人相手にかなりの苦戦を強いられたが、技をかけられる度に美紗にやられた屈辱が蘇り、意地でもカウントスリーは許さず、そしてそのレスラーに技を空振りさせ、その隙をついて反撃に出た。様々な技を掛け、場外でラフファイトをし、最後にはそのレスラーをパイルドライバーを仕掛ける形に持って行った。外人レスラーは抵抗したが構わず引っこ抜き、そしてそのまま逆さ状態にするのではなく、カナディアンバックブリーカーの要領で肩に担いだ。そしてそのままタイガードライバーの様に相手の上半身をマットに叩きつけそのままの姿勢でフォールし、カウントスリーが入った。ポニードライバーの完成である―――。この時既に色々な人から技を掛ける悦びを感じながら勝利を収めていたが、この勝利は格別だった。いっぱいいっぱいだったので、そういう快感は無かったのだが―――。香は仰向けに倒れ、暫く両手で顔を覆っていたが、立ち上がると、場外で試合を見ていたジェネラル美紗に対し指差し、
「あんたをこれで沈める―――」
と宣戦布告をしたのだった。
因みにこの外人選手、この試合で引退したのだった。彼女にとって小柄な日本人など只の自分の引き立て役だと思っていて、唯一の例外がジェネラル美紗だった。しかし、眼中に全く無かった香に負けてしまった事によって闘う気力を削がれてしまったのである。もし、もう一回試合すれば、まだ香とはキャリアも格も違った為確実に勝ったとは思うが―――、そう、負けた原因は頭角を現して来ていた香を眼中に入れていなかった、頭からナメていたから―――、という事だったのである。
何にせよ香に負けた事によりこの選手は引退してしまったのであった。

香は未だジェネラル美紗には勝っていない。しかし、最近2試合では、時間15分37秒でパワーボム、時間13分25秒でウエスタンラリアットからのフォール負け、と最初は必殺技さえ出して貰えなかったのに対し、二つの必殺技を出させる所まで来たのだった。


「亜湖……、とさくら、だったよね―――? あなた達は美紗と何分闘えるかしら……」
香は呟いた。そして、
「でも、その前に片方は私と試合よね……。どんな技で苦しめてあげようかしら―――私は美紗みたいに4分で終わらせたりなんかしない、あなた達の実力に合わせて出来るだけ長い時間楽しませてもらうわ……」
と口元に笑みを浮かべて言った。そう、香の本来の目的である、相手に技を掛け、その反応を楽しむには新人戦はピッタリだった。しかも二人は下着姿なのだ。やられ姿のやらしさは他の選手の比ではない―――。そんな事を妄想していたら初めてオナニーをした時と同じ様に下腹部が熱くなり、無意識のうちに股間に手が行っていた。
「あ……うくっ……」
香は一旦股間を弄る事をやめ、メガネを外した後服を脱ぎ、下着姿になってからベッドに潜り込み、この妄想タイムを楽しんだ―――亜湖やさくらに技を掛け、彼女等が痛みに耐えて声を上げている場面場面を想像してパンティを濡らしていた。

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