百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第三章 新人戦1

亜湖とさくらは学校から帰って来た後、丸紫に来た、とは言っても上のマンションから下りてきただけなので時間は掛らなかった。
そして更衣室に入り着替える―――正確に言うと二人の場合は制服を脱ぎ下着姿になり靴をスニーカーに履き替える、という事だが―――。
ロッカーに鍵を掛けた後、練習室に入った。とは言ってもいきなりレスリングの練習をするわけではなく、最初はひたすら基礎体力造りだった。
銀蔵には、トレーナーが居るから待ってろ、と言われたので暫く待ってると、一人の小柄な女性が入って来た。その女性は先日社長と銀蔵以外ではここで最初に会った人だった。
「私は山崎亜希子。私が暫くは教えてあげるから頑張ってね」
と自己紹介をした。亜湖とさくらは先日廊下ですれ違った人がトレーナーだと知って驚いた。この日の亜希子は体操服とブルマではなく、ゴスロリ衣装を着ていた。ゴスロリ衣装でどうやって教えてくれるのか不思議に思った。
「とりあえず、生の体力を知りたいから―――こっち来て」
亜希子の指示に従い亜湖とさくらはついて行った。行った場所は色々な器具の置いてある場所だった。
測る内容は、学校で行ってる体力測定のようなモノであった。ただ、結果は背筋力、握力、筋持久力、全身持久力を重視する、と説明した。
「まあ、結果については今まで測った新人達と比べてどれ位の位置にいるか、って程度でいいわ。弱い所は強化すればいいんだから」
亜希子はそう付け加えた。亜湖とさくらは、
「はい」
と返事して測定に入った。

「ちょっと一緒していいかしら―――?」
その時声がした。亜湖とさくらが振り向くと、そこにいたのは香だった。香は体操着とハイレグブルマ姿で、白い靴下にスニーカー姿で壁に寄りかかって腕を組んでいた。その姿はほぼ試合の時と一緒だったが、メガネを掛け、そして髪はポニーテールにせずロングのままだった。香は、亜湖とさくらが、ポニーテールじゃないんですか? と聞きたそうな顔をしていたので、
「試合じゃないからいいのよ。いつも練習、っていうかトレーニングの時はこの格好よ。練習は練習でも実践練習だったらポニーテールにするけど」
と少し不愉快そうに答えた。そして測定している亜湖とさくらの横を通り過ぎ、ランニングマシンの所に行き、スイッチを入れてからそれに乗って走り始めた。

測定が終わった―――。亜希子は二人の数値を読み、
「新人の平均よりはいいわね。やっぱり体があるからかしら。でも安心しないでね。人を持ち上げるにはまだまだだから」
と言った。亜湖は、
「どの位必要なのですか?」
と聞いた。亜希子は、
「そうねぇ〜」
と顎に手を当てて考えてから、ランニングマシンで走り続けている香の方を向き、
「教えてやってよ、香」
と言った。香は亜湖とさくらが測定していた間ずっと走っていたので息は荒れ、汗びっしょりになっていた。亜希子に言われたのでランニングマシンから降り、スイッチを切ってから、肩で息をしながらトレーニング器具の一つ、ベンチプレスを指差して、
「あれで最低でも自分の体重は上げられないと話にならないわ」
と言い、亜湖の前に歩み出た。汗で体操服がぐっしょりと肌に付き、白いブラジャーが透けて見えていた。
「今これだけ息が上がってるけど、あなたを持ち上げる事位は出来るわよ。試してみる?」
と静かに、冷たく言った。亜湖は両手を顔の前で振り、
「い、いいえ。結構です」
と答えた。香は、
「そう……。でもあなた、いい数値出したわね―――」
と言ってくるっと向きを変え、さっき説明したベンチプレスの方へと向かった。背中側の方がよりくっきりとブラジャーが透けて見えていた。亜湖は何かそれが、いちいちブラジャーが透けて見える事がいやらしく感じていたが、自分達は透けて見える所かその姿そのものだったので、ブラジャーのベルトを指で触り確認したら恥ずかしくなって顔を赤らめてしまった。


香はトレーニングしながらずっと二人を観察していた。亜湖とさくらは測定が終わったら次は実際に体力づくりに入った。香が見たかったのはその取り組み方―――。
「いきなり重いのは体を壊すから、とりあえず軽いのから行くよ」
亜希子はまず自分が見本を見せてた、勿論ゴスロリ衣装で―――。それから亜湖とさくらにトレーニングさせた。スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの御三家と上腕三等筋を鍛えるダンベルカール等を教えた。
「ハアッ、ハアッ……」
亜湖もさくらも息を切らせて床に寝転がっていた。たった4つしかやっていないのにである。亜希子は汗を拭きながら、
「今日のトレーニングはここまで。明日は別のメニューを教えるわよ。息が整ったらランニングで締めましょう」
と言った。亜希子がトレーニングを終わらせたのは、亜湖とさくらが息を切らして寝転がっていたからではない。人間の体はそんなに沢山のトレーニングには耐えられないからである、それがたとえ香やジェネラル美紗だったとしても。その為、日によって体の鍛える部位を変えて行き、鍛える場所を回していくのである。結果的にほぼ毎日トレーニングしている事になるのである。

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