百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第三章 新人戦6

香はじりじりと力を入れてさくらをロープ際まで追い詰めた。そしてそのまま腕を取った。そしていつもなら脇固めに行くのだがそうせずにロープに振った。
さくらがロープの反動を使い、戻って来た所にショルダータックルを入れた。さくらが倒れると大きな音が鳴り響いた。そしてさくらが起き上がって来た所、素早く担ぎ上げて、反動を付けてボディスラムをお見舞いした。投げた、と言うよりはさくらの背中をリングに叩き付けた、というボディスラムだった。
「あああっ!」
さくらは右手で背中を押さえ声を上げた。きちんと受け身を取ったのにも関わらず物凄い衝撃が襲ってきた。更にその痛さに上体を起こしてしまった所、一瞬頭を押さえられ、背中を押さえてた右手を跳ね退けられたと思ったら、ベチッッ!、という鈍い音と共に再び激痛に襲われた。
「ああああっっ!!」
滅多に大声を出さないさくらが会場中に響く声を出しながら背中を両手で押さえ、横向きに倒れ、足をばたつかせていた。
香は、ボディスラムとサッカーボールキック、たった二発で動きが止まったさくらを見下ろしていたが、その後さくらをうつ伏せにさせ、足首をロックし自分の膝をさくらの腰に置く事で腰の自由を奪い、そして首に手を回した、さくらは首に回された香の手を外そうとしたが香の力が強くて外せなかった。
「いーよいしょおっっと」
香はわざとらしく掛け声をかけると同時に体を後ろに倒し、寝転がると同時にさくらの体を反転させて持ち上げた。弓矢固めががっちり入った。
「あああっっ!! ああっ! ああああっ!!!」
香は膝を使ってさくらの体を上下に揺すった。揺するとその動きに合わせる様にさくらが声を上げた。そして、さくらにしか聞こえない声で、
「ギブ? ギブする?」
と聞いた。さくらは腰を中心に上体を反らされ、揺すられる痛みに耐えながら、
「ああっ! ノ、ノー!! あああっ!」
と叫びながらもギブアップの意志は無い事を言った。香は、
「強情ね、もっとも始まったばかりだからギブされても困るけど」
と思い、もう一度さくらを揺すった。


「ああっ! ああっ! あああっ!!」
さくらはまた揺すられるのに合わせて声を上げた。そして早くも汗をかいていた。さくらの首をロックしている方の手がさくらの汗で少しずつ滑り始めた。香は掛けながらでも持ち直そうとそちらの方を見た時―――、さくらの胸が揺れているのがわかった。さくらは首をロックしている香の手を外そうとしたり、両手をばたつかせて暴れたりしていたので、脇が空いた状態になりブラジャーのベルトの脇よりも前側からカップが、そしてストラップが胸の動きに合わせて動いてたのが容易に分かった―――。そして視線をずらすと視界の中心にはブラジャーの背中側、ホックが入って来た。
香は一瞬ドキッとし、手を離してしまった。その事により、さくらは香の弓矢固めから逃れられた。
「う……っうう……」
さくらは目に涙を溜め小声を上げながら、横向きに倒れ両手で腰を押さえていた。香はさくらのツインテールの髪を掴み起こした。そして自分の左脇にさくらの頭を抱え込み、普通だったら右手で相手のタイツを掴んだりするのだが、香はさくらの太腿の付け根辺りに右手をやった。パンティを掴んでは万が一の事があったりしたらまずいと思ったから、というのと、今のさくらとの力の差を考えると脇で抱え込んだ方の力だけでさくらを持ち上げるのには充分と考えたからである。そして、高速ブレーンバスターを仕掛け、そのままブリッジの体勢で押さえ込んだ。
カウントが入った。さくらは何とかツーで返した。

「さくら……」
亜湖は控え室にあるモニターで試合を見ていた。試合開始から劣勢に立たされたさくらを亜湖は心配そうに見ていた。そして、その今のさくらの姿は次の試合での自分の姿でもある事を亜湖は理解した。そう、香とさくらはあれだけ実力差があるのだ。自分とジェネラル美紗だってその位の差はあるのだ、という事を。

試合時間10分経過―――。亜湖とは反対側の控え室でモニターを眺めていたジェネラル美紗は、ある事に気付いた。そう、香は最初から、自分がさくらの体に覆いかぶさるような技や、さくらがうつ伏せになるような技は一切使っていない事に―――。必ずさくらは全身の殆どが見えるように、かつ仰向けにされるような技を掛けられていたのだった。弓矢固め、四の字固め、ドラゴンスリーパー、胴締めスリーパー、アキレス腱固め、バックブリーカー等等―――。
「楽しむってこういう事かい―――全く呆れたな。それで10分引っ張るんだから」
そう、香は久々に、相手に技を掛け、その反応を楽しむ―――、という闇プロレスに入った時の本来の目的を楽しんでいるのだった。しかも、相手にそり技を積極的に入れて恥辱を与える、というおまけ付きで
『クスッ―――楽しめそうな新人が入ったわね。下着姿で闘うなんて……ずっと待ってたわ。そういうの―――』
香が亜湖とさくらを初めて見た時に呟いたセリフ―――。
『私は美紗みたいに4分で終わらせたりなんかしない、あなた達の実力に合わせて出来るだけ長い時間楽しませてもらうわ……』
香が新人戦の相手を買って出た日、家に帰った後で呟いたセリフ―――。
今さくらと対戦しながら、好きなだけ技を入れるという事を本当に心から楽しんでいた。だからこそ、普段使えないような技―――相手が熟練すれば簡単に抜けてしまえる様な技も含めてさくらに掛けていた。しかも締めたりする強さを調整しながら、さくらがうまくロープブレイク出来るように導き、ロープブレイクしたら技を解き、またマットの真ん中に引き摺って来て技を掛ける、という事を繰り返した。
一方さくらにとってはこのような香の闘い方は見た事が無かった。香は、技を受けてる時でも相手の隙を探し、それで自分が素早く攻撃に移る。つまり、効率を重視し自分の体力を減らさないようにしながら、かつ、なるべく短い時間で闘っていたのだった。しかし今回は全く違っていたので、さくらは香にどう対応すればいいのか全く分からなくなってしまい、やられるがままになってしまったのである。
さくらがリング中央で大の字になって息を切らせていると、香はさくらをうつ伏せにし、足を固めた。さくらは練習で亜希子に一回ロメロスペシャルを掛けられているので、香がそれをしようとしているのに気付き、両腕を体の前に持って行き腕を取られない様にした。しかし香は、さくらの背中、丁度ブラジャーのホックの下あたりを平手で思いっ切りひっぱたいた。その音が響き渡り、さくらは思わず声を上げ、そしてそこを手で押さえてしまった。香は素早く腕を取り、そしてさくらの両手首を絞り上げ反動をつけて後方に転がり、脚力で支えさくらを吊り天井してしまった。

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