百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第三章 新人戦8

「形だけ真似たって美紗の力は受けられないわ―――。私が2年間かけてやってきた事を一日でやろうなんて、馬鹿にするにも程がある―――」
香は不愉快そうにモニターを見ながら呟いた。

亜湖は自分が予想していたよりはるかに強い力で押し込まれた為、手四つを強引にほどこうとした。しかし、美紗はほどく事を許さず、そのままロープ際まで押し込んで行った。そして亜湖をロープに押し付けゆっくりと手四つを解く。亜湖も両手を上げ仕切りなおそうとした所、美紗は亜湖の腕を取り、ロープに振った。そして亜湖の後ろを追いかけ、跳ね返ってきた所にショルダータックルを入れ、倒れた亜湖の足を取り、太腿の内側にエルボーを落とした。
「ああああっ!」
亜湖は声を上げた。更に美紗は起き上がり、ストンピングを同じ所に入れた。また亜湖は声を上げる。そして亜湖はその部分を押さえながら足を閉じて横向きになった。美紗は亜湖の髪を掴んで起こし、膝を掴んで持ち上げ、自分の足に落とした。
「ああ―――っ!」
ニークラッシャーをまともに食らった亜湖は転げまわっていた。
「香―――、残念だけど、こいつ10分は持たないぞ―――お前の新人時代よりも持たない」
美紗はそう思った。と言うのは、亜湖から、攻撃して来そうな気配を感じなかったからである。美紗は亜湖の髪を掴み、起こしてから今度は担ぎ上げ、走った後そのまま自分の体を浴びせる様に落とした。パワースラムである。
カウントが入った―――、亜湖はカウントツーで返した。美紗が亜湖の髪を掴み起こすと亜湖は起き上がりながら、パンティを親指と人差し指でクイッと素早く直した。美紗は亜湖の髪の毛から手を離し、その手で首を決めるようにがぶる体勢になった。亜湖は膝を落として耐えた。その状態で膠着したが、美紗一旦亜湖の首から手を離し、そして両腕を亜湖の背中に打ち付けた。
「あ……ぐっ!!」
亜湖は声を出し、背中を押さえた。まるで丸太で殴られるような衝撃が走り呼吸が止まりそうな勢いだった。


まさかこんな展開は予想していなかっただろう、さくらも、香も、そして誰よりも実際に亜湖の相手をしている美紗が―――。8分経過。
亜湖はうつ伏せになって倒れていた。それだけだったらともかく、亜湖は立っている時間よりも倒れている時間の方が遥かに長かった。しかもそれが試合の序盤から、である。尤も新人戦で美紗と当たった人は例外なくそうなるのだが、それにしてもずっとその様な状態で8分も経っているのである。しかも最初にカウント取られてから今迄、返すタイミングは殆ど同じでカウントツーで返している。
「どうし……て……?」
控え室でモニターを見ていた香は驚いていた。自分の場合はあっという間にカウントスリー取られたのである。確かに亜湖は新人の中では香と同じく成長が早いが―――。
美紗は時間を気にした。時計は一秒一秒刻んでいて、8分30秒に迫った。あと1分30秒で、亜湖にラリアットまたはパワーボムを叩き込まなければならない、香との約束だから―――。
亜湖の髪を掴んだ。そして今までと同じ様に起こしそして亜湖の頭を脇で抱え込み、そのまま後ろに倒れた。DDTである。亜湖はリングに頭を打ち付けられて―――。肩膝立てた状態で大の字になり、痙攣してしまった。
4台あるカメラのうち、2カメがその様子をとらえ、事務所のモニターの1002チャンネルと控室のモニターに映し出された。この時は偶然だった―――亜湖の足の方から―――。黄色いパンティのアップであった。フロント、バック、クロッチの継ぎ目は勿論細かい模様、汗が染み込んでる所とそうでない所まではっきりと分かる位だった。そのパンティから出ている右足は膝立て状態で、左足は投げ出された状態になっていて、汗の一粒一粒がはっきり見えた。そして腰を中心にビクッ、ビクビクッ、と痙攣していた。
パンティのフロント部分から視線を画面の奥へやるとパンティのリボンが痙攣に合わせ空気の抵抗を受け少しなびいていて、その更に奥に胸―――パンティと同じ色のブラジャーが見えていて、胸も腰の痙攣より少し遅れてブルッ、ブルッ、と軽く揺れていた。胸の谷間の更に奥には亜湖の顎―――、完全に顎が上がっていた。別角度から見た顔は―――、ボブカットは完全に汚く乱れ目を閉じ口を少し開けていた。
「あ……亜湖センパイ―――。もう、いいよ……」
さくらは控え室で震えながら言った。
「またずいぶんといやらしいアングルをおさえたものね、痙攣だと尚更―――」
社長は落ち着いて試合を見ていた。別のモニターで1003チャンネルを見たら、亜湖を見下ろす美紗の表情を映していた。
香は画面から目を離さず試合を見ていたが―――先程消えた劣情、下腹の疼きが少しずつ戻って来たのを感じていた。しかし、ここまで来たら亜湖が10分耐えるか見届けないと、と思い、黙って試合を見ていた。

試合は亜湖の痙攣が止まるまで一時中断された。レフリーが美紗を止め、そして亜湖の頬を叩いたり声を掛けたりしたが亜湖は気絶から回復しなかったので、
「水!」
レフリーがリング下に向かって言った。しかし、レフリーに水が届く前に亜湖は目を覚ました。そして片手を頭に当て首を振った。
それを見てレフリーは試合を再開させた。美紗は亜湖の髪を掴み起こした。亜湖のボブカットは汗で濡れていた。その時、
「10分経過―――」
と時計係が場内放送をした。
「香―――約束だ」
放送を聞き、美紗は呟き亜湖の頭を股に挟み胴をクラッチした。一回持ち上げようと少し力を入れた。亜湖は何とか踏ん張り持ち上げられないようにしたがそれでも持ち上がったので足をばたつかせた。
美紗は亜湖が抵抗したので安心してわざと一回力を抜いて下ろし、元の体勢に戻った。そして次は少しではなく思い切り力を入れ抵抗する亜湖を根刮ぎ引っこ抜きそのまま持ち上げて後頭部をリングに叩き付けた。亜湖はくの字型―――頭の横に膝が来て膝と爪先を軽くリングにぶつけ、目の前の自分の股間、汗で濡れてる黄色のパンティを見る体勢になった。そして美紗も亜湖の尻―――パンティのあたりにかぶさり、体重を掛け押さえ込んだ。パワーボムである。
カウントが入る―――
「ワン、ツー、スリー」
亜湖は返す事が出来なかったどころか足を動かす事すらままならなかった。美紗は亜湖から体をどけると亜湖は頭を下にしたくの字型は解け、ゆっくりと体が伸び、大の字になった後両腕で顔を覆った。
美紗は両腕で顔を覆っている亜湖を見下ろし、
「10分耐えた根性だけは認めてやるよ。新人では初めてだ。でも攻撃しないんじゃ、あたしにも香にも勝てない」
そう言って美紗は勝ち名乗りを受けるや否やさっさとリングを降りて控え室に戻った。

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