百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第三章 新人戦10

その後香の様子がおかしくなったが、しかし、さくらはこの時はもう起こされないと立つ事も出来ない状態だったので、ここから逆転、とかは考えられなかった。亜湖もそれは分かっていたので、そのシーンでどうこう、という事ではなく、
「二人でもっと練習して、こっちからも技を掛けられるようにして勝てるようにしようね」
と言った。さくらはニコッと笑って、
「ハイ、センパイっ」
と答えた。
一方亜湖の試合になると、さくらは、
「やっぱり美紗さんは攻めが厳しいですね」
と言った。兎に角次から次へと技を出し、亜湖は返すのが精一杯、という感じだった。さくらは改めて見ても、この美車の怒涛の攻めを受けながらカウントツーで返し続ける亜湖の体力は凄いと思っていた。
「……っ―――!」
亜湖は何も言えずに顔を真っ赤にした。そのシーンは気絶したあのシーン。このビデオに収められたこのシーンの映像は2カメのもの―――。亜湖の足の方から見事に撮影されていた。パンティ、股間を中心に痙攣し、更に画面の奥で胸も揺れていた。そして、結構長い時間ビクッ、ビクッ、と痙攣していた事が分かり、亜湖はもうやらしくて、恥ずかしくて何と言えばいいのか分からなかった。そこに意外な言葉が飛び込んで来た。
「センパイ―――、この痙攣、マスターしたらいいんじゃないんですか?」
さくらだった。さくらは確かに控え室で見ていた時は亜湖がこのまま死んでしまうのではないか、と不安に駆られていたが、亜湖が無事であり今こうやって一緒にビデオを見ているのでさくらは冷静に分析出来ていた。自分がロメロや弓矢を掛けられているシーンよりも格段にやらしく見えたからこそ、逆に冷静になれたのかも知れない―――。
亜湖は驚いた。さくらはいつも自分の後ろについてくるだけだったが、時々物凄く大胆な行動に出る事がある。今ビデオを見ているこの時も二人共下着姿な訳だが、下着姿を最初に選択したのはさくらであり、更に今の痙攣に対しても冷静に意見を言ったのだった。
「だって、わざと―――意識的に痙攣すれば、その時休めるじゃないですか―――? それに本当に今日みたいに痙攣しても、本当に痙攣しているのか、わざとなのか、分からないように出来るじゃないですか。そうすれば相手の隙を誘えるかも知れないですよ?」
勿論痙攣ばかりしてはわざとらしくなるので、ここと言う時、一試合10〜15分として二回無いし三回位やればいいと言うのだ。
「凄くエロい、って思ったけど―――。私達、下着姿で闘ってる時点で充分エロいよね……」
亜湖はさくらに言った。さくらは、
「―――はい。とっても」
と言った。いつもの亜湖に付いて行ってる様な可愛らしい後輩のさくらの声では無かった。さくらは尊敬する先輩の亜湖にこんな事を言った以上自分もどんなにいやらしくてもエロくてもパンティは脱いではいけないというルールの中で、何でもやらなければいけない、と覚悟を決めていたような返事だった。(勿論脱ぐ気などさらさら無いが―――。
「うん分かった、さくら。私覚えるから、練習に取り入れよう」
恥ずかしい事には変わりなかったが、さくらの提案は理に適っているので亜湖は痙攣の練習もやる決意をした。それを聞いてさくらはさっきとは違い可愛く、
「ハイ、センパイ。頑張りましょう」
と返事した。


亜湖とさくらは反省会を終えた後シャワーを浴びて服を着る為に更衣室に行った。ドアを開けると電気が一つだけついていて、中は薄暗かった。
ガタッ!
奥から音が聞こえた。亜湖は、
「誰かいるんですか?」
と呼び掛けたが、少しごそごそと音がしただけで返事は無かった。亜湖は不審に思い、音の方へ行った。するとそこには体操服とパンティ姿で亜湖に背を向けて床に座り込んでいた香の姿があった。
「か、香さん―――どうしたんですか?」
亜湖は驚いた。まさか香が、しかもそんな格好でいるとは思わなかった。香は顔だけ亜湖に向け、
「着替えてたら、目眩がしたから休んでただけよ。だから気にしないで」
香は落ち着いて答えたが内心はこんな所でオナニーをしてた事がバレたら、と思って誤魔化す事に必死だった。亜湖は、
「顔色悪いですよ…医務室行きましょうよ」
と言ったが、今立ち上がって亜湖と向かい合ったらしたら濡れたパンティ姿を晒すことになるので絶対に見せるわけには行かなかった。
「結構よ。だって毎月ある事じゃない。あなたにも―――」
と亜湖に対し軽く顔の前で手を振り、あくまでも冷静に言った。亜湖はそう言われてしまうと納得するしか無かった。香は、
「一つだけお願いするわ―――バスタオル持ってきて」
と言ってロッカーの鍵を亜湖に渡した。亜湖は言われた通りにバスタオルを出して、鍵と一緒に香に渡した。香は、
「ありがとう」
と礼を言った。そして亜湖がロッカーの陰に入り見えなくなった時に立ち上がってブルマも忘れずに持ち、急いでシャワー室に入った。

亜湖とさくらは香がシャワー室から出て来るまで待ち、香が出て来た時に挨拶をしてそれから入った。
香は服を着た後自分が"汚した場所"を雑巾で拭き取り洗い場で洗いながら安堵の溜め息をついた。
「暗くしといて―――良かった」
そう呟き、雑巾を元の場所に戻しておいた。


「香さん、帰っちゃったんだ」
シャワー室から出て来たさくらが言った。亜湖も続いて出て来て、
「具合い悪いみたいだから……今日はもうゆっくりした方がいいからね」
と答えた。それから二人は服を着て、事務所にいた社長と銀蔵に挨拶してから帰った―――。

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