百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第四章 フィニッシュ技とパートナー4

亜湖とさくらは香のアドバイスに従って、トレーニングと受け身をやった後、フィニッシュ技を開発することにした。
事務所のパソコンでプロレス技について色々調べ、どれにしようか話し合った。
「誰も使ってないのがいいよね」
亜湖が言った。さくらは、
「そうですね。あと、センパイは背があるから見映えがいいのがいいかと」
と言った。亜湖は、
「いくつか候補があるから後で試してみようか」
と言った。さくらは、
「はい。受け身ちゃんと取るから掛けて下さい」
と笑顔で答えた。亜湖は、
「さくらは何にするか決めた?」
と聞いた。さくらは、
「ムーンサルトがかっこいいって思ったけど避けられるよね……?」
と聞いた。ここのプロレスは相手の技を受けるのは普通のプロレスと一緒だが、隙の大きい技は避けろと言われている。ムーンサルトを出そうとトップロープに登ってる間に捕まって後ろに投げられるのがオチだ。
つまりムーンサルトに限らずトップロープに登る技は必ず返されると思って間違いない、という事だった。
「スープレックスかなぁ……ジャーマンが意外にも居ないし」
さくらは悩んだ末、ジャーマンスープレックスにした。

亜湖とさくらは第三練習室で練習した。その時、第一練習室から時々叫び声が聞こえて来たが―――。
亜湖はさくらにネックブリーカー、タイガースープレックス、バックドロップ、そしてDDTを掛けてみた。さくらは技を受けた瞬間に、
「あああっ!」
と声を上げ、打ち付けられた所を押さえていたりした。その中で一つ、さくらが声を上げられない技があったので、亜湖はそれにしようと思った。
「どうしてですか?」
さくらが聞くと、亜湖は、
「今みたいにスタミナがある時に掛けても声が出なくなる―――って事は効いてるって事では?」
と答えた。さくらは、
「そうですね。確かに凄く効きました。痛いんじゃなくて電気ショックを受けて動けない―――みたいな」
と言った。そして少し乱れたブラジャー、パンティを指で直し、その後、緩んでいたツインテールをきつく縛り直した。

返そうとしても返せない技―――、ぴったりだった。亜湖はほぼ170cmあるので結構な高さから落とす事になるのだ。亜湖は美紗や香を投げるシーンを想像して武者震いをした。


とりあえずフィニッシュ技は決まったので通常の練習に戻り、グラウンドの攻防を中心にやっていた時、亜希子が入って来た。
「気合い入ってるわね。次の試合を教えて上げる」
亜希子は人気ライトノベルのキャラの学校の制服―――変形のセーラー服のコスプレをして、髪の左右にリボンまでつけていた。その格好で偉そうに演説したり何処かの備品を強奪したりすればラノベのヒロインにそっくりだ。
「こんにちは。しかし、よく毎回いろんな格好してきますね……」
亜湖が聞くと亜希子は、
「あんた達と同じよ。毎日下着替えるでしょ?」
とサラッと答えた。確かにそうだが改めてはっきりそう言われると恥ずかしかった。亜希子は、
「次はタッグ戦ね。香の要望よ。あんた達対香とジュディ」
と告げた。試合の日は一週間後に決まった。亜湖とさくら、そしてジュディは経験が浅く、香はタッグ経験がなかった。
「タッグに関してはみんなド素人。どんな試合になるか楽しみって事ね。多分相場も荒れるわ」
亜希子は意地悪そうな笑顔で言った。そして、
「あと、あんた達は人気急上昇中だから頑張ってね」
と言った。亜湖は、
「どうしてですか?」
と聞くと亜希子は、
「闇にエロはつきものでしょ? 下着姿の亜湖さんっ」
と亜湖の胸を指差し、ブラジャーをツンとつついて言った。
「……っ!!」
亜湖は顔を真っ赤にして、亜希子から顔をそらした。亜希子は、
「フフッ、安心しなさいな。未成年は顔はモザイクだし、名前は本名出してないよ。リングネームか、適当な名前よ。例えば亜湖は”あ”だからA子だし、さくらは亜湖の後輩だからB子ね。香はリングネームをポニーで登録してるからその名前で配信されてるの」
と教えた。亜湖もさくらもオッズ等の方は全く見て無かったのでそっち方面は分からなかったが、今の亜希子の説明を聞いて安心した。


亜湖とさくらはそれから一週間、やれる事は全てやり、初のタッグ戦に備えた。香を向こうに回して勝てるとは思わなかったが、
亜希子の話だと、新人戦を終えたばかりの亜湖とさくらは、美紗や香レベルの人が努めるメインイベントにはレベル的にまだまだ遠く、このタッグマッチが終わったら、良くてシングルの対戦は無く、悪ければタッグマッチでも対戦が組まれない。
その為、亜湖もさくらも折角香が希望した試合なのだから、精一杯闘おう、と思った。

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