百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第五章 タッグマッチ3

香は、恥ずかしさに顔を赤くしながら股間を押さえている亜湖の髪を掴んで起こした。亜湖は足と腰、股間にダメージを受けているため、フラフラしながら立ち上がった。香はジュディを呼び、二人で亜湖をロープに振った。そして亜湖とは直角方向に走り、はね帰ってきた亜湖にサンドイッチラリアットを入れた。
亜湖は膝から崩れるようにうつ伏せに倒れ、右手で頭を押さえた。頭がガンガンし、体も思うように動かなくなってきた。
香がフォールした。亜湖はカウントツーで返した。
香は亜湖の髪を掴んで上半身だけ起こし、後ろから右脇に亜湖の首を決め、左腕で亜湖の左腕を固め、ドラゴンスリーパーを掛けた。
「んっ……」
亜湖は何とか声を出した。そして、前に投げ出された足をバタつかせた。レフリーが亜湖の手を取った。亜湖はしっかりと握り返し、意識はしっかりしてることを伝えた。
香はそこからさらに絞り上げ、亜湖の上半身を反らし、亜湖の下半身の自由を奪う為に、左足を亜湖の左太股の内側に入れ、膝で亜湖の胴が前に逃げないように押さえ付けて、それから上下にゆっくりと揺さぶった。
「んっ、んあっ!」
亜湖は何とか声を出して耐える。そして亜湖の胸がそれに合わせて軽く揺れた。香は、
「ギブ……? まさかギブじゃないわよね?」
とドスの効いた声で聞いた。亜湖は空いてる右手を前に出し、左右に振り、
「ノー、ノーっ……」
と答えた。香はそれを聞いてドラゴンスリーパーを解いた。亜湖は後ろに倒れて仰向けになった。香は次は亜湖の足を取り一瞬で四の字固めを掛けた。
「あああーっ! ああっ!!」
亜湖は両手で顔を掴むように覆ったり両腕を広げマットを叩いたり、上半身をバタバタさせたりしながら声を上げ耐え続けた。香は引っくり返されないように両肘をマットにつけて体を固定した。そして、亜湖がギブアップしない位に足に掛ける力を調整した。
亜湖が四の字に耐えながら香を引きずってロープを目指したが、香は特にリングの中央に引き戻したりはしようとしなかった。ロープブレイクしたらしたでそこで解いて、別の技を掛ければいいと思ったからである。しかし、
「あぐっ!」
香が声を上げた。そして四の字を解いてしまった。ダメージ回復をしたさくらがエルボでカットしたのだった。そして亜湖を自陣まで引きずり、タッチした。
香は四の字を掛けるまではさくらを見ていた。その時はさくらは倒れたままだったが、四の字に移行してからはさくらを見ていなかった。さくらは起き上がった時、それに気付き亜湖を救出する為に奇襲を掛けた。
香はまさかのさくらの攻撃だったのでダメージを受けてしまい、エルボを受けた胸を押さえ、咳込んだ。そして半回転しうつ伏せ状態になり、そこからゆっくり起き上がろうとした時、首筋に衝撃がはしり、うつ伏せに潰れてしまった。
さくらのギロチンドロップがまともに後頭部から首筋に入った。香は後頭部を押さえ、膝から下を軽くばたつかせていた。さくらは香を起こさずにそのまま仰向けにし、フォールした。
「ワン、ツー!」
カウントツーで香は返した。香が直ぐに起き上がらないと見るとさくらは香の上に馬乗りになり、さっき、コーナーで亜湖にアイアンクローをやった仕返しとばかりに香の顔を掴んでマットに押し付けた。
「あああっ! ああ……、ああああっ!!」
香は声を出してさくらのアイアンクローと言うか只、両手で香の頭をマットにグリグリと押し付けているだけの技に耐えていた。さくらは手を離し、立ち上がって香のポニーテールを掴んで起こした。それからチラッと亜湖の方を見たが亜湖はまだ倒れたままだった。
「センパイの分っ!」
さくらはそう言って香をロープに振った。香が跳ね返ってきた所にさくらはレッグラリアットを入れた。香は後ろに倒れ、声を上げた。さくらはもう一度香のポニーテールを掴み起こした後もう一度ロープに振り、自分も逆方向に走ってロープの反動を利用し、香にラリアットをしようとした。―――が、

「あああっっ!!」
さくらは首から背中に掛けてマットに叩きつけられて声を上げた。香にラリアットを決める筈が、逆にネックブリーカーを受けてしまったのである。香はさくらに乱されたポニーテールを直し、そして、さくらのツインテールを掴んで起こした。それからリングの中央でボディスラムを入れた。
「あああっ!」
会場に音が響くと同時にさくらは声を上げ、背中を手で押さえて耐えた。しかし、無理やり上半身を起こされ背中を押さえていたその手を退けられた瞬間、鈍い音とともに背中に激痛が走った。
「あああああっっっ!!」
大声を上げた後また背中を手で押さえ、そして首を振った。ツインテールの髪も一緒に揺れた。香はすぐにさくらのツインテールを掴んで起こすと自軍のコーナーに叩き付けた。
「あうっ!」
さくらは声を上げた。香はジュディとタッチし、ロープの外に出た。そしてポニーテールを直した後、コーナーに寄りかかり後頭部を押さえていた。

「タッグの闘い方じゃないよな。アレは」
事務所で観戦を続けている美紗は香の闘い方を見て言った。タッグならシングルよりも早く香、というか香のチームは倒せる。香は標的にせず、ジュディを集中的に攻撃すれば良いからである。
さらに形ではタッグ戦が成立してるように見えるが、香が亜湖にこだわってるのは見え見えで、ジュディを活かしてないし、さらにさっきのカットのされ方を見ても途中からまるでさくらを警戒していなかった。今のタッチにしたって作戦的なものではなく、単にダメージ回復と体を休める為に過ぎない―――。
「ま、我の強い香はタッグの闘い方を知らないから―――な。これで覚えたらシングルよりも強敵になるかもしれないけど」
美紗は呟いた。

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