百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第五章 タッグマッチ6

「……こセンパイ! こんな格好で死んじゃイヤだよ……」
さくらの声で亜湖は目を覚ました。周りを見てみると控え室だった。
「う……。さくら……? 控え……室??」
亜湖は頭を押さえながら言った。
「良かった、センパイ。目覚ました……」
さくらは亜湖に抱きつき喜んだ―――が、着替え終わった香が入ってきたことに気付き立ち上がるなり、
「か! 香さん! 酷すぎますよ。ブラジャー奪ってその上半殺しにまでして、酷すぎます」
と香に詰め寄った。香は、
「ブラジャーの件はアクシデントよ。私もタッグ戦は初めてだったし、只タッグデビュー戦で勝った証として預からせてもらっただけよ」
とすまし顔で言った。さくらはその香の態度に腹が立った。メガネを外してポニーテールの髪型にし、半袖+ハイレグブルマというポニーの格好でならまだしも、ロングのストレートの髪型にメガネを掛け、上品なジャケットとスカートの姿で、さも当然のように言われたのだから―――。
亜湖はさくらの言葉で初めて自分がパンティ一枚姿―――乳房を露にしている事に気付いた。しかし、今更隠す気は起こらなかった。頭がガンガンしているのと、試合で何時そうなったのか分からないけどそうなってから今までずっとパンティ一枚姿を晒してきた事、そして今ここには自分の他にはさくらと香、そしてリングドクターしかいなかったので隠しても仕方が無いと思ったからである。
さくらは香に歩み寄り、
「返して下さい! おっぱい丸出しで闘うなんて言った覚えはありません!」
と右手を出して言った。香は、何を言っても無駄だろうな、と思い、さくらを見据えた。―――そう、自分を舐めて掛かっていたジュディに向けた目線と同じ目線を―――。そして、その目付きのまま、
「返して欲しかったら私に勝つ事ね。それに、そのセリフはさくら、あなたが言う事じゃない」
と言った。さくらはゾクッとした。―――怖いという感情―――。さくらが静かになったので香はその視線を解き普通に戻り、
「ブラジャー一つしか持ってないわけじゃないでしょ? それに下着姿を選んだ時点でそうなる可能性がある事は想定に入れとくべきだったんじゃないの?」
と言った。そうだった―――社長が最初に言ってた、
「まあ、椅子攻撃や鉄柵鉄柱、コーナー攻撃がある以上、ブラジャーが取れてしまう事は考えられますけどね」
と。

さくらが一歩下がった所で亜湖は上半身を起こし、
「さくら」
と声を掛けた。さくらは、
「セ、センパイ……?」
と振り向いて聞いた。亜湖は、
「香さんの言う通りだよ。第一私達は負けたんだし、それに下着姿で闘ってるんだから覚悟は出来てないといけないんだよ。それにさくらは覚悟を決めたんじゃなかったの?」
と聞いた。さくらは、ハッとした。入門した時、服を脱いで下着姿を選択した時点で覚悟を決めた事、そして亜湖に痙攣の練習を提案した事で自分も後には引けないと新たに覚悟を決めた事―――、それを思い出し、
「ごめんなさい、センパイ……」
とシュンとして亜湖の所に戻りしゃがみこんだ。亜湖は頭を押さえながら立ち上がり、ありがとうとさくらの肩をポンと叩いた後、香の前に行き、
「私が勝ったら、ブラジャー返して下さい」
と言った。香は、
「いいわ。挑戦はいつでも待ってるわ。但し―――」
と言った後、続けて、
「タッグ戦の時は亜湖が私からスリーカウント取った時に限るわ。兎に角"亜湖が私に勝つ"こと。いいね?」
と言った。亜湖は、
「分かりました」
と言った。そしてしゃがんでいるさくらに、
「さくら、早く着替えよう」
と言った。亜湖が更衣室のドアを開けた時、香は、
「じゃ、私は先に外で待ってるわ」
と言った。亜湖は、
「え?」
と聞いた。香は、
「疲れたでしょう。食事にでも行かない?」
と言った。ついさっきまでの試合モードとはうって変わって食事に誘われたりしたので亜湖もさくらも、香の切り替えの早さに驚いた。さくらは、
「リ、リングを降りたらお友達って訳じゃないって……?」
と言うと香は、
「その通りよ。友達になった覚えはないわ。ただ、あなた達と一緒だと退屈しないの」
と答えた。亜湖は、
「お言葉に甘えさせてもらいます……」
と言った。

亜湖とさくらは着替え終わった後、玄関に行くと香が待っていた。そして、
「早くしなさい。行くわよ」
と言うと亜湖とさくらは、
「は、はい」
と言った。そして三人で出かけて行った。

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