百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第六章 トレーナー1

亜湖とさくらはいつもの様に丸紫に来て、いつもの様にトレーニングや練習をしていた。そこに香が来た。
「あら、亜湖とさくら―――。先に使ってたのね。じゃ、失礼するわ」
香はこの日は格好は体操服とブルマ姿だったが、髪型はポニーテールにはせず、ロングのままでメガネを掛けていた。つまり、実戦練習は無しでトレーニングだけで済ますつもりだった。
「札、きちんとかけかえなさいよ」
そう言って、亜湖がすみませんと言ったのを聞いて、別の練習室に行こうとしてドアノブに手を掛けようとした時、ドアが開いた。
「あ、香。ゴメンゴメン、使用中ね」
香とほぼ同じ身長で耳に掛る位のショートカットの髪型で、香より年上―――見た目20代中盤位の人が後頭部に手を当てながら言った。香は、
「私じゃないわ。先客がいるのよ」
と答えた。女の人は、
「あれま、珍しい。香が空き部屋探しなんて―――。香クラスだったら”空けろコラ”でいいんじゃないの?」
と笑って言った。香は、
「何を馬鹿な―――。そんな事はしないわ」
と否定した。やれば亜湖、さくらだけでなく中堅クラスの人でも部屋を空けてくれるだろうが、自分の実力を鼻に掛けている、自惚れている感じがするので香は今までもやって来なかったし、これからもするつもりは無かった。女の人は、
「でも、他の部屋も一杯だよ」
と言った。香は、
「そう……。ならここでトレーニングするわ。二人が使ってるのはリングだし、私は今日はトレーニングだけのつもりだったから」
と答えた。女の人は、
「ふーん。ならあたしもここでやるよ」
と言って入って来た。女の人は頭に細いヘアバンドをし、臍出しすなわち胴の下側三分の一は肌が出ていて肌にぴったりつく感じの白いTシャツを着て黒い半ズボンをはいていた。そして、ニーソックスにスニーカーとある意味香よりも露出の多く体のラインが目立つ格好だった。

「いや〜、いい眺め。じゃなくて間近で見るといやらしいね〜」
下着姿の亜湖とさくらが間接技の練習をしてる時にリングの外から声がした。二人はその声の方を向き、技の練習を中断して立ち上がった。見ると香ともう一人女の人がいた。改めて言われると恥ずかしく感じ、亜湖が顔を赤くしてると、その女の人は、
「え? もしかして純情? それで下着姿なんてギャップが面白いわ!」
と言った。亜湖は、
「あ、あの……あなたは……?」
と顔を赤らめたまま聞いた。すると女の人は、
「あたしは草薙良。草薙一族の末裔よ。よろしく」
と自己紹介した。亜湖は頭を下げて、
「長崎亜湖です……。よろしくお願いします」
と挨拶した。さくらも続けて挨拶した。良は、
「亜湖ちゃんいうのね。あ、そうそう。あたしが次の対戦相手だから。10分以内に倒すからね。そうすれば美紗より早くあんたを料理したって事で再戦要求しやすくなるし」
と言った。良は亜湖を踏み台に程度にしか考えなかった。香はそれを聞いて不愉快そうに、
「それは無理じゃないかしら? 亜湖は実力はまだ無いけど体力はあるわよ」
と言った。実際に試合してみて亜湖の体力を知った香は、良に一笑にふされた事は不快だった。良は、香の方を向いて、
「香も冗談きついんだから〜」
と片手で口を押さえながらもう片方の手で猫が前足で猫じゃらしにじゃれる手付きをした後亜湖に向かって、
「亜湖ちゃんは試合してたってより倒れてただけじゃん。立ってた時間なんて1分? 2分? ま、見てる分には面白いけどさ」
と笑いながら言った。そして、
「あんた人気だけはあるんだよ? 顔はモザイクだけど、かわいいって紹介されてるし。身長だって体型だっていい上に下着姿だからね。それで胸揺らしたり痙攣したりおまけにブラジャー外れて乳首露出したら―――嫌でも人気でるよ。エロ見たさとナントカ贔屓ってヤツ?」
と挑発するように言った。いくら先輩だからといって無礼にも程がある。亜湖は不愉快に思ったが、さくらが居るし、まだ一勝もしていない新人なので黙って耐えた。
「い、今のは我慢できません! センパイに謝って下さい!」
さくらが亜湖の前に出て言った。良は、
「あたしは事実を言ってるだけよ。かわいい後輩がイチャモンつけてきたけど違うところある? ”亜湖センパイ”?」
とさくらにではなく亜湖の方を向いて言った。亜湖は目を閉じ下を向きながら首を振った。悔しくとも良の言った事は事実だった―――。そして、
「さくら……、気持は嬉しいけど勝った事無い私達は我慢しなきゃ……」
と注意した。さくらは、
「センパイ……」
と言うしか出来なかった。
「良く出来たセンパイね。これからもそうやって低脳な後輩を指導してやってね」
と笑って言った。すると香は、
「草薙さん―――。その位にしといた方がいいわよ。私が私を甘く見てた人を倒して引退させた事は知ってるでしょ?」
と良の方を見ずに少し声にドスを効かせて言った。良は、
「わ、分かったよ……香がそこまで言うなら」
と怯んだ。香はそのままトレーニングマシンの方へ行った。

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