百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第六章 トレーナー3

亜湖はさくらに、
「ちょっと待ってて」
と言って練習室から出た。自分で探すよりこういう話は社長か銀蔵にした方が早いかと思い、事務所に向かった。その途中で銀蔵に会ったので、亜湖はトレーナーの話をした。
「そうか―――、なら佐藤さんがいいだろうな」
銀蔵はそう言った。そして内線で話をした。
「しばらくここで待っていよう」
銀蔵は壁に寄り掛かり腕を組んだ。亜湖は銀蔵の隣に並び、壁に寄り掛かって手を後ろで組んだ。銀蔵は眉一つ動かさずにいた。体格、体型的にも銀蔵と吊り合いそうな年頃の女が下着姿で隣にいるのに―――である。
亜湖はチラッと恥ずかしそうに銀蔵を見た。銀蔵はやはり表情を変えずに前を見据えていた。そして視線を銀蔵から自分の体へと移した。すぐ下には胸が見える―――手を後ろで組んでいるのでピンと胸を張る形になり、その胸の上にピンク色のかわいいブラジャーを着けていた。そしてもう少し視線を下に胸の上から覗き込むように見た。鍛えられて締まった腹部、そしてへそ、更に下に行くと腰―――ブラジャーと同じピンクのサイドの薄いかわいいパンティを履いていた。そのパンティのフロントにアクセサリとして赤いリボンが付いているがそれがかわいさを増していた。更に下に行くと太腿、膝、そしてピンクのブラジャー、パンティと対照的な紺の靴下、そして黒のスニーカーを履いていた。
それからもう一度チラッと銀蔵を見た。やはり銀蔵は横にいる亜湖の事等全く気にせず、眉一つ動かさずに腕を組んで真っ直ぐ前を見据えていた。街のチンピラなど睨みを利かせるだけで追い払える社長の部下であり、そして一癖も二癖もあるレスラーたちをまとめて運営するには今の亜湖のいわゆる”エロい格好”を見ただけで興奮したり動揺したりしてはいけないんだな、と亜湖は思った―――。
「銀蔵さん、お待たせ」
洋子が来て挨拶した。洋子は亜湖よりかなり―――頭四分の三位身長が低く見た目150cm台中盤で、髪は亜湖とほぼ同じ位の長さだが亜湖とは違いくるりと巻く癖っ毛だった。年は亜希子と大体同じ位の20代後半に見えた。そしてトレーナーらしくジャージ姿だった。
「初めまして、佐藤洋子よ。よろしくね」
洋子は亜湖に挨拶した。亜湖は、
「な、長崎亜湖です。よろしくお願いします……」
と言って手を腰の前で組んで頭を下げた。洋子は、
「間近で見ると大きいね、170位? 私もこれくらいあればまだ現役でいたかな」
と言った。そして、
「もしかしたら下着姿は丸紫至上初って言われたかも知れないけど、実は違うのよ」
と目の前の亜湖の胸をツン、とつついて言った。亜湖はビクッと反応して顔を赤らめながら両手で胸を隠した。背中を丸め、肩をすぼめたのでブラジャーのストラップが片方肩から落ちた。
「実は私なんだよ。っても、長崎さんみたいに常にって事じゃなく、負けた方が次の試合では下着で戦うって賭けをして、賭けに負けてだから一試合限定だけどね」
とかわいらしい笑顔を見せて言い、更に、
「私は長崎さんみたいに背もないし、いい体型じゃないからあんまり盛り上がらなかったけどね」
と腰に手を当ててすぼめる仕草をするがそれ程すぼまらない―――つまり土管のような体型である事を示して付け加えた。亜湖は、
「そ、そうだったんですか……」
と言いストラップを直した。意外だった―――下着姿で闘った事ある人がいたという事が―――。洋子は、
「じゃ、銀蔵さん。二人をバシバシ鍛えますので」
と言った。銀蔵は、
「よろしく頼む」
と言い、去っていった。

亜湖は洋子を連れて練習室に戻って来た。さくらは、
「センパイ、その人がトレーナーですか?」
と聞いた。すると洋子は、
「そうよ。佐藤洋子よ。よろしくね」
とにっこり笑って挨拶した。さくらは、
「宮田さくらです、よろしくお願いします」
と挨拶をした。洋子は亜湖と同じく下着姿のさくらを見て亜湖に、
「かわいい後輩ね。顔も髪型も、―――そして下着も」
と褒めた。改めて”下着かわいいね”なんていわれると気恥ずかしい。さくらは顔を赤らめていた。それは亜湖も同じであり亜湖は、
「は、はい……。ありがとうございます」
と視線をそらして答えた。洋子はヒョイと先にリングに入り、亜湖が入ってくるのを待ってから、
「じゃ、一人ずつ私と試合してみようか」
洋子は先にさくらを指名した。というのは今迄の試合はきちんと見ていて、亜湖は体力があると把握していたので、亜湖と最初にやってしまうとさくらとやるときには疲れてしまっていると思ったからだった。
「場外戦は無し、場内のみでルールは試合に準ずるって事でOk?」
洋子が言うと亜湖とさくらは、
「はい」
と返事した。洋子は、
「じゃ、長崎さん、レフリーやって」
と言った。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊