百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第七章 受けの美学?2

香は試合は原則六十分だと教えてくれたが、アナウンスは三十分と言ったので亜湖は不思議に思った。香に教えてもらって以来、他人の試合見る時でも意識して分数を聞いていたが、全て六十分だった。
もっともその時間をフルどころか半分も使った試合など無かったが―――。
「美紗も香もどうかしてるよ。たかが新人のあんたに10分以上かけるなんてね。遊ばれてるんじゃないの?」
良は亜湖の顔、そして下着姿の体をまじまじと見ながら言った。そして、
「安心して。あたしはそんな事しないから。だから三十分にしてもらったんだから。すぐ楽にして―――」
良がそう言うと同時にゴングが鳴った。
「あげるッ!!」
最後に良は叫び亜湖に向かって間合いを一気に詰めてタックルを決め、亜湖をコーナーに吹っ飛ばした。
「あうっ!」
不意を突かれた亜湖はコーナーに背中から激突し、声を上げた。良は素早く次の攻撃に移る。コーナーに寄りかかる亜湖に突進してジャンピングニーを入れた。亜湖は声を上げて耐え、トップロープを掴んだ。良はその腕を掴んで無理矢理対角のコーナーに振り、自分もすぐ後を追い掛けた。亜湖が背中からコーナーに当たると同時に良のヒップアタックが決まり、亜湖は反動で前のめりに倒れ、胸を手で押さえ、
「あ……うう……」
と絞り出すような声を出した。
「大した事無いじゃん」
良は腰に手を当てて呟いた。そして亜湖の髪を掴み起こすと腹に膝を入れた。
「あう…っ!!」
亜湖は声を出して耐え続けた。良が膝蹴りを止めると膝から崩れ落ち、腹を抱えてうつ伏せになった。良はとりあえず亜湖を仰向けにひっくり返してフォールした。
「ワン、ツー」
メイド衣装のレフリーがカウントを取ると亜湖は足を振り上げ、ツーに合わせて振り下ろした。
良は亜湖の髪を掴んで起こすと今度は場外に放り出した。そして場外ではやりたい放題でボディスラム、パワースラム、鉄柵や椅子攻撃、更に鉄柵にもたれかかる亜湖に突進してレッグラリアットを決め、鉄柵の外に放り出してしまった。
亜湖は鉄柵の外で片手で顔を覆う形の大の字状態になっていた。早くも肌には汗が浮き始めていた。良は鉄柵の外に出て、
「やらしい眺めね〜」
と呟き、亜湖の髪を掴んだ。亜湖は首を持ち上げるだけで起き上がらないので良はもう片方の手で亜湖のブラジャーのベルトを掴んだ。亜湖は仕方なく良のその腕を掴んで起き上がったが足取りはフラフラしていた。

「しっかししぶといな……」
試合時間十五分経過―――もう半分である。
良はいくら攻撃しても正確にカウントツーで返して来る亜湖に対して焦りを見せ始めた。一方亜湖はずっと攻撃を受け続けながらも良の攻撃の重さ、そして投げ技等の力強さ等が大体分かってきた。打撃は、受けて確かに痛いがそれでも香や美紗には遠く及ばない。また、投げに関してもパワーがあるタイプでは無い為、未だにパワー系の投げ技は使ってきていない。そして関節技に関しては物凄く技術があるものの、投げや打撃にこだわっているのか、前半の四の字固め以降殆どやってきていなかった。つまり気絶をしていないし、騙し気絶をする必要も無かった。
良はほぼリング中央で片手で顔を覆って倒れている亜湖の髪を掴み起こし、そして亜湖の頭を股に挟み、背中に一回両腕を打ち付けた。亜湖は短く、
「あっ!」
と声を上げ右手で背中を押さえた。良はその手を払い除け亜湖の胴をクラッチし、パイルドライバーの体勢に入った。
「これで気絶しろ!」
と叫び、力を入れた。しかし、持ち上がらない。亜湖だってパイルドライバーで頭を杭打ちされたらどうなるか分かる。良に持ち上げられないように踏ん張った。そう、美紗や香は抵抗する亜湖を根刮ぎ引っこ抜いていたのだった。その二人のようにパワーで勝負するタイプではない良はグラウンドで勝負すべきだった。
「あぐっ!」
亜湖に逆に背中越しに放り投げられた良は背中を押さえて短く声を上げた。正味十五分痛めつけたのに何故亜湖に返す力が残っているのか分からなかった―――。


「あなた、受けのスタイルなのね?」
洋子との試合形式の練習が終わり、香がトレーニングに戻った後、洋子が聞いた。亜湖は、
「はい……」
と答えた。香や美紗の様にどんどん攻撃して体力を奪い勝利するのは勝負師としては当然の事なのだが、亜湖はどうしても相手を殴ったり蹴ったりする気がおこらなかった。ならば受けに徹し相手を攻め疲れさせてそこで仕留めるのが自分の闘い方だと決めていた。
「それなら、もっと打たれ強くならないとね」
洋子はそう言い、亜湖に練習メニューとして千本ノックならぬ千本受け身を課した。トレーニングや基礎的な組み手、フィニッシュ技や基本的な投げをやった後はひたすら受け身。
一人で受け身、洋子とさくらに交代で投げてもらって受け身、コーナーに振って貰って技を受ける等々―――。
良と対戦して勝つ為に短い期間でやれることをやりまくっていた。
「長崎さん。声出てないよ! 声出すなら辛いとき程出さないと」
洋子がそう言って亜湖を投げ捨てた。亜湖は、
「ああっ!」
と声を出した―――。良との試合の前々日まで練習室では激しい練習が行われていたのだった。


亜湖は良の髪を掴んで起こした後、ロープに振り、良がはね帰って来た所に浴びせ蹴りを入れ、倒れた良をフォールした。良は蹴りを食らった胸を押さえながらカウントツーで返した。その後亜湖は良を場外に放り出し、鉄柵攻撃をし、髪を掴んでもう一度振ろうとしたら振り返されてしまい、鉄柵に激突し、声を上げた。

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