百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第八章 亜湖対さくら1

この日は亜湖とさくらは別行動することにした。試合までは一週間と日がない。お互い一日、自分自身をじっくり見つめ直す時間を作ろう、ということで話し合って決めた。そうすればどういう気持ちで試合に挑むか、というものも心が決まって来るという事で。あくまでも一日だけ―――。

その為さくらはこの日は一人で帰る事にし、亜湖のクラスには行かなかった。勿論話し合った時に亜湖に言っておいたが。
「亜湖、今日どうしたの?」
友人が聞いた。亜湖は、
「え? 何が?」
と聞き返した。別の友人は、
「さくらちゃん来ないから―――喧嘩でもしたのかなって」
と言った。いつも欠かさず来るさくらが来ない―――、それだけで、亜湖とさくらの仲が壊れたのではないかと心配した。さくらのあの、みんなを癒す笑顔が無いというのは寂しかった。
「心配しないで。明日からはまた来るから」
亜湖は友人に言った。理由は聞いてこなかったので安心した。友人は亜湖とさくらが下着姿で闇プロレスをやってるなんていう事は知らない事だから。
相生坂田孤児院が潰れた事、そして亜湖とさくらを引き取ってくれた人がいた事は友人に話していたので知っていた。亜湖はある程度話しておく事で闇の世界に入っている事を悟られないようにしていた。

亜湖にとってさくらがいない日は不安だった。社長はさくらに対して、亜湖に依存しすぎてる、と言った。しかし、それは亜湖もそうだった。社長は亜湖に言った、さくらを守って"やる"、といった過保護は亜湖のエゴだと―――。
今は守らないといけないと思っていたさくらがいない。今までずっと後ろについてきていたさくらがいない。二人で話し合ってそうしたのだから当たり前なのだが。
―――守るべき人が今日は自分の行動範囲内にいない事、今まで当然であった事がそうでなくなった事に亜湖はどう対処すればいいのか分からなかった。

帰る途中でも時々後ろに目線をやる―――、さくらはいないにも関わらず。
思った。さくらにはああ言ったものの、さくらに対してどう闘えばいいのだろうか。勿論亜湖の闘い方―――、他の人以上にさくらには攻撃し辛いからより極端な受けに回るのか、それとも敢えて攻撃に出るべきか。
さくらはまだ勝っていない、社長はさくらに初勝利のプレゼントのつもりで相手に亜湖を指名した、という可能性もある。正直亜湖から見ても、自分は何とか良に勝ったがあれは良の油断があったからで、ましてやさくらに中堅を倒す力等無い―――と思っていた。
だからといって簡単にさくらに勝ちを譲っては、丸紫のルールを破ることになるのだ、ガチでやるルールだから。

「亜湖!」
亜湖はハッとした。さくらの事を考えると気が晴れなかった。そんな亜湖を友人は心配した。
「うん、ありがとう。大丈夫だから……」
亜湖はそう返事して、友人と別れる角に来た。
「しっかりしなよ。さくらちゃんだって、しゅんとしたセンパイ見たく無いぞ」
友人はそう言って亜湖の背中をバン、と叩いた。亜湖は、
「うん、ありがとう」
と言って友人と別れ、丸紫に向かった。


マンションに着くと鍵を開け、部屋に入った。さくらはまだ帰ってきていないようだった。さくらの鞄等は無く、今朝の状態のままだった。
「さくら―――」
亜湖は呟いた、さくらは無事なのだろうか? 連絡を取りたかった。しかしさくらと約束した。夜にお互い帰ってくるまで連絡しない、万が一の事があったら社長に連絡するように―――と。きっとさくらだって不安に違いないだろうが今まで約束を守っている。先輩の自分が破る訳にはいかないと思った。

亜湖は地下の丸紫に降り、社長に会ったので挨拶した。
「今日は一人なのね」
社長が言った。亜湖は、
「はい。今日だけは」
と答えた。社長は、
「そう―――」
と呟いた。

亜湖は更衣室に入り制服を脱ぎ、下着姿になった。今日はさくらとは別行動なのでさくらとの試合ではこれにしようと決めたものを着ける事にした、着心地の確認と言う事で―――。桜の花は薄いピンクだから、と思い、桜と同じ様な薄いピンクのブラジャーとパンティにした。サイドは1.5センチ位と少し細めで、フルバックに近いハーフバックのもので、前には桜のガクの様な濃い赤のリボンが付いてる形のかわいいパンティで、亜湖の気に入ってるものだった。ブラジャーも同じ色で、丁度中央に同じ様なリボンがついていた。靴下は紺を履いていたが、赤いボンボンとサイドに小さく桜の刺繍が入っている白の靴下に履き替え、スニーカーも白のものにした。
亜湖は鏡の前に立ち、手を後ろに組んで胸を張り、さくらと闘う時の格好を今一度確認した。そして暫くの間、正面からまたは、後ろ向きになったりして鏡に映る下着姿の自分自身を眺めていた。恥ずかしい気持もあったが今はただ眺めていたい気分だった。
「よしっ」
暫くそうしていた後、両手で軽くファイティングポーズを取り、両手で頬を叩き更衣室から出て、練習室に向かった。

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