百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第八章 亜湖対さくら4

「ただいま」
さくらがマンションに帰ると、
「お帰り」
と言って亜湖が玄関まで迎えに来てくれた。お互いが離れて別に行動した一日―――。自分自身を見つめられたか確認ををする事にした。
「さくら―――、思いっ切りぶつかって来て。受け止めてあげるから」
「センパイ、一生懸命闘います。それで、試合終わったらまた一緒に、タッグやりたいです」
お互いに決心を言い合ってそして軽く抱き合った。
「最高の試合しようね、さくら」
「ハイ、センパイ」
そして、次の日からは今までと同じ様に二人で行動した。


試合当日、亜湖とさくらは一緒に丸紫に来た。そして一緒に更衣室に入り、服を脱いで下着姿になった。亜湖は桜色―――薄いピンク色で赤いリボンの付いたブラジャーとパンティを身に着けていた。さくらとの対戦だから、という事で桜色のを選んだのだった。靴下は白で桜の刺繍があり、赤いボンボンの付いたかわいいものでスニーカーは白だった。この格好はさくらとは別行動をした日に初披露した格好だった。着心地は良かった。
一方さくらは亜湖とは逆に薄い青系の色を選んできた。なかなか手に入らない薄い水色の縞模様で青いリボンの付いたブラジャーとパンティ、そして濃い目の水色の靴下に紺のスニーカーだった。
「じゃ、リングで」
亜湖は笑顔を見せてそう言い、先に更衣室から出て行った。さくらは暫く見送った後、自分も更衣室から出て控え室に入った。

亜湖とさくらはそれぞれ入場し、その後ゴスロリ衣装のレフリーにボディチェックを受けた。闇プロらしくいつもは蛍光灯の明かりのみで一応充分に明るいのだが、薄暗さを感じていた。しかし、何故か一本のスポットライトがリングを照らし、眩しかった。

「じゃ、始めますよ」
ゴスロリ姿のレフリーは事務的に言って右手を上げ、振り下ろした。そしてそれに合わせてゴングが鳴り響いた。

亜湖とさくらはお互いに一歩間合いを詰め、そして手四つに組み合ったがすぐにさくらは振りほどいた。もう一度組み合ったがまたさくらが振りほどいた。
亜湖はさくらが勝負をしたがらないように感じた。
「さくら……本当はまだ気持が―――?」
と思った。するとさくらは右手を開いて斜め前に挙げ、
「センパイ!」
と言い、一歩間合いを詰めた。力比べを要求したのだった。

「珍しいじゃん、力比べなんて」
事務所でモニター観戦していたジェネラル美紗が言った。香も横で見ていた。香はジャケットに膝下までのスカート、そしてこの日は普段着用のネクタイもしていた。
「モタモタしてないでさっさと攻撃すればいいのに……」
亜湖の戦法を知っていたからか、攻めないさくらに対して苛立ちを覚えた。

さくらが右手を出したのでさくらの右と亜湖の左から組み合った。そしてもう片方も組み合い、力比べをした。
力、体力、両方とも亜湖が上回る為さくらはロープ際まで押された。そしてロープに背が着くと手を振りほどこうとしたがほどけなかった。
亜湖がさくらの背中がロープに着いた事に気付き解いた。その瞬間さくらは亜湖の脇をくぐりぬけバックを取ろうとした。亜湖は振り向き様にさくらの足を取り、そのまま股に手をいれ、パワースラムの様に投げた。
「ああっ!」
さくらは短く声を上げた。亜湖はそのままフォールした。
「ワン!」
カウントワンでさくらは返した。亜湖はさくらのツインテールを掴み起こした。さくらは背中を押さえながらすぐに起き上がった。そしてさくらをロープに振り、亜湖も走ってさくらの胸目がけて上段にスピンキックを出した。跳ね反ってきたさくらは亜湖のスピンキックを頭を下げてかわし、ネックブリーカーを入れた。
「ああっ!」
今度は亜湖が声を上げ、後頭部を押さえた。さくらは素早く亜湖に覆い被さりフォールした。
「ワン、ツー」
カウントツーで正確に亜湖は返した。さくらは亜湖の髪を掴んで起こした。
「センパイ……行きますよ」
さくらは口には出さず、心の中で言った。亜湖の受けの強さは今までの試合を見て、いや、一緒に練習してきたからよく分かっていた。
さくらは亜湖をボディスラムで投げると亜湖の足を取りストンピングを二発入れ、素早く四の字固めに移行した。
「ああああっ!!」
亜湖は声を上げ、そして両手でマットを掴むようにして四の字を掛けてるさくらごと引きずってロープに向かった。そしてさくらの隙を見るや体を反転させた。
「あああっ―――!」
さくらが痛みに声を上げた。
「泣くまで我慢するのは立派だけど、我慢するだけじゃ駄目―――」
トレーナーの洋子にそう言われた事を思い出した。さくらは痛みに耐え、声を上げながらチラチラと亜湖を見た。
「うぐっ、ぅぅああっ!」
意味の分からない叫び声を上げながら体勢をまたひっくり返し、亜湖の左足首を右手で掴んで固定した。そして左手は横に広げ、返されないようにした。
「ああっ! あああ!」
亜湖は再び膝に来た激痛に声を上げた。そして左足首を固定されてるので急いでロープを目指した。
亜湖がロープブレイクするとさくらは四の字を解き、自分もダメージを受けたので膝を押さえながら立ち上がり、左膝を押さえてる亜湖の左膝、太股を蹴った。その度に亜湖は短く声を上げ痛みに耐えていた。
さくらは亜湖の腰、足に照準を合わせた。というのは、亜湖のフィニッシュ技はバックドロップで、上体の力も重要だが下半身のバネで投げるからだった。下半身のバネを砕けばバックドロップ封じになる―――。
さくらは亜湖の髪を掴んで起こし、コーナーに振った。そしてすぐに追い掛けて、亜湖が背中からコーナーに激突するや、ヒップアタックを入れた。そして亜湖が腰から崩れそうになるところをさくらは無理矢理髪を掴んで前に引き倒した。
亜湖は腰を押さえながらうつ伏せに倒れた。さくらは亜湖の足を固めて自分の足を入れて引っ掛け、後ろに倒れた。リバースインディアンデスロックが入った。
「ああっ!」
亜湖は頭に両手を当てて声を上げた。ふと左を見るとさくらの頭が見えたので顎を取ろうと思い、手を伸ばしたが届かず、ツインテールの髪を掴んで引き寄せようとした。その時、髪ではなくツインテールに縛っているゴムに指が掛かったのだが、そのまま引っ張った。

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