百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第八章 亜湖対さくら6

香はその亜湖の姿が、攻撃を誘っているように見えた。まだまだ体力は充分にある、この程度では私からはスリーカウント取れないんだよ、早く攻撃してさくら、とそう言ってるように感じた。少し腰を持ち上げ、体を反らしていたがまた腰を落とした。その瞬間亜湖の胸が揺れた。
ドクン―――。
「ん……っ」
とても小さな声だったが香は声を出した。それを聞いて、
「どうした? 香」
と美紗が声を掛けて来た。香は額に手を当てて歯を食いしばり、
「―――何でも……無いわ」
と答え、下を向いた。またあの感覚が蘇って来ていた。下腹が熱い、今攻撃しているのがさくらではなく、自分だったら良かったのに―――、と。
この間亜湖が練習を申し込んできた時には自分に練習を申し込んで来たのは嬉しいと感じていたが同時に、試し台として申し込まれたのは気に入らなかったので、叩き潰してやった―――結果的にそれが亜湖と利害が一致した訳なのだが―――叩き潰したかった為、この時は劣情を抱くことは無かったが元々、
もしブラジャーが"取れたら"、あくまでも取れたら胸がもっと揺れて面白いんじゃないかと―――。
と亜湖に対して試してみたいと思っていたのだった。その為、ずっとさくらの攻撃を受けて耐え続けている亜湖を見るとこういう感情が蘇って来るのだった。

さくらは亜湖の髪を掴んで起き上がらせ、髪とパンティを掴んでリングに入れた。亜湖はそのまま転がりながらパンティの後ろ側を人差し指を通して直した。リングに入れられるとき、後ろ側を持たれたので少しお尻に食い込んでいたからだった。
さくらはその後直ぐにリングに戻った。そして亜湖の髪を掴みロープに振った時――――――膝に来た。試合時間は二十分を超えていた。
「え?」
さくらは落ちかけた右膝に目をやり驚いた。これが攻め疲れ―――攻めても攻めても亜湖はスリーカウントを許さず、その間、さくらは攻めてるのに効果が出ずに体力をどんどん失っていく―――。その瞬間、亜湖がロープから跳ね返って来たので我に帰った。大きな隙を見せた―――。

丸紫のルール
3,相手の技を受けるか、よけるか、返すかはお互いの技量の問題。2,の範囲内で、あくまで耐えて返す。
分かりやすく言うとショルダースルーのように如何にも待ってるから的な技や、コーナーに振っておきながらモタモタ攻撃してくるようなら避けるなり返すなりする事。

つまり今はこの状況―――。
亜湖はロープから跳ね返る瞬間から、さくらの大きな隙は見ていた。その為いくら受けの戦法で行くからといって流石にここは返さない訳には行かないと思った。一方さくらもここで亜湖に返されたら膝に来ている分一気に逆転を許してしまう。
バチン!!!
と大きな音が鳴り、亜湖もさくらも弾き飛ばされた。亜湖は自分から視線をそらしたさくらに返し技を入れるべきと即座に考えた。さくらが我に返り蹴りを出してきたのでそれに合わせて腕を出した。結果は相打ちだった―――。亜湖は尻から落ち、そのまま後ろに倒れ片膝を立てた状態の大の字状態になった。一方さくらは蹴る為に体を回転させていたのでラリアットを食らい背中から落ちたもののそのまま回転しうつ伏せの状態になった。

さくらは完全に亜湖の返しを食らってしまい、疲れた所にダメージという形になりうつ伏せのまま動けなくなった。腕はだらんとした状態だったが、片手を動かし後頭部に当てて首を振った。
「うっ……くぅぅ」
喉から漏らすような声を出し、両手を前につき立ち上がろうとした。そして四んばい状態まで起きた時、もう一度首を振り、それから亜湖を見た。亜湖はまだ倒れていた―――。
さくらは急いでフォールした。
「ワン、ツー」
カウントツーで亜湖は腕をロープに掛けた。さくらは後頭部を押さえながら立ち上がり、亜湖の髪を掴んで起こし、後ろを向かせ、そして組ついた。
「いくらセンパイでも―――」
さくらはそう思い、そのまま持ち上げた。亜湖は大して抵抗せず持ち上げられた。この技も受けるつもりなのか、そう思った瞬間―――。
亜湖は技を食らったような体勢、後頭部をマットに打ち付け体をくの字に曲げて自分の汗でびっしょり濡れたパンティを間近に見る体勢になったが、さくらは違った。
さくらはブリッヂしてその亜湖を胴をクラッチしカウントを聞く筈だった。しかし、さくらは大の字になっていた―――。
亜湖はさくらに押さえられなかった為、くの字の体勢から、体が真っ直ぐに伸び、そのまま大の字になった。

「勝負―――有りね」
香は、勿論亜湖本人が狙った訳では無いのだが、さっきからいちいちいやらしい体勢を見せる亜湖に対してふつふつと沸き上がる劣情を必死に押さえながら呟いた。
男だからとか女だからとかは関係ない―――。誰が見たってエロいと思うだろう。何かドキッと来るだろう。ただ香はそれがモロに来る、それだけの違いだった。
「亜湖か?」
美紗は訪ねた。香は、
「こうなったらさくらには勝ち目はないわ」
と答えた。

さくらは勝負処と見るやフィニッシュ技のジャーマンスープレックスを出した。さっきの相打ちは亜湖は隙を見せたさくらに対して相打ちではなく、完全に決めるつもりで出したが相打ちになってしまった―――、つまり、亜湖の返しは失敗した、さくらはそう判断した―――だから勝負を掛けた。
しかしさくらの行動は裏目に出た。亜湖はさくらの技を受けながらさくらの残り体力を考えていた。只、痛みに声を上げていた訳では無かった。そしてさくらがフィニッシュ技であるジャーマンスープレックスを出すとしたらどの場面で出すかを計算していた。
一つは本当に亜湖が力尽きた時―――。それはカウントツーで正確に返せなくなった時。もう一つはさくらの方が体力を先に失い、勝負を仕掛けなければ負けが確定する時―――、今は後者だった事に亜湖は気付いていた。
さくらが何もしていないのに膝から落ちそうになったから。
さくらが後ろから組みつき、投げた瞬間に、洋子や良のバックドロップを返した方法でさくらの手を外し、体を捻って体勢を入れ替えても良かった。しかし、この返しはバックドロップに対してだけ、と決めていた。自分のフィニッシュ技であるバックドロップは絶対に食らわない、という意思表示をする為だった。
その為亜湖は別の方法で返す事にした。体の位置関係がロープに近かったので、さくらに投げられた瞬間にロープを蹴り、さくらのバランスを崩しかつ自分の体重をさくらに乗せた。しかし、亜湖自身も普通にジャーマンスープレックスを食らった時のように後頭部をマットに打ち付ける事には変わりは無かった。

さくらは完全に動きが止まり、リング中央で大の字になっていた。その横で亜湖も大の字になっていて、ビクッ、ビクッと痙攣していた。さくらは亜湖を痙攣させる所まで攻めたが、さくら自身もジャーマンスープレックスを潰された事で後頭部を打ち付け気絶してしまい、亜湖が痙攣してる事など気付くよしも無かった。

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