百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第九章 記念試合に向けて2

一方美紗チームでも話し合いが行われた。
「しっかし、やり辛いな―――」
美紗は呟いた。
「何がですか?」
さくらが聞いた。美紗は、
「これじゃ、端から見たらアダルトビデオの撮影前の打ち合わせじゃねーか。いざ味方になったら気になってしょうがねー」
と言って額に手を当てた。Tシャツ短パン姿の美紗を中心にして下着姿の亜湖とさくらが話を聞く格好になってるものだから、さしずめ美紗が女監督といったところか―――。にしては随分ごっつい監督だが―――美紗は顔は美人だけど。
それを聞くと亜湖とさくらは顔を赤くしてうつ向いた。美紗は、
「まあいい。とにかく作戦と練習だ」
と言った。
美紗の作戦は最後は香からピンフォールを奪おうといったものだった。
「香はタッグの闘い方が下手だ、しかもターゲットはあたしと亜湖だ」
美紗が言うと亜湖は、
「さくらは?」
と聞いた。美紗はさくらに、気を悪くするな、と断った上で、
「あいつにとってはさくらは唯の人数合わせ。草薙でもプルトニウムでもキャサリンデービスだっけ? あの黒人の―――。つまり誰でもいいんだ」
と言った。さくらは不愉快そうな顔をした。そして、
「やっぱり香さんとは合いません」
と言った。美紗は、
「まあ、悔しいなら強くなりな。あいつは実力あれば認める奴さ。亜湖には受けの強さがあるから認めてるのさ。それに―――」
と言った。さくらは、
「それに?」
と聞いた。美紗は、
「初めて会った時に言った事覚えてるか?」
と聞いた。亜湖もさくらも首を振った。美紗は、
「あいつには気を付けろってね。もう遅いか―――。亜湖は目をつけられたんだから」
と言った。亜湖もさくらもその時美紗に言われた事を思い出した―――。新人イビリが好きだと。さくらは、
「やっぱり嫌な人じゃないですか―――」
と言った。美紗は笑って、
「微妙だな。確かにヤな奴とも取れるな―――試合ではな。でも普段はけっこう世話になってるんじゃないか? 結構気に入ってるって事さ。結局どっちたが分かんないけど」
と言った。そして、
「話が逸れたけど、最後は香狙いだ。で、それに持ってく為に、香がさくらをついで扱いしたとこを突く―――」
と言った。亜湖は、
「どうやってですか?」
と聞いた。美紗は、
「さくらにはきつい役だが、エーコさんを崩すんだ。エーコさんの技を受けて返すだけ。簡単そうに聞こえるだろ?」
とさくらをじっと見据えて言った。さくらはキョトンとして、
「はい……?」
と間の抜けた返事をした。美紗は、
「新人戦やこの間のタッグ戦の香はお前たちで遊んでる。態とエロ技掛けたりしてな―――。そういうのじゃなく、本気の香の技を受けきれるか?」
と聞いた。亜湖はそれを聞いて、それは無理かもと思った。さくら戦の前に香と練習したが、あの時香は本気で技を掛けて来た。それを想像し亜湖はさくらには分からない様に首を振った。一方さくらは、自分なりに香の本気、というものを考えてみた―――。確かに、香が自分に掛けて来た技は威力を態と落としている感じはした。少なくとも美紗と闘う時のような掛け方では―――ない。それを考えると、
「今の私では……多分無理です」
と答えるしか無かった。美紗はその答えに納得し、
「エーコさんはそのクラスの選手、って訳さ。つまり、さくらは受けられない。多分今試合したらKOされる」
と言った。亜湖は、
「でも、KOは狙わない筈では……?」
と聞いた。美紗は、
「そこが問題なのさ。エーコさんは確かにKOは狙ってない。でもさくらが受けたらKOになる」
と言った。そしてゆっくりと立ち上がり、
「でも、さくらが耐えたら、エーコさんは動揺するって事だ。そこをあたしが片付ける。そうなると亜湖とさくらでジュディを足止めしてあたしが香をって算段だ」
と言った。攻撃が苦手で、その分試合を早く決めたがる栄子を先ず動揺させて崩す。それからジュディを止め香を集中攻撃する、という作戦だった。美紗は、自分と亜湖を狙って来る香を沈めてやれば逆に屈辱を与えてやれる、と思ったのだった。

「一つお願いしていいですか?」
亜湖が美紗から視線を外し、斜め前を向いて言った。美紗は、
「いいぜ」
と言った。亜湖は、
「どんな形でもいいです。もし香さんからピンフォール奪えるなら私に奪わせて下さい。倒れてる香さんに私を投げつけても、そういう形でもいいです―――」
と言った。美紗は、
「そこまで拘るのに、何か理由でも?」
と聞いた。亜湖は顔を赤くして下を向き、自分の胸を指した。
「貸しがあるんです……。ブ、ブラジャーを……」
と言い、顔を両手で覆った。美紗はクスッと笑い、
「ああ、あの時のか。いいぜ、返してもらいな」
と言った。亜湖の今の頼み方から、香は恐らく"返して欲しかったら実力で取り返せ"と言った事は容易に想像できた。亜湖は顔を覆ったまま頷き、
「あ、有難う御座います……」
と答えた亜湖を見て、こんなに恥ずかしいなら何で下着姿で闘ってるんだろうと益々不思議に思った―――。

作戦が決まったら後は練習とトレーニングだった。
試合まで半月しかないので、まだ入ってから半年程しかたっていない亜湖とさくらは一線級で闘う美紗、香、栄子とまともに闘うのは無理なので、今出来る事を徹底的にやることにした。
亜湖にトレーナーが付き、兎に角投げて投げて投げまくったが、投げられてる亜湖が背中を押さえて息を切らせてる状態なのにトレーナーは全く疲れを見せない。
彼女は大田翔子。女ボディビルダーだが、トレーニングの一貫として丸紫と契約していた。ボディビルダーなので大会の時と同じビキニ姿で指導していた。
「ハイハイ、すぐ立つ! すぐ立つ!」
翔子は元気よく言い、仰向けに倒れ、片膝を立てて少し腰から背中を片側浮かせて背中を押さえてる亜湖の髪を遠慮なく掴み立たせた後、また投げた―――というより叩き付けた。
「ああっ!」
亜湖は声を上げた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊