百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第10章 記念試合2

「ふふっ……。B子ちゃんがポニーをフォールしたら面白いかな」
さくらが香をフォールするのに賭けた人は自宅の自分の部屋のPCで中継とオッズを見ながら前髪を両手で掻き分け、ショートボブの髪を後ろに流しながらニコッと笑って言った―――。

レフリーはボディチェックを終えた後、試合開始を告げた。この日はいつものゴスロリ姿ではなく"聖地巡礼"等で有名になった某アニメの主人公達の通う高校の制服に身を包んでいた。
「このレフリー、ゴスロリだけじゃないです、今日はコスプレです」
実況席で亜希子は言った。亜希子の言葉通り、レフリーはゴスロリとメイドの二人である。因みに亜希子はアで始まるファミレスの制服のコスプレだった。

リング上では香チームは香とジュディはさっさと下がり、栄子が残った。一方美紗チームはそれを見て、作戦通りさくらを残して美紗と亜湖が下がった。
さくらと栄子は暫く動かなかったが、さくらが助走を付けて組みに行った。栄子は組み合うなりさくらを二十センチの身長差を活かし、上から押さえ付け、ロープまで押し込んだ。決して小柄ではないさくらだが、栄子に掛ってしまえば押し込まれるしか無かった。
栄子から手四つを解いた。そしてさくらの腕を取り、ロープに振った。そして跳ね反ってきたさくらにハイキックを―――、
さくらの姿は無かった。振り返ると再びロープの反動を利用してさくらが走って来た。さくらは横向きに飛び付き、そのまま体を預けてフォールに行こうとした。
「あっ!」
さくらは失敗したと思い声を上げた。そう―――栄子にそのまま受け止められてしまったのだった。
「あああっ!!」
栄子はそのままパワースラムを掛け、さくらの声が響いた。
「ワンで返せ!」
美紗の指示通りさくらはカウントワンで返した。栄子はさくらのツインテールを掴んで起こすと、頭を下げさせた状態で自陣に連れていき、香にタッチした。香はリングに入るなり、美紗と亜湖に視線を送った。そしてさくらの背中に踵落としを入れた。
「ああっ!」
さくらは声を上げ、膝が落ちないように左手でロープを掴み、右手で背中を押さえた。
香はジュディに指示を出した。栄子と香でさくらをそのままの姿勢―――前屈みの状態で左手でロープを掴み右手で背中を押さえ、両足は肩幅より開き、真っ直ぐ伸ばしている状態―――に固定した。香はさくらの左腕を掴み、ロープから手を離させ、後頭部を押さえ付け、頭が上がらない様にした。栄子はさくらの右腕を背中から退けてそのまま固め、長い足を活かし、さくらの右足の後ろに自分の足を入れ、逃げられないようにした。そしてその体勢―――さくらの背中ががら空きの状態のまま、リング中央に引きずってきた。一方トップロープにはジュディが登っていて何時でもスタンバイオーケーだった。
香はもう一度美紗と亜湖を見た。二人ともカットしに来る様子は全く無かった。香はそれを確認するとさくらの後頭部を押さえていた肘を外し、ツインテールを掴み、顔を上げさせた。そしてトップロープに登ってるジュディを見せ、
「さくら、耐えられる?」
と言って髪から手を離し再び後頭部を押さえ付けた。トップロープからの攻撃は返されるか避けられる為、シングルでは有り得ない―――、しかし、タッグでは相手を固めていればそれが成立する。香はそれを楽しむ事にした。さくらは首を軽く振り、
「は、早く……来い」
と答えた。香はさくらに冷たい視線を送った。さくらはその視線を見る事は無かったが。
香がさくらの後頭部を押さえてる肘を外し、首筋にエルボーを入れたのを合図にジュディがトップロープから飛んだ。そしてさくらの背中にフライングエルボードロップが突き刺さった。
「あああーっ!!」
さくらは大声を上げ、崩れ落ちそうになったが、香が、さくらのツインテールを素早く掴み、左脇で固め、右手はさくらの腰に当てがい、
「カット止めて」
と二人に指示するなり、高速ブレーンバスターを決め、ブリッチ状態で右手でさくらの薄い黄緑色のかわいいパンティを掴み、押さえ込んだ。
ブリッチ状態だと無防備になる―――、残った二人にカットを警戒させるタッグならではのやり方だった。
「ワン、ツー」
さくらは足を上げた後、降り下ろし、カウントツーで返し、香は右手を離した。それから香は起き上がり、さくらのツインテールを掴んで起こした後、同じく薄い黄緑色のブラジャーのホックの少し下辺りを押さえているさくらを無理矢理美紗と亜湖の陣のコーナーに振った。さくらは体の向きを変え、背中からコーナーに激突し、
「あうっ!」
と声を上げ、少しだけ腰が落ちたが、両腕をロープに引っ掛け、崩れ落ちないように踏ん張った。それから美紗がさくらにタッチし、リングに入った。
さくらはタッチされた事に気付くと、ロープをくぐり、亜湖の隣で背中を押さえながら中腰になっていた。

美紗は胸の高さに両腕を構えるいつものポーズを取った。香は両腕を下ろした状態で半回転ほど美紗の周りを回った後、踏み込んで美紗と組み合った。
美紗は組み止めるとそのまま香に体重を掛けた。香はそうされながらも下がらずに下から押し込んだ。そのまま膠着状態になったので香から振りほどいた。膠着すると体力のある美紗が有利になるからだった。
もう一度組み合うなり香は美紗の腕を取り、脇固めに移行した。美紗の右腕を殺し、ラリアットを封じる作戦だった。最も序盤の脇固めでそんなにうまく行くとは思ってはいないが。

暫く香が美紗に対しグラウンドで攻め、美紗が耐えていた。香は右腕を押さえて蹲っている美紗の髪を掴んで起こし、ロープに振った。美紗が跳ね反って来た所にジャンピングニーを入れた。美紗が倒れると素早く押さえ込んだ。
「ワン、ッ…」
レフリーが"ツー"とカウントしようとした所で美紗は余裕を持って返した。香は美紗の髪を掴み、起き上がらせて、今度はコーナーに振った。
美紗はコーナーに背中からぶつかり、すぐに突っ込んで来た香の浴びせ蹴りを崩れ落ちる振りをして避けた。
「ああっ!」
香はコーナーを蹴りつけてしまい、そのまま美紗の上に落ちた。美紗は香を振り落とす感じで起き上がり、コーナーに強打した太股を押さえて倒れている香の髪を掴み起き上がらせると、押さえていた方の右太股にローキックを入れた。香は声を上げ、後ろに倒れた。
美紗は香の右足を取り、太股の内側にストンピングを二発入れた後同じ所にエルボーを落とした。
「―――っああ……っ」
香は歯を食い縛り美紗の攻撃を耐え続けた。やはり技の一発一発の重みが違う。グラウンドで攻めて体力を削ってもたった一発で流れが変わってしまう―――。香はそれが悔しかった。
「ワン!」
美紗が押さえて来たので香はカウントワンで返した。兎に角美紗の隙を狙って返さなければ、身長、体重どちらも二回り程大きい美紗にどんどん体力を奪われてしまう。

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