百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第10章 記念試合6

美紗は何とかロープブレイクした。香はすぐに立ち上がり額の汗を拭った後ポニーテールを直し、美紗をリング中央に引きずり、髪を掴んで起こす振りをして脇固めを入れたり、様々なグラウンド技を掛けて美紗の体力を奪った。
ボストンクラブを掛けた時にさくらがカットに入った。香の胸から腹にまともにミドルキック一発―――。
「あぐっ」
香は声を上げ美紗の足を離してしまった。しかし、立ち上がるや戻るさくらを追い掛け、ツインテールを掴んで振り向かせるなり平手を一発入れてひるんださくらを持ち上げてコーナーに逆さに叩き付け、逆さ磔状態にしてしまった。そして美紗の様子を気にしながらジュディの元に走り、平手打ちで起こすと逆さ磔にされたさくらを指差し、
『好きにしていいわよ』
と英語で言った。美紗がそこで起き上がったが、香とジュディの二人で捕まえてロープに振り、ダブルのドロップキックを決めた。
その後、香の指示で気を良くしたジュディはコーナーに行き、逆さ磔にされたさくらの体に蹴りを入れ、それからロープに引っ掛けられたさくらの足を片足ずつ、ゆっくりと落とした。さくらは頭から落ちないように手を付いて落ち、うつ伏せになった。するとジュディはさくらリングの中央に引きずり、その後仰向けに引っくり返した。
そこに待っていたのは美紗を持ち上げていた香だった。
「くっ……」
さくらは香が自分に向かって美紗を投げ付けようとしていたのは分かったので、覚悟を決めた。香はさくらを見下ろした後、美紗の巨体をさくらの上に投げつけた。
「あああっ!!」
さくらは声を上げた。美紗はさくらの上から転がって退いた。そこを香に捕まり、再び脇固めに入られそうになったが、香の隙を突いて逆に腕を取った。
「―――ぅぁああっ」
香は肘に走った痛みに声を上げた。一方ジュディはさくらを場外に放り出し、鉄柵にぶつけ、ツインテールを掴みリングに叩き付けた後、また背中を椅子でぶっ叩いた。
「―――!!」
さくらは引っくり返って背中を押さえてころげ回った。ジュディはニヤリと笑い、マットを剥がした。そしてさくらのツインテールを掴んで起こし、さくらの頬に平手を入れた。その音が会場中に響きわたった。さくらは打たれた頬を押さえて、少し体勢を崩しながらもジュディを睨み付けた。
それから真っ直ぐ立ちジュディに逆の頬を突き出し、顎をクイッと動かして挑発し、頬を押さえていた手を下ろして後ろで組み、ガードしたり避けるつもりはないという意思を示した。
「フーン。随分挑発的じゃない。さっきから」
ジュディは言い、さくらのあいた頬に平手を入れた。さくらは歯を食い縛って耐えた。
「もう終わり……? まだ立ってるよ……」
さくらは涙を流しながら小さく言った。本当は両頬はジンジン痛み、頭はクラクラして倒れていたかった。しかし、足の震えを何とか止めてしっかり立ち、両手はしっかりと後ろで組んでいた―――痛みに耐える為にきつく握り締めて―――。
『まあ、いつまで強がっていられるかな?』
ジュディがもう一発平手を入れるとさくらは両膝から崩れた後前に倒れた。ジュディは倒れたさくらのツインテールを掴み起こそうとしたがさくらは立ち上がれず両手をつくのが精一杯だった。ジュディはもう片方の手でさくらのブラジャーのホックの辺りを掴んだ。少し捻を加えたら外れてしまう。
「外されたくなかったら立てよ、馬鹿女」
ジュディはツインテールとブラジャーを引っ張って言った。さくらは軽く首を振って頭を叩き、足も叩いて起き上がった。ジュディは素早くさくらの股に手を入れ、そのまま持ち上げた。そしてマットを剥がした所にさくらをボディスラムで叩き付けた。
「ああああっ!!」
さくらは大声を上げ、両手で背中と腰を押さえた。

リング内では美紗が香に様々なグラウンド技を仕掛けて体力を徹底的に奪いに行った。香は足を取られて絞め上げられる痛みに声を上げて耐えた。
「ギブアップ?」
レフリーが聞くと香は首を振り、
「ノー、まだまだ」
と答えた。美紗はそれを聞いて更に強く絞めた。
「あああーっっ!!」
香が声を上げると場外で鉄柵攻撃を受けたさくらの声と重なった。
「あたしが元々アマレスやってたのを忘れて貰っては困るんだよ。アマレスはネチッコイんだ」
美紗はそう思った。確かに丸紫では体格を活かしたパワー系の技ばかり使っていたが、だからといってグラウンドに弱いといったようなレッテルを貼られては堪らない。特に格闘技経験の無かった香には―――。
いくら香が才能に恵まれグラウンドが巧かろうがたかが二年半。美紗はずっと昔からグラウンドはやっていたのだ。そんな美紗にグラウンドで勝とうなんて侮辱もいい所だった。
香がロープブレイクしたので美紗は技を解き香の足を掴んでリング中央まで引きずった。そして太股に膝を落とした。香は声を上げながら両手でその部分を押さえてころげ回った。美紗は香のポニーテールを掴んで起こし、香の膝を抱えるように持ち上げ、自分の立てた足に落とした。
「あああっっ!!」
香は足を押さえながら声を上げた。

やはり美紗にはかなわないのか―――? こんなにねちっこくグラウンドで攻められた事は無かった、というより、美紗の技術がこれ程とは想定していなかった。
純粋に香は美紗がアマレス出身であることを知らなかった。美紗は力にモノを言わせてガンガン攻めてくる。それならば美紗の攻撃の要を攻めればよい―――腰と腕。
しかし、攻められているのは香だった。しかも自分が仕掛けていったグラウンドで。
無理矢理立たされロープに振られた。ロープから跳ね返ると、美紗が突進してきた。香は本能的にラリアットだと思い身を低くした。食らったら返せない。美紗にはポニードライバーを入れなければならないのだから食らうわけにはいかなかった。
「ワン、ツー、ス……」
レフリーのカウントがスリーの直前で止まった。香の足がロープに掛っていたからだった。
美紗はラリアットではなく、身を低くした香に膝を合わせた。その為まともに膝が入ってしまい、勢い余って一回転した。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊