百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第10章 記念試合8

亜湖はビクンと体を反らし叫んだ。香はその亜湖の姿を見て満足そうな笑みを見せた。
まだ自分は美紗に勝つ力は無いようだ、それが解った。それはそれでとても悔しいがその力はまだつける余地がある―――。だから折角の記念試合なのだから亜湖を痛めつけて痛めつけてトコトンやってやろう、そう思った。
楽しみの他に、格下の癖にフィニッシュ技を入れようとした罰も与える意味も含めて―――。
香は栄子に、
「亜湖からピンフォール。美紗警戒よ」
と耳打ちした。完全に亜湖に照準を合わせた。

一方さくら―――。さくらは鉄柵の外でずっと持て遊ばれていた。ジュディは自分もさくらも試合権利が無い事を最大限に利用しやりたい放題だった。倒れてるさくらを起こし、投げつけまくった。
さくらはダメージが溜り過ぎ、一人では立ち上がる事が出来なくなっていた。
「……センパイ……」
さくらは呟いた。今の自分に出来る事はジュディの注意を自分に向けることだった。ジュディがさくらを激しく嫌っている事もありそれは一応の成功だった―――ここまでは。
さくらの耳に亜湖の叫び声が入った。
「……セン……パイ」
さくらは仰向けから体を横に向け、起き上がろうとした。そこをジュディに掴まれた。ジュディはフラフラなさくらを起こし、鉄柵内に引きずってきた。随分長い間鉄柵の外にいたものだ。
ジュディはさくらを後ろから組みついて身動き取れなくし、
『カオリ、アコを叩き付けて』
と言った。香は、
『OK』
と言い、亜湖の髪を掴んで起こし、栄子と二人で亜湖をさくらに向かって振った。距離が近すぎて亜湖は止まれずさくらと正面衝突した。
「ああっ!」
それでも亜湖はさくらにダメージがなるべく行かない様にぶつかり、横に倒れたが、さくらはまともに受けてしまった。ジュディはその瞬間に避けたのでさくらは勢い良く後ろに倒れ、片膝を立てた大の字になってしまった。
香は亜湖の髪を掴んで起こし、もう一度鉄柵に振り、すぐに追い掛けた。亜湖が鉄柵に背中から激突した瞬間、香の足が飛んで来た。レッグラリアットを決められ、鉄柵の外に転落してし、うつ伏せに崩れ落ちた。
香は、後はポニードライバーを決める為に自陣で休もうと思った。美紗にかなり体力を奪われていたので少しきつかった。
「Ahhh!」
その時ジュディが声を上げた。三人による亜湖への集中攻撃に堪えかねた美紗が乱入してきた。ジュディを持ち上げて鉄柱に叩き付けてそのままボディスラムで投げ捨て、香に突進してきた。
香は背中を向けていたので逃げるしか無かった。
「チッ……」
香は悔しげに舌打ちをした―――とその時、美紗を長い腕が捕えた。
「うぐぉぉぉ」
美紗は自分の首を捕えた栄子の長い腕を外そうともがいた。香はチャンスと見て向き直り、美紗にタックルを決めた。美紗が体勢を崩した隙に素早く組みつき高速ブレーンバスターを決めた。
「―――!」
美紗は背中から腰に掛けて押さえ、動きが止まってしまった。場外での高速ブレーンバスターは体重が重い美紗にはかなり効果がある。自分の重さでダメージが倍になってしまうのだ。
香は美紗を見下ろした後自陣に戻った。
栄子はジュディの腕を掴んで起こした後、二人で美紗を起こした。そして、先程のラリアットのお返しとばかりに、ジュディのサポートを受けて美紗の首の正面から右手で喉輪を入れ、左手で後頭部を押さえ、そのまま持ち上げ、喉輪で地面に叩き付ける必殺技、喉輪落としを決めた。
美紗はまともに食らってしまい動けなくなってしまった。
それから栄子は試合権利を持つ亜湖を捕まえ、ジュディはさくらを捕まえた。
栄子は亜湖の髪を掴み引きずって、リングに入れた。そして自分も戻った。
一方ジュディはさくらのツインテールを掴んで起こした。さくらはフラフラしてチョップ一発でまた大の字になりそうな状態だったが、ツインテールを掴むジュディの腕を握っていた。
ジュディはさくらのパンティを掴みリング内に入れた。さくらは転がって入りながら右手でパンティを直した。
『その目が気に入らないね。倒れっぱなしの癖に諦めてない所が。脅えた羊みたいだったらまだ可愛いげがあるのにさ』
ジュディはリング内で起き上がれず倒れてままでいるさくらを見下ろして言った。さくらは流暢な英語で呟くジュディが何を言ってるのかは理解できなかったが、この間のタッグマッチのような終わり方―――ジュディに羽かい締めにされて亜湖の敗北をただ眺める事しか出来ない―――というのだけはさせまいと思っていた。
だから絶対ジュディに何をやられても立ち上がる、と。
さくらはゆっくりとうつ伏せになり、それから上体を起こそうとした時にツインテールを掴まれた。

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