百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第10章 記念試合10

ビクッ……ビクッ
亜湖は気を失っていた。香は両肩から亜湖の足を下ろして立ち上がった。そして場外に水を要求した。
場外からペットボトルが投げ込まれると香はそれを取り、キャップを開けた。そして大の字になって痙攣している亜湖の頭の横に立ち、そのままペットボトルを傾け、斜め横を向き、寝ているように目を閉じている亜湖の額にバシャバシャと水を掛けた。

ジュディと栄子は勝負がついてからもさくらと美紗を離さなかった。香が何もしなければ離したが、亜湖の顔に立ったまま水を掛けるという屈辱を与える行為を行った為、それをじっくり邪魔させずに見させる為にはなさなかった―――特にさくらに。

「センパイ!! 亜湖センパイ!」
さくらは叫んだ。両手両足固められたままなので動けず、また亜湖の敗北を目の前で見る事になった悔しさに目をきつく閉じて首を振った。

香は亜湖が意識を取り戻し、ペットボトルの水が少なくなった事を確認すると水を掛けるのを一旦やめた。そして亜湖の腰の横に移動し、再びペットボトルを傾けた。
ブラジャーの上から掛け、そして細く垂らしながら腹の上を移動しパンティに残りの水を掛けた所で水は無くなった。
「私……、負けたんだ……」
亜湖は体に水を掛けられながら呟いた。動こうとは思わなかった。全身にダメージを受けて動けなかった事もあるが、香に完璧に負けた事で、この状況を受け入れるしか無いと思ったからだった。
顔を上に向け、香を見た。香もそれに気付き亜湖に視線を向けた。逆光でよく見えなかったがその表情は無表情―――吸い込まれそうな、飲み込まれそうな恐ろしさを感じたが、視線を自分から外す事も出来なかった。
香は空になったペットボトルを場外に投げ、亜湖から離れて自陣に戻った。それを見て、ジュディと栄子はそれぞれさくらと美紗を放した。
さくらは亜湖の隣へ行き、四んばいでうなだれた。
「センパイ……ごめんなさい。……また助けられませんでした……」
さくらは泣かなかった。ただ、唇を噛み締め、絞り出すように言った。亜湖はそれを聞いて顔をさくらに向け、
「さくら、ありがとう。さくらがジュディの気を引いてたからここまで粘れたよ。でも勝つにはまだまだ練習しないとだね」
と答えた。さくらはうなだれたまま、
「センパイ、悔しいです……」
と言った。美紗も亜湖の所に来て、
「亜湖、さくら、済まなかった。ジュディがあそこまでさくらに粘着するとは思わなかった。作戦ミスだった」
と謝った。栄子の攻撃を耐えた後はフリーになる筈のさくらを活用して有利に進める筈が、さくらがずっとジュディに捕まっていて何も出来なかった。そしてさくらを助けて作戦を修正する事も出来なかった。
香はリング中央に倒れている亜湖、そして左右隣にしゃがんでいる美紗とさくらの三人をコーナーに寄りかかって腕を組み見下ろしていた。美紗は香の視線に気付いた。
「てめェ……」
冷たい視線で見下ろされてる事に美紗は激高した。すると香はゆっくりと指を差し、
「次は美紗、あなたの番よ。まだ私の力では勝てないようだけど、次は間違い無く叩き込んであげるわ」
と言った。美紗は、
「やれるもんならやってみろ」
と立ち上がって返し、香と睨み合いになった。香はコーナーに寄りかかったまま動かずに、視線だけを動かし、美紗から外さなかった。
「美紗さん、やめて」
上半身をゆっくりと起こして亜湖が言った。美紗はそれを聞いて、
「ナメられてんぞ。いいのか?」
と聞いた。亜湖は首を振った。それから、
「良くないです……。……でも勝たないと、試合で」
と答えた。美紗はフッと笑い、
「そうだな、確かにお前の言う通りだ。勝たないと何言っても駄目だよな」
と言い、香から目を離し、亜湖に肩を貸した。亜湖は軽く会釈をして美紗の好意に甘えることにした。さくらは亜湖が立ち上がるのに手を貸し、亜湖は立ち上がり、三人はリングを後にした。
その後、香達は勝ち名乗りを受けてリングを降りた。

控室に戻ると銀蔵と洋子が待っていた。
「また二人共病院行くよ。着替えて来て」
洋子がそう言った。亜湖とさくらは、
「はい」
と返事をした。

一方香は控室に戻るなりポニーテールを解き、シャワー室に入った。汗を流しながら、次は美紗を倒す事を誓っていた。

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