百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第11章 凶悪タッグ1

「うわっ。これ、最高」
良は先日行われた香チームと美紗チームの六人タッグマッチを事務所で椅子に掛けて見ながら両手を頬に当てて呟いた。過去の試合は検索をすれば見る事が出来るので当日丸紫に居なかったり、後でもう一度見たいとかいう時も見る事が出来るのである。
亜湖が鉄柵にぶつけられて声を上げたり、更に鉄柵の外に放り出され大の字になっていたり、さくらが机の上に投げつけられて俎板の鯉状態になったり、極め付けは亜湖の痙攣を見て、である。
下着姿の亜湖とさくらがその様な姿を晒していたのがいちいちいやらしく、しかも良はそういうのが好きだった。しかし、良には一つの事が引っ掛かっていたのである―――。

それは良自身が亜湖に負けた事―――。

そして負けた事によって―――亜湖やさくらのエロポーズ晒しを狙いに行ってもまたバックドロップで沈められるのではないかとの恐怖心が芽生えてしまったのである。
「くっ……」
それを思い出し、悔しさに頭を掻きむしりながら良は声を絞りだした。そこに、
「おい、エロ良。なに感じてるんだよ」
と声を掛けられた。良はガタッと音を立てて勢い良く立ち上がり、
「誰が感じてるって!?」
と声に向かって返した。するとそこに立っていたのは、良より少し身長があり体重は良より20キロ程重そうな、165cm80kg位の覆面姿のいかにも悪役風のレスラーだった。
「プルトニウム関東! あたしを笑いに来たの!? 亜湖に負けたあたしを」
と両手を机に強く押し付けて言った。その時机がミシッと軋む音を立てた。プルトニウム関東は両腕を広げて両掌を上にして首を振った。
「お前、亜湖に仕返ししたいんだろ?」
と聞いた。良は、
「当たり前よ。それにあたしの手で亜湖を痙攣させるんだから」
と険しい表情で答えた。すると関東は、
「ならついでに香みたいに亜湖のブラジャー取ってみないか? それから気絶させる。盛り上がるし最高の屈辱を与えてやれるぜ」
と口元を緩ませて言った。良は、
「あんたとあたしが組むって事?」
と聞いた。関東は、
「そうさ、察しがいいな。それに奴らは下着姿なんだから客にサービスしないとな」
と言った。良は、
「あんただけがオイシイ所持っていかないなら―――いいよ」
と答えた。プルトニウム関東は、
「勿論さ。その為のタッグだしダブルの攻撃さ、さくらもやっちまうって事だ。仲良くやろうぜ」
と言った。ダブルの攻撃をメインにし、偶然を装って亜湖とさくら、二人のブラジャーを奪い取ろうという事だった。
「確かに、さくらはウザイよね。先にさくら痛めつけてからゆっくり亜湖を料理―――がいいかもね」
良は呟いた。そして暫くの間二人の笑い声が部屋に響いていた。

亜湖とさくらは第三練習室で洋子の指導を受けながら練習していた。そこに社長と銀蔵が入って来た。
「こんにちは」
亜湖とさくらは練習を止めて挨拶した。社長は、
「激しい練習ね、結構よ」
と言った。そして、
「次の対戦相手は、草薙良とプルトニウム関東よ。つまりタッグ戦」
と言った。洋子はそれを聞いて、
「またタッグ戦ですか?」
と聞いた。ここ、丸紫はシングル戦を重視し、タッグ戦はあまりしていなかった。事実、香はタッグ戦のやり方を亜湖達と試合する事で覚えた訳だし、今こうやって話をしている時でもリングでは試合をしているが、その試合もシングルである。その為、洋子は不思議に思った。
「相手からの申し入れよ」
社長は答えた。亜湖はそれを聞いて額の汗を拭い、
「さくら、気を付けた方がいいね」
と言ったさくらは、
「何をですか?」
と聞いた。亜湖は、
「きっと草薙さん、何か狙ってる……」
と答えた。以前、良と対戦した時、良はさんざん亜湖を馬鹿にしながら負けた。あの後良は馬鹿にした事を謝りに来たし、それ以来あからさまに馬鹿にする事はなくなったが、明らかに下に見ていた亜湖に負けたのだから復讐に燃えてる事は容易に想像出来た。また、馬鹿にしていた内容―――亜湖がいやらしい格好を晒した事―――からして、今度こそそうさせてやる、と思っていてもおかしくなかった。
しかし、亜湖とさくらの受け身のファイトスタイルではそれを防ぐ事は難しいのは目に見えていた。

次の日―――、良は練習中の香に声を掛けた。香は不審に思い、真意を問いただした。良は、
「他意は無いよ。香は亜湖の体力をうま〜く奪うと思ってさ」
と答えた。香は、
「別に……。まだ亜湖は私とは体力勝負出来ないだけよ」
と言った。良は、
「だ〜か〜ら。何で亜湖があたしには体力勝ちしたのか聞いてるのよ。香から見てあたしはそんなに弱いの!?」
と不機嫌そうに言った。香は、
「草薙さん、パイルドライバーとかに異常にこだわってませんでした? そういうタイプには見えませんけど」
とさらりと流した。良はまるで力勝負では亜湖には全く勝てない様な言われ方をしたのでカチンと来て、
「な……何をっ。亜湖を気絶させるには手っ取り早いじゃん―――!」
と言い返したがその瞬間、一つの事に気付いた。
「そっか。今回はそーゆーのはプルトニウムに任せればいいのか」
手を打って言った。つまり亜湖を気絶させるような技はプルトニウム関東に任せて、良は体力を使わずかつ、得意なグラウンドでねちっこく行く。亜湖やさくらがもがき苦しむ姿を、技の力を調節しながらニヤニヤ見ていれば良い。
完全に役割分担し、そして亜湖とさくらが弱ったら後はゆっくりと"仕上げ"をすればよい、という事だった。
「ありがと、香」
良はウインクして練習室から出ていった。香は、
「プルトニウムと組むなんて悪趣味ね……」
と呟いた。自分が試合出来ない間に美味しい所を持って行かれるのは我慢出来なかった。
さっきの良の台詞―――亜湖を気絶させる―――と言った所から良が何をしようとしているのかは大体見当がついた。香が抱いた劣情、亜湖に弓矢固めやロメロスペシャルを掛けて、ブラジャーの有無で亜湖の胸の揺れ方どう違うかを楽しむとか、そういう事と似たような事をしようとしている―――それならプルトニウム関東と組むのはピッタリだった。
「まあ、いいか……」
香は良やプルトニウムを止める権利は無かったのでそう言って強引に納得するしか無かった。また、態々この事を亜湖とさくらに警告してやる気も全くおこらなかった―――。

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