百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第11章 凶悪タッグ7

事務所では香が不愉快そうにモニターで試合を見ていた。
「亜湖あんた、勝つ気ないの……? あんなの(毒針エルボー)まともに受けて、私だって食らったら返せないわ……」
香は呟いた。良とプルトニウム関東にいいようにやられている亜湖に対して苛立ちを見せていた。
「少しは反撃しなさいよ、でないとさくらが動けないわ。さくらは格下なんだから、あんたが攻撃しないとさくらは草薙さん達にはかなわないって思うじゃない……」
亜湖をいたぶるのは自分だけ、と思っているだけに今の状況が気に入らなかった。
「一回も攻撃してないじゃな―――」
香はそう言い掛けて一つの事に気付いた。亜湖さくら組が一回も攻撃していないのと、良とプルトニウム関東は亜湖とさくらにあれだけ攻撃を入れながらまだ一度もフォールに行ってない。
「亜湖……あなた、負けるわ……」
香は呟いた。フォールが一回も無いということは、レフリーがカウントを取る早さが分からないという事である。その早さはレフリーによっても違うし、同じレフリーでも日によって違う。その為、前半から取り敢えずフォールを何回かするのである。
香も試合前半からフォールをし、また、自分が攻撃を受ける立場になった時も相手に一度はフォールさせ、それから隙を見て反撃している。
―――受け戦法を取る亜湖がこの試合のレフリーのカウントスピードを知らないとは―――
亜湖はなおの事知らなければならないのだ。追い詰められてから初めてフォールされたのでは体にカウントスピードが刻まれていない状態では返す前にカウントスリーだって有り得るのだ―――。
良とプルトニウム関東はそれを狙ってやったのか、それとも偶然なのかは分からないが、兎に角毒針エルボーを受けてしまい、更に試合開始から今まで一度もフォールされなかった亜湖の敗色は濃厚だと思った。


良は亜湖の髪を掴んで起こそうとしたが亜湖は首を軽く振り、起き上がらなかった。良は髪を掴み直し、ギュッと沢山掴んだ。汗でゴワゴワになっていて、ボブカットはメチャメチャに乱れていた。
そして左手で亜湖のブラジャーのベルトを掴んだ。亜湖は右手で良の左手を離させようとしながら仕方なくゆっくりと立ち上がった。しかし、足取りはフラフラしていてちょっと攻撃入れれば倒れそうである。
良はかつて、亜湖に
「倒れてただけじゃん」
と言った事があった。今はまさにそのような状況で、亜湖は倒れっぱなしだったので今立ち上がったのも随分久し振りに感じた。
良は亜湖の髪から右手を離し、左手を掴む亜湖の右手を掴んで後ろ手に絞り上げ、そして左手はそのままブラジャーに沿って亜湖の右脇から左脇に移動させ、ぎゅっとベルトを掴み、亜湖の後ろに立つ形になった。
「う…あ…あっ…」
右腕を後ろ手に絞られその痛みに声を上げた。良はそれを聞いて、左手をブラジャーから離し、髪を掴んで頭を下げさせると場外へ放り出した。そしてすぐにトップロープを飛び越え、落ちた亜湖にボディアタックを入れた。
それから亜湖の髪を掴んで起こした。亜湖はフラフラと起き上がった。良は、リングにフェイスクラッシャーの様な感じで叩き付け、崩れ落ちそうになった亜湖の髪と、またブラジャーのベルトを掴んだ。亜湖はブラジャーを外されたら堪らないので何とか崩れないように踏ん張った。良はそのまま後ろに引っ張り、鉄柵にぶつけ、至近距離から浴びせ蹴りを入れた。亜湖は鉄柵に捕まりながらも腰から崩れ、両足を前に投げ出した。

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