百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第11章 凶悪タッグ9

良はスリーカウントとカウント後に鳴ったゴングを聞いた後、亜湖を離し飛び上がって喜んだ。亜湖はそのまま片膝を立てた状態の大の字になり、胸と腹が呼吸に合わせて上下する以外、動かなかった。
さくらはうつ伏せのまま両手で顔を覆って悔しそうに首を振った。プルトニウム関東は立ち上がり両拳を上げた―――。
良はプルトニウム関東とガッチリ握手した後、倒れたままの亜湖を見下ろした。この間は亜湖が良を見下ろしたが今度は良が、だった。
「クククッ、アハハハッ!」
良は倒れている亜湖に向かって声を出して笑った。兎に角これで汚名は返上したのだった。シングルとタッグの違いはあるが、良が亜湖から直接ピンフォールを奪った事、そしてチームとして亜湖とさくらを完膚無きまで叩き潰したからだった。
「亜湖、次はシングルだからね。そこで今と同じ姿にしてあげる」
良はそう言い、それから、
「フフッ、香にも借りは返さないとね―――倍返しでね。シングルとタッグで」
と言った。そう、以前、香のポニードライバーの餌食にされた事に対して、である。良は香に叩き潰された後は香とはタッグも含め試合をしないようにしていた。また、ポニードライバーの餌食になることを恐れて―――。その為中堅でいる事に満足し、上を目指す事を忘れ適当に新人や格下相手に星を稼ぐというセコイ事に終始するようになってしまった。

何処かでそんな自分を軽蔑しながら―――である。

良は今や伝説と化した生徒会長を直に見ていた。体格的には良より少しだけ大きく、香やさくらに近かったが、技巧派で頭を使った試合運びをした生徒会長に憧れ、そして生徒会長と闘う事を夢見た。そして生徒会長が引退しそれが叶わなくなると、台頭して来た美紗に照準を合わせる等、元々は向上心溢れる性格だった。
その後、美紗に文字通りの圧倒的な『力』の差で破れ、その後、香にも叩き潰されて技巧派ではパワー派には敵わないんだ、生徒会長が特別だったんだと、向上心を失ってしまった―――。

しかし亜湖に負けた事で火がつき、失っていた向上心を取り戻した―――。あたしはこんな思いをする為にここに来たんじゃない―――、と。強くなりたかった、兎に角一番になりたかったのだ、と。
そして特訓やプルトニウム関東とのタッグ結成と、プライドを捨てての練習で得たものが良に本来以上の技のキレと、自信を与えた。

さくらが頭を押さえながらゆっくりと立ち上がった。良はさくらの足元を指差し、
「ブラジャーならそこにあるよ。あたしは香みたいに奪わないから」
と言った。さくらは前に屈んでゆっくりと拾い上げたが着けずに手に持っていた。良は、
「着ければいいじゃん、恥ずかしいんでしょ?」
と言った。さくらは肩で息をしながら頷いたが、
「恥ずかしいけど―――いい。……苦しいし、これだけ見せびらかしたんだから今更……」
と言って下を、いや、亜湖を見た。亜湖は前に香にブラジャーを奪われたのだった。それがどれだけの事なのか―――、と思うとセンパイは耐えたのだから控え室まではこのままでいよう、と思った。そして亜湖の横に座り、亜湖に声を掛けたりした。
「フーン、結構変態さんなんだね」
良はニヤリと笑って呟いた。さくらは何も言わなかった。

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