百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第11章 凶悪タッグ10

良はプルトニウム関東と共に勝ち名乗りを受けると、リングから降り、控え室に向かった。控え室から廊下に出て香を探した。すると体操着にブルマ姿の香が事務所から出て来た。髪はポニーテールではなく、眼鏡を掛けていた。
「見たでしょ?」
良はニッと笑って言った。香は、
「見たわよ、やりたい放題だったわね」
と答えた。良は、
「次はシングルでやってやるから―――亜湖をメチャメチャにね。今回はさくらで楽しめたでしょ?」
と言った。香は顔色を変えずに、
「亜湖だって修正するわ。次は簡単には行かないんじゃないの?」
と返した。良は、アハハハッと笑った後、
「亜湖には高い評価するんだね、あたしをナメてるのかな?」
と腕を組んで言った。香はそれを聞いて、
「そんな事は無いわ。唯、草薙さんは相手を甘く見るから言っただけよ」
と答えた。良は、
「フーン。でも心配無用だよ。それよりあんたがさっきしたピンフォール予想、あたしがさくらからってヤツ」
と言った。香は、
「外れたわね」
とだけ答えた。良はそれを聞いて、
「あたしは亜湖から奪う事しか考えて無かったよ」
と言った後、一呼吸置いてから、
「相手を甘くみてるのは香じゃないの? あたしじゃもう亜湖には勝てないって決めつけられたみたいで内心ムカついた」
と言って、両腕を下ろしてから、
「亜湖にシングルで勝ったら次は香、あんただよ。あたしが前に香を馬鹿にしたから負けたんだとしたら、次はあたしを馬鹿にした香の番。覚悟を決めといて貰おうかな」
と言って指差した。香はこれ程真剣な良の表情は見た事が無かった。
「分かったわ、受けるわよ」
と答えた。そして、
「但し、フィニッシュ技が無いと私は倒せないわ。ローリングクレイドルじゃ無理よ」
と言った。良はバックドロップを失った今はそれ以外にフィニッシュ技を持っていない。痛い所を突かれたが、それは練習すれば良い―――と思った。そして、
「そーゆー所がナメてるって言ってるのが分からないのかな?」
と牽制した。香はそれに対しては何も答えなかった。良はフッと笑い、
「まいっか、事実だし。それに口で言い合ったって無意味―――そうでしょ?」
と両腕を広げて言った。香は、
「そうよ。私達は勝たなければ何の価値も無いわ」
と答えた。良は、
「フフッ、ならあたしはあんたを倒して価値を上げてやるわ。じゃあね」
と笑い、手を上げて香と別れ、着替える為に更衣室に入った。

香は、良が更衣室に入って行った後も暫くその場から動かなかった。良の偵察を兼ねて練習相手をした時、良は亜湖に負ける前とは明らかに変わっていた。執拗なグラウンド技で香の動きを封じ、練習とは言え勝利への執着を見せたからだった。
もっとも、長い間中堅に満足し、それなりのトレーニングしかせず、体力の落ちていた良が香に勝てる筈は無かったが―――。

良が本気でやって欲しいと言ったから、毎回ポニードライバーを叩き込んだ。それは練習でも相手を叩き潰す、という香のいつものやり方―――。だから香との練習を嫌がる者が多いのだが、良は違った。ポニードライバーを叩き込んだ最初の練習から二日後、再び見に行くと良は相手をして欲しいと頼んできたのだった。先輩であるにも関わらずに。
「だからって、簡単には上がって来れないわ……」
香は呟いた。そしてゆっくりと練習室に向かった。良の対策も新たにしなければならなくなったから―――である。


良はシャワーを浴びた後服を着て更衣室を出た。普段着もリングコスチュームと同様、動きやすいTシャツと半ズボンだった。
「さてと、次は誰とやろうかな。香はまだ早いからね、でも半年から一年以内には―――」
良はそう言った後、事務所で社長と銀蔵に挨拶をして帰って行った。

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