百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第12章 大先輩2

良は4つある練習室を一つずつトレーニングエリアが空いてるか確認していた。三部屋見たがどこも誰かしらいた。
もっとも、あいてる機材を使えばいいのだが、リングや他の所を使われるのはいいのだが、トレーニングは一人で落ち着いてやりたい気分だった。
「全く……亜湖やさくらと試合したい中堅だらけじゃん」
この頃急に真面目にトレーニングする人が増えた事に良はボヤいた。女から見てもエロい亜湖やさくらと試合して、亜湖やさくらをリング上で大の字にしてやろうと思ってる事が見え見えだった。兎に角丸紫には何かしら訳アリの人が来るので、相手を辱めようという感情が働くのはある意味当然ではあった。まあ自分もそうだから人の事は言えないが―――。
良はまだ確認してない部屋のドアを開けた。
「あああっ!!」
叫び声がしたので思わずドアを閉めた。
「あれ? でも今の―――、香?」
良は呟いた。香がやられているなら見ない訳には行かない。良は香を倒すと宣戦布告した訳だから、練習とはいえ香に技を掛けてる人がいるのだからトレーニングを後回しにしてでも見ておくべきだと思った。
良はもう一度ドアを開けて練習室に入った。
「こらまたシュールな風景……」
リング上では香が何者かに技を掛けられて、脱出出来ないで苦しんでいて、リング下で亜湖とさくらがそれを心配そうに見ていた。
しかし、香に技を掛けてる人が誰だか分からない。兎に角あれだけ強い香に対し一方的にグラウンド戦に持ち込み、しかもロープブレイクさえもさせないのである。香はやられるがまま、声を上げる事しか出来ずにいた。

良は香に技を掛けてる人に注目した。女の人は一旦技を解いてから香のポニーテールを掴んで起こし、コーナーに振った。香は向きを変えて背中から激突し、間髪入れずに女の人は香にタックルを入れた。香は反動で前にうつ伏せに倒れ、動かなくなった。
そして、更に素早くグラウンドに行った。腕絡みからのコンビネーションで最後は胴絞めスリーパーに入った。
「あ、あれは……」
良は驚いた。良が以前香に練習相手を頼んだ時に仕掛けたコンビネーションだったが、途中で香に返されて、胴締めまで行けなかったのである。
良は入り口で見てたが、リングの側まで来て近くで見た。技を掛けてる方の顔は見えなかったが、このコンビネーションは良が自分より年下ながら目標とした人に間違いなかった。
「生徒会長!?」
良は言った。女の人は、
「あら。その声は草薙先輩?」
と、香に胴締めスリーパーを掛けた状態で聞いた。良は、
「何でここに―――?」
と聞くと、生徒会長は、
「ちょっと社長に会いに来ただけよ。こうなったのは成り行きね」
と答えた。香は生徒会長の絞めが緩んだ隙を突いて脱出し、逆に生徒会長に腕絡みを掛けた。
「うぐっ!」
生徒会長は苦しそうに声を上げた。そして、
「詳しい話は……後で……」
と腕に走る痛みに耐えながら言った。

亜湖とさくらはこの女の人が学校の裏サイトで噂になっていた生徒会長だったことを知り驚いた。
非常に強いという話だったが、話にたがわず引退して5年経つにも関わらず、美紗、栄子に続く現役No.3と言ってもよい香を手玉に取っていたのだ。

生徒会長は香ごと体を引きずりロープに足を掛け、ロープブレイクした。
香は技を解き、生徒会長の髪を掴んで起こし、コーナーに振り、ボディアタックを決め、もう一度コーナーに振った。香はすぐに追い掛けた。
「アレが来る……」
良は呟いた。


―――5年前
「あたしは体軽いからコーナーに振られたらどうしたら―――?」
良は生徒会長に聞いた。生徒会長は少し考えて、
「草薙先輩の場合、どうだろう―――」
と言った。それから良に、
「その悩みは、相手が重いときどう対策するか、って事だよね?」
と聞いた。良が頷くと、
「じゃ、私をコーナーに振ってすぐにラリアットかボディアタック入れて」
と言った。良は言われた通りにやってみた。すると、ボディアタック決めた筈なのに、フォールされていた。


良は5年前の事から、生徒会長が香に切り返す事を予測した。香はコーナーにもたれかかった生徒会長に間発入れずに完璧にラリアットを決めた。反撃の時間など与えなかった。
しかし、次の瞬間、フォールされてしまった。
「ワン、ツー、スリー」
生徒会長がゆっくりカウントを数えた。香はフォールされている事に気付き、足を振り上げたが既に遅かった。
「な、何で……」
香は理解出来なかった。ラリアットは完全に入った。避けられていない、生徒会長はそれを受け、倒れる筈だった。それなのに気付いたら丸め込まれて負けていた。
「体力勝負にならないようにしたよ。そうなったら今の私じゃあなたには勝てないから」
生徒会長は言った。香は起き上がって、
「……ありがとうございます。後は自分で考えます」
と言った。香は生徒会長が肩で息をしていた事に気付いた。スポーツインストラクターやっているので筋力や体力は相当ある事には間違いないが、人に対して技を掛けたり等はしていないため、香の相手をした―――つまり、抵抗する相手を力で押さえ込む事で、生徒会長は体力を相当削られたという事である。
そういった状況の中で香から確実に勝ちを取りに行った、体力で勝る香に対して―――。技を"完璧に受けて"それから返す、しかも丸め込んでしまう―――。生徒会長にラリアットを決めた後、髪を掴みに行った時だった。
前のめりに倒れかかって来た生徒会長はそのまま倒れると見せかけて足を絡めてそのまま丸め込んでしまったのだった。
美紗に対して向かって行く香にとって、今の生徒会長の勝ち方は、美紗に対してどう闘うかのヒントを沢山教えてくれた。その為、香は生徒会長に頭を下げた。
「いやいや、あれで精一杯だったよ」
生徒会長はそう答えた。

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