百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第12章 大先輩3

1時間後―――事務所では社長と生徒会長中心に輪が出来ていた。
「しかし、珍しいわね。もう来ないとか言ってなかった?」
社長が言った。生徒会長は、
「もう来ないとは言いませんよ、リングには立たないとは言いましたけど」
と笑って答えた。さくらは、
「でも、あんなに強いのに、何で引退を……?」
と聞いた。良はそれを聞いて、
「彼氏でも出来たんじゃないの? もし今でも続けてて、下着姿の亜湖を痙攣させてるの彼氏に見られたら、彼氏ドン引きじゃん」
と笑って言った。亜湖は思わずその場を想像して顔を真っ赤にしてしまった。生徒会長はにこっと笑って、
「草薙先輩が言うのも悪くないわね―――」
と良に話を合わせて言った。良は、
「でしょ? もったいないよ。最強なのに―――」
と言った。生徒会長は、少し寂しそうな顔をして、
「でも、その―――、最強って言われてる時に辞めたかった。元々高校卒業で辞めるつもりだったけど、卒業前、最後に美紗とやったんだ」
と言った。その試合は生徒会長が最後と決めていた試合で、対戦相手を募ったら真っ先に美紗が立候補して決まった試合だった―――。


試合は一進一退だった。生徒会長対美紗は三回目の対戦だった。一回目、二回目は生徒会長が美紗の得意な形に持っていかせずにさっさと丸め込んで試合を決めていたが、

この時はそうは行かなかった。
美紗はアマレスの経験があるどころか五輪代表候補にまでなった選手だった。過去に負けた試合から生徒会長のグラウンド技を研究し、それに持っていかせなかった。
コーナーに振って体当たりしたらすぐに離れ、そこからの切り返しを許さず、倒れた生徒会長に逆にグラウンド戦を挑んだ。
また、場外戦を多用し、生徒会長に綺麗な試合をさせなかった―――。
「うぐぐ……」
生徒会長は頭と背中を押さえながら場外で蹲っていた。前髪は現在とは違い、目に被さっていた。生徒会長も亜湖や香と同様に未成年は顔にモザイクが掛る事を知ったのは新人戦の時だったので、普段の自分とは違う自分にするためにそのような髪型にしていた。その為、表情は読めなかったが、汗の量や動きの鈍さから体力は相当削られた事は分かった。
一方攻めてる美紗も生徒会長の多彩な攻めを防いだといっても全てではない。やはりかなり受けていて、そのダメージが残っている中で攻撃していたので疲れは相当たまっていた。
美紗は生徒会長の髪を掴んで起こし、一回リングに叩き付けた。生徒会長はリングにそのままもたれかかった。美紗はもう一度生徒会長の髪を掴み、もう片手でミニスカートのベルトを掴んでリングに入れ、自分もすぐにリングに入った。
そして生徒会長の髪を掴んで起こした後、ロープに振った。はね返って来た生徒会長に向かって右腕を出して振った、美紗の必殺技のラリアットだった。
生徒会長は上体を屈めて避けた。美紗には負けた事が無い―――、つまりこの技の威力を知らない訳だが、美紗の勝った試合を見たり、ラリアットやパワーボムを食った人に感想を聞いたりしていたので、この技は絶対に食ってはいけないと思い避けた。
しかし、見方を変えれば、この技を出させるまで自分が追い詰められた、という事だった―――。

生徒会長はラリアットを避けた後、美紗に体勢を整える間を与えず、後ろから組みつき、美紗の両腕をロックし、後ろに放り投げた。
生徒会長の必殺技、フルネルソンスープレックスである。
美紗は食らっては後頭部を打ち付け、返せないと瞬間的に判断し、両腕に力を入れて脇を締めるようにし、強引に投げられながらもふりほどいた。そのまま落ちればダメージを受けるが両腕が自由になったので受け身が取れるし、生徒会長が下敷になるので先に起き上がれる可能性が高かった。
生徒会長は自分のフィニッシュ技を脱出されてしまったのでそのままだと生徒会長が頭を打ち、その上美紗の体重に潰されてしまう。それを防ぐために左手で美紗の尻を支え少し体を捻り、変形のバックドロップの形で美紗を投げ捨てた。
そして、すぐに起き上がった後、倒れている美紗に最後の力を振り絞ってもう一つのフィニッシュ技、ジャンピングニードロップを落とし、すぐにフォールした。
「ワン、ツー、スリー」
カウントスリーが入った。美紗は足を振り上げたが間に合わなかった。
生徒会長は半回転し仰向けになって天井を見上げ、その後両手で顔を覆い、暫く起き上がれなかった。

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