百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第12章 大先輩4

「フィニッシュ技を出されて、私のフィニッシュ技をほどかれて、それで最後も返されそうだったから、あそこで引退して正解だったんだよ。あれ以上やったら多分何回やっても勝て無かったと思う。体力差がかなりあったからね」
生徒会長はサラッと言った。しかし、香は、
「そんなのやってみないと分からないわ。それに、体格差なんて言い出したら私なんて一生美紗に勝てないじゃないですか。私は生徒会長が美紗に勝ったのを知って励みにしてるんですよ」
と反論した。生徒会長は首を振り、
「そうだねぇ、私は美紗に『体重に拘ってる限り私には勝てない』って言い続けてたけど、美紗がここでの闘い方を覚えてきたから、体格のいい美紗が有利だよ―――、でももっと根本的な所ね」
と言った。亜湖は、
「根本的、ですか?」
と聞いた。良は、
「突然会長は辞めて消えちゃったからそこは闇の中だね」
と頭の後ろで腕を組んで言った。
「A子ちゃんはどうしてここで闘ってるの? 答えたくなければいいけど」
と生徒会長は突然話を振った。亜湖は黙りこんでしまった。孤児院が潰れ、その後色々あってここにたどり着いた、等と初対面の人に話せる事では無かった。生徒会長はフーッと息を吐いて、
「言いにくいよね? それって結構重い事だと思うんだ。下着姿を晒してる位だから」
と言った。亜湖は勿論さくらもそれを聞いて顔を赤くした。生徒会長は、
「美紗も同じ様に重いものを背負って入って来た。それが何か私が言うのはルール違反だから言わないけどさ」
と言った。香は気付いた。生徒会長は美紗や亜湖、さくらの様に重いものを背負って来た訳では無い―――、つまり、

技を掛けて相手の反応を楽しみ、それに快感を感じていた香自身―――

香と全く同じかどうかは分からないが兎に角生活に困窮して来た訳では無い、趣味の一貫として闘っていた、ということだ。
それでも体はそこそこ有り、練習は当時いた他の誰よりも真面目にやり、元々のセンスが良かったからトップに立てた所謂天才肌―――。そんな生徒会長に対し、年上とはいえ後から入って来た体格の勝る美紗がハングリー精神全開で生徒会長を越えようと必死になって来たら―――。
追われる身となった生徒会長は相当なプレッシャーを感じたのではないか?
だから、入門の時点で高校卒業で引退しようと決めて入門した。そしてその後入門してきた美紗と二回闘い、そして高校卒業直前での対戦では美紗にギリギリでしか勝てなかった事で、引退の決意をより強固にしたのではないか―――、香はそう分析した。
香は、同じく趣味として闘っているが、生徒会長とは違い、美紗を追い掛ける立場である。

「あと一つ言っとくよ。体格と言えばポニーさん」
と生徒会長は香に振った。香は、
「はい」
と返事した。生徒会長は、
「さっきあなたに早めに勝負を決めたけど、多分現役の時の私が闘っても同じ様に闘ったと思うよ」
と言った。香は、
「技が現役の時の方が今より冴えてるからって事ですか?」
と聞いた。生徒会長は笑って、
「ううん、違うよ。何が言いたいか解る?」
と聞いた。香は暫く考えたが答えが見付からなかった。生徒会長は、
「私とあなたは体格は殆んど同じだけどタイプが違う。私は体力型じゃないからああいう攻めになったって事。でも、美紗を倒すのに一番必要なのが体力だからね。体力のあるあなたなら今覇権握ってる美紗を倒せるかもねって事」
と答えた。香はそこに話が来る事は予想出来なかった。
「でもまだ体力勝負は出来ないみたいです」
香は直近で美紗に敗れた試合やこの間の六人タッグの事を思い出して言った。生徒会長は、
「そりゃそうだよ。いくら体力型でもまともにやり合えば体格が全然違うんだから美紗には負けるよ」
と答えた。香は、生徒会長の言いたい事が分かった。生徒会長は、
「自分から体力勝負はしないけど、時々そういう展開にどうしてもなる。その時に体力が必要って事」
と言った。香は、
「はい」
と言った後、一息ついてから、
「一つお願いがあるんですけどいいですか?」
と言った。生徒会長は、
「なに?」
と聞いた。香は、
「美紗攻略のコーチをして欲しいんですけどいいですか?」
と聞いた。生徒会長は目を細めてニコッと笑い、
「しょっ中は来れないけど、出来るだけ来て教えてあげる」
と答えた。香は、
「よろしくお願いします」
と頭を下げた。素直に教えてもらいたかった。生徒会長は、もう自分は通用しない様な言い方だったが、香から見れば今だって充分強く、美紗には負ける事もあるだろうけど、トップ争い出来る力を持っている。落ちた体力を取り戻し、更に上げればいいのである。
しかし、それについては本人が全くやる気がない訳だから仕方ないが、美紗を倒そうとしている香をサポートする気ではいるのだからそれを受けない訳には行かなかった。
兎に角、香が欲しかったのは自分より強い練習相手―――、今のまま練習してても決して美紗に勝てるようにならない。しかも生徒会長は美紗攻略方法を沢山知ってる人だ。

「ポニーとの話は成立ね」
生徒会長は机に手を置いて立ち上がった。香は、
「私と"は"?」
と聞いた。生徒会長は、
「そこの二人に教えるのも悪くないと思ってね」
と、亜湖とさくらを差して言った。香は、
「生徒会長にも何か感じるものがあったんですか?」
と聞いた。生徒会長はニコッと笑って、
「まあね。人気者だし」
と答えた。亜湖は以前良に、あんた達は人気だけはあるんだよ。と言われた事を思い出し、顔を赤くした。
香はクスッと笑ってやっぱりね、と思った。大して実績の無い亜湖とさくらに興味を持つとしたら下着姿でのやられ姿以外に無いだろうと―――。

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