百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第12章 大先輩5

その後、生徒会長は亜湖とさくらを連れて練習室に連れて行った。
「センパイ……、聞いてみません? あの噂の事」
さくらが亜湖に耳打ちした。亜湖はコクリと頷いた。
生徒会長は亜湖とさくらが何かを話してるのに気付き、
「どうしたの?」
と聞いた。亜湖は、
「先輩は、私達と同じ―――、相生高校なんですか?」
と思い切って聞いてみた。生徒会長は一瞬キョトンとして足を止めた後、ニッコリ笑い、
「そうだよ」
と答えた後再び足を進めて、
「そっか―――。そうだったんだ」
とリズミカルに歩きながら呟いた。亜湖とさくらが顔を見合わせながらついていくと生徒会長は、
「私の後輩なら尚更強くしてあげないとね」
と笑顔で言った。そして練習室に入ってから、
「でも何処で私―――、生徒会長を知ったのかな?」
と聞いた。亜湖は少し言葉を詰まらせて、
「学校の裏のサイトです……。そこに生徒会長が昔闇プロレスしてた、ってあって……」
と答えた。生徒会長は笑顔で、
「まいったね。誰が気付いたのかなぁ」
と頭に手を当てて言った。それから、
「気になって生徒会室に行って調べたとか?」
と聞いた。亜湖は、
「はい、済みません。でも誰がそうなのかまでは分かりませんでした」
と頭を下げた。生徒会長は、
「いや、謝る事無いよ」
と言った後、
「名前は伊藤美恵子だよ」
と名乗った。亜湖とさくらは驚いた。生徒会の記録を見る限り、今でも生徒に支持されている事の大半は伊藤美恵子が生徒会長の時に出来た事だった。
彼女は表では学校を良くする為に飛び回り、みんなに支持された生徒会長で、裏では丸紫最強のレスラーの"生徒会長"。このギャップは物凄かった。
「私は長崎亜湖です」
亜湖は生徒会長が名乗ったので自分も名乗った。
「私は宮田さくらです……よろしくお願いします」
さくらも名乗った。生徒会長は、
「いやいや、私はたいした事無いよ。ここで試合するならもっと生徒会で色々詰めるべきだったし、それに疲れたのもあったから」
と謙遜した。そしてリングに先に上がり、指を曲げて上がってくるように指示した。
「私は言われる程いい事した訳じゃないし、いい人でもないよ。ここの方が楽しかった―――、それだけだった」
少し寂しそうにそう言った。亜湖は、
「で、でも……春の文化祭は生徒会長さんが始めた事で、今年、取りやめになりそうになったんだけど、みんなで頑張って続ける事になったんです」
と言った。生徒会長はそれを聞いてふぅと息をついてから、
「物事ってさ、始めるよりも続ける方が難しいんだよ。私は勢いでそれら始めたけど、それを続けてる今の生徒会の方が大変じゃない?」
と聞いた。亜湖はそれを聞いて、
「あ……」
と言ったが次の言葉が出て来なかった。生徒会長は、
「ま、兎に角私は過去の人―――。今の話を聞いた限りでは今の生徒会は評価されてないんだね」
と寂しそうに笑った。そして、
「もっと今の生徒会を褒めてあげないとかわいそうだよ」
と付け加えた。亜湖はそれを聞いて気付いた。生徒会長は当然ながら生徒会の仕事の大変さを一番良く知っている人―――、それだけに、今の生徒会の人が評価されない事を悲しく思ったのではないか―――と。しかも過去の人である自分を持ち出され、比較されたら尚更だと。
「ま、いっか。そんな事はどうでも―――」
生徒会長はニコッと笑って言った。そして、
「とりあえず、亜湖ちゃん、さくらちゃん、どっちからやる? 潰してあげるから」
と満面の笑顔で言った。それを聞いて亜湖とさくらは一歩下がった。生徒会長はニコニコしながらも闘気を出し始めた為、尚更恐ろしく感じた。
亜湖とさくらの体がロープに触れた、もうこれ以上下がれない。
「な、何か気に触った事言ったんだったら謝ります……」
さくらをかばうようにして亜湖は言った。生徒会長は、
「気に触ってなんかないよ。だから、どっちが先か決めてね」
と言った。しかし、亜湖は納得が行かなかった。
「で、でも……潰すって」
と言った。生徒会長は笑顔で、
「ごちゃごちゃうるさいよ」
と制した。亜湖はビクッとした。生徒会長はシャツを直し、ミニスカートのベルトを締め直して、
「しょうがないなぁ、そんなに下着姿で怯えられたらいじめたくなるじゃん。それじゃ練習にならないから教えてあげるよ」
と言った。亜湖は自分が言った事で生徒会長を傷付けたのではなく、他に理由があった事が解っただけでも安心した。生徒会長は、
「とは言ってもとても簡単。さっき二人を強くするって言ったよね? でもあなたたちは新人でしかも受けるタイプだから実力―――特に攻撃力がわからない。だから一回徹底的にやらないとね、って事」
と言った。亜湖は生徒会長のその言葉を聞いて覚悟を決めた。それは今の言葉を話す時の生徒会長の顔が物凄く真剣だったからであった。その前みたいにニコニコしながらでは無かったから―――。さくらに、
「私が先に……」
と言ってブラジャーのストラップを直して一歩前に出た。生徒会長は笑顔に戻り、
「覚悟が決まったんだね、亜湖ちゃんいい顔付きだよ。じゃ、さくらちゃんレフリー宜しく」
と言ってさくらにレフリーを頼んだ。

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