百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第13章 お嬢様の試練1

「貴方達、またタッグやるの?」
香は亜湖とさくらに聞いた。亜湖は、
「はい。相手は佐々木かえでさんと羽富美里さんです」
と答えた。香はそれを聞いて、
「その二人、生徒会長と同期よ。気を付けなさい―――。私はかえで倒したけど一筋縄では行かないわ。羽富とはやってないけど、タッグ専門だから」
とアドバイスした。さくらは、
「どう一筋縄には行かないんですか?」
と聞いた。香は、
「教えられないわ。兎に角一回洗礼を受けなさい。体で感じないと分からないわ」
と答えた。香がやったのはシングル戦でそれぞれと闘ったので今の亜湖とさくらとは状況が違うが、兎に角やってみないと分からないということだった。

試合当日―――。
事務所のモニターで観戦をしようとしていた美紗と香の所に、生徒会長と良が同じ目的で来た。
「あら、珍しい。ライバルの二人が仲良く観戦なんて」
生徒会長がニコッと笑って言うと、香は、
「お言葉ですが、美紗と仲良くなった覚えはないわ」
と眼鏡を直して生徒会長を睨み付けるように言った。生徒会長はそんな香の目付きなど意にも介さずニコニコしていた。一方美紗は、
「テメェは勝ち逃げしたくせにまた最近この中ウロツイてんじゃねぇか。まさか復帰するとか言うなよ」
と静かに、しかし、迫力ある声で威嚇するように言った。生徒会長は、
「復帰なんかしないよ。今はここのポニーと亜湖ちゃん、さくらちゃんの非常勤コーチだから。で、今日は仕事は休み貰ったの。亜湖ちゃんさくらちゃんの試合だから」
と香の肩に軽く触れて言った。美紗は、
「で、香にあたしを倒させる訳か。選手としてだけじゃなくコーチとしても勝ちたいってか?」
と言った。生徒会長はニコッと笑って、
「ご名答」
と言った。美紗は、
「テメェ……」
と言ったが、香は、
「取りあえず今は試合を見ましょうよ」
と言って二人の間に入ったのでその場は収まった。香、美紗、生徒会長、そして良という有り得ない組み合わせで見る事になった。生徒会長を除いて試合の時の格好で―――である。香はいつものように眼鏡をしたままで髪は下ろしていたが。

志願したのはかえでと美里のチームであるが、キャリアから亜湖とさくらが挑戦者の扱いで組まれた為、亜湖とさくらが先に入場した。
そして続いてかえでと美里が入場し、レフリーにボディチェックを受けた。かえでは、
「亜湖、さくら。貴方達はチェック受ける必要無いでしょ。下着姿で何処に凶器隠すのかしら?」
と、自分のゴスロリ衣装をひらひらさせながら挑発した。そして、
「ほら、私みたいにこう―――色々あれば隠せるかもしれないけど。そう思うでしょ? 美里」
と美里に同意を求めた。美里は、
「はい、かえで様」
と答えた。レフリーは亜湖とさくらのボディチェックを簡単に終えた後かえでのボディチェックは入念にやった。
レフリーもゴスロリ衣装だがこの日はいつもの黒系ではなく、ピンクの衣装にしていた。というのはかえでが黒系なので試合の動きの中で、亜湖チームがレフリーとかえでを見誤らないようにとの配慮である。
丸紫ではスポーツ性を上げるため、普通のプロレスとは違い、レフリーへの攻撃は厳しく取り締まっている。場合によっては一ヶ月〜三ヶ月出場禁止にもなる。
実際、選手とレフリーが似たような衣装を着ていて、相手選手が間違えてレフリーを攻撃してしまった事があった。この時は故意では無いという事で処分は無かったが、同じ事が起こらないように、選手の衣装はほぼ固定なので、レフリーが別の衣装にするか色を変えるなど見間違いを防ぐ処置が取られた。

レフリーはかえでのボディチェックが面倒であるにも関わらず、不満な顔一つせず頭から足まで残さず見た。かえではチェックが終わると髪飾りを外し、サイドテールの髪をほどき、自陣のコーナーに掛け、ボディチェックを受けるナース服の美里を見守った。
美里のチェックが終わると、
「適当な所で"染める"わ。合図するからよろしく」
と美里に耳打ちした。美里は、
「はい、かえで様」
と頷いた。

一方亜湖は、さくらに
「私が様子見るよ」
と言うと、さくらは首を振り、
「私が出ます。やらせてください」
と答えた。亜湖は、
「じゃ、よろしくね」
と笑顔を見せた。

その時ゴングが鳴った。さくらとかえでがリング内に残り、試合が始まった。二人は時計回りに回り、その後手四つに組み合った。
一旦離れたがもう一度組み合った。暫く押し合いになったが、隙を突いてかえでがさくらの腕を取って脇固めに入った。
「あ! ああっ!」
さくらは短く声を出し、足がロープに近かったのでロープブレイクした。かえでは技を解きすぐに立ち上がった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊