百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第13章 お嬢様の試練3

かえでは場外に降り、ゆっくりと倒れている亜湖の側に行った。そして、手を叩き、
「ホラホラカメラさん、もっと近くに寄ってアップで映しなさいよ」
と言った。亜湖は恥ずかしくなり、顔を赤らめたがインクで緑色に染まっている為かえでには分からなかった。
かえでは3カメが傍に来たのを確認してから亜湖の髪を掴んで起こし、鉄柵に顔を叩き付けた。
「あああっ!」
亜湖は両手でかばいダメージを最小限にしたがわざと大声を出して片膝を付き、両手で鉄柵を掴んだ。かえでから見れば亜湖は背中を向けてうつむいている体勢だった。
かえでは椅子を取り亜湖の背中に思い切り振り下ろした。鈍い音が響き渡り、
「あああーっ!!」
と亜湖の声が続いた。亜湖は右手で背中を押さえ、左手は鉄柵を掴んだままゆっくりと右膝を上げ、尻を突き出す形に立ち上がった。かえでは、
「何それ? もう一発食らいたいの?」
と不機嫌そうな顔をして、亜湖の右手を払い除けもう一発椅子攻撃をお見舞いした。
「ああああーっっ!」
同じ所に入り、あまりの痛さに亜湖は背中を反らして大声を出すと同時に涙を流した。そして両膝から崩れ落ちそうになったが、鉄柵を強く握り、膝をガクガクさせながらもまた伸ばして前屈みの体勢になった。
かえでは、もう一発入れようかと思ったが、また立ち上がられたら更に気分が悪いので今度は別の事をしようと思った。そこで辺りを見渡すと長机が目に入った。
右手で亜湖の髪を掴み、左手で滝の様に流れる額の汗を拭った。下着姿の亜湖とは違い、ゴスロリ衣装のかえでは相当暑い。あまり長期戦になると汗のかき過ぎから脱水になりかねない。かえでは当然亜湖が美紗や香と十分以上闘った事は知っていたので、如何に体格の劣る自分が亜湖から体力を奪うか考えたが、
―――やはり場外戦しかない―――
というのが結論だった。
亜湖の髪を掴んだ状態で引きずり回し、鉄柱に叩き付けた。亜湖は崩れ落ちそうになるが、鉄柱にしがみつくようにして何とか倒れないでいた。かえでは亜湖の背中に回し蹴りを入れた。
「ああっ!」
亜湖が声を上げ、背中を反らして鉄柱から離れたた隙に―――視界を奪われてる亜湖に隙もへったくれも無いのだが―――正面から抱え上げた。そして鉄柵の所までそのまま歩いて行き、鉄柵の外にある長机に亜湖を背中から叩き付けた。
「あああっ!」
亜湖は声を上げ背中をそらし、右手で押さえた。右足は机の外に、左足は鉄柵に引っ掛ける形で投げ出した。
かえでは亜湖が倒れている机の隣にあるもう一本の机に急いで登り、前転宙返りして背中で亜湖の胸から腹に掛けてを押し潰した。
机はひしゃげて亜湖は滑り落ち、床に大の字になった。かえでも亜湖と一緒に滑り落ちた為にダメージを受け、背中を押さえていたがすぐに立ち上がり、自分が登った机を畳み、そのまま亜湖に投げつけた。一応亜湖は目が見えないため、急所には入らない様に気を利かせてかつ最大のダメージを与える様に―――。
「うぶっ!!」
下敷になった亜湖は鈍い声を上げた。机の下から亜湖の髪と両足だけが見え、両手は頭をかばっているため見えなかった。かえでは机にストンピングを入れた。
「あぐっ……!」
机の下から亜湖の苦しそうな声が聞こえた。かえでは、このまま去っても良かったが、折角の亜湖の下着姿を机で見えなくしてしまうのはもったいない―――カメラだって回ってるのだから、と思い、机をどかして亜湖の姿を晒してから鉄柵をひょいと飛び越えて自陣に戻った。

そしてそこには両腕で顔を覆い、足を大の字に開いて倒れている亜湖だけが残った。
「う……ううっ……あぐ……っっ」
亜湖は声を出すのをこらえていたがこらえきれずに泣いていた。しかし泣くのは亜湖の思惑通りだった、というのは亜湖は嘘泣きで涙を流せるほど器用では無い為、泣くまで痛めつけて貰わないといけないと思っていたからだった。そうして涙を沢山流す事で視力を取り戻そうと考えていたからである。
だから椅子で何発も打ち付けられても痛みを堪えて膝を伸ばして立ち上がり、かえでに背中を向けたりしたのである―――。
しかし、亜湖がここまで痛めつけられ、しかもかえでが自陣に戻ったということは、さくらもかなり痛めつけられてる、ということである。亜湖は早く戻りたかったがまだ視力は戻らず、体もダメージが溜まり立ち上がれなかった。せいぜい足を動かして片膝を立てる位だった。

その姿をカメラはいちいちとらえている―――わざわざ足の方から。

「もう……っ、亜湖ちゃん。やらしいなあ」
生徒会長は笑顔で呟いた。亜湖の腹から下―――腹、可愛い空色のパンティを穿いている腰と股間、そして右足は開いて投げ出している為膝から下は画面からはみ出しているが片膝を立てている左足は腿、膝、そして紺の靴下と灰色のスニーカーを履いている足先までを足の方から斜めに映していた。
1カメは試合の権利を持っている美里とさくらの様子を、2カメは自陣に戻って休みながら試合の状況を見ているかえでを、そして3カメは亜湖の下半身を映していた。
因みに美紗は1カメ、生徒会長はそれぞれを、良と香は3カメの映像を中心に見ていた―――。

かえではさくらにグラウンド戦で間接技を掛け続ける美里を見守っていた―――。


かえでと美里は生徒会長と同期入門だった―――。入った日も同じだった為、三人でトレーニングに励んでいた。そして新人戦は、生徒会長は勝ち、かえでと美里は負けた。もっとも、今現在でも新人戦で勝ったのは生徒会長のみでその後入った美紗も香も負けているが―――。
その後、生徒会長は栄子以外には殆んど負けず、最強の名を欲しいままにし、かえでは中堅としてそれなりに勝っていった。しかし、小柄な体格の為選手を諦めて実況とトレーナーをやっている先輩の亜希子よりも体格も体力も劣る美里はそうは行かなかった。
後から入ってきた良、美紗等にことごとく敗れた―――しかも五分とかからずに。それから、
「かえで様……、辞めたいです」
と言うようになった。かえでは、
「な、なんで? 勝てないから?」
と聞いた。美里は黙って頷いた。その後沈黙が暫く続いた。かえでは何とか美里を説得しなければならなかった。というのは何故この世界に身を染めたか―――。

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