百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第14章 掴めなかった栄光と得られた称号2

美紗は今ではジェネラル美紗と名乗っているが、丸紫に来る前は当然だが違った。本名は成田美沙子であり、10代でアマチュアレスリング五輪代表候補になる実力を持ち、
【成田、五輪代表"成"るか!?】
等と報道され、期待は高まっていた。五輪が近付いた時にその興奮はピークに達した。
最終選考で惜しくも敗れ五輪代表は逃したが、美紗に勝って代表になった選手は年齢的に最後の五輪と決めていたので、後を継ぐのは美紗―――いや、成田美沙子と思われていた。

しかし、悲劇が起きた。
美紗が選考会の時に審判に分からないように反則をして勝ち進んだ―――つまり実力ではなくズルをしていたという噂が起った。
勿論それは根も葉もない話であったが、マスコミ受けの悪い美紗をここぞとばかりに叩いた。それに乗っかった人により、美紗は水を掛けられたりした。暴行マガイのことをされた。

そして乱闘―――。

最初は、自分は五輪代表候補だということで耐えた美紗だったが耐えきる事が出来なかった―――。美紗はそれで永久追放という形で選手生命を断たれ、表舞台から姿を消した。
中には美紗を擁護する意見もあった。五輪代表になった選手を始め、実際に対戦した選手、乱闘の目撃者等がそうだった。
仕掛けたのは美紗ではない―――、仕方なく応戦したのだ―――と。
しかし、覆すにはいたらなかった。美紗は純粋に強さを求めるそれだけの選手であり、周りの受けは悪かった。結局それが命取りになってしまった。
そして、
【成田美沙子、プロレス転向か?】
マスコミは悪役レスラー転向を煽ったが美紗は表のプロレスには興味を示さず、ただ、ひたすら闘う場を求めていった―――。
そこに目を付けたのが丸紫の社長だった。しかし、美紗は「プロレス」と聞くと興味を失った。
「うちのは真剣よ―――。勿論表のプロレスも真剣にやってるわ。でもあなたの求める真剣とはちがうだけ―――」
社長が言うと美紗は、
「何が言いたい?」
と聞いた。社長は、
「技を受けて、そして、返す。それをどこよりも真剣にやってるわ―――。あなたの求める真剣とはある意味合うと思いますが、試してみますか?」
と言って蝶のマスクを外し、全身に闘気をみなぎらせた。美紗は社長の闘気に圧倒された。
闘いの中に身を置いた事がある人間なら解るこの空気―――。美紗はそれを振り払うように社長にかかって行った。
美紗のタックルは決まったように見えたが次の瞬間外され、逆に美紗がフォールされた。
「ば、馬鹿な!」
美紗は負けた。純粋にアマレスのマットの上でなら社長に勝っただろう。しかしここはマットではなくストリートでかつ、社長をレスリングの素人と見くびりながらも闘う者としての闘気に呑まれてしまっては勝ち目は無かった。
「その丸紫ってののプロレスとやら、やるよ」
美紗は社長に言った。社長は、
「よい返事を頂けて嬉しいわ」
と笑顔を見せた。こうしてレスラー"ジェネラル美紗"が誕生した。

美紗にとっていきなり試練が来た。新人戦―――である。
美紗はこの時身長175cm、体重75kgだったが、美紗の相手は身長で10cm、体重で見た目17〜8kg位劣る人だった。
「一つだけ聞く。あんた体重いくつだ」
美紗は相手に聞いた。新人戦の相手―――生徒会長はニコッと笑い、
「いきなり初対面の人に体重聞くなんて失礼もいいところだね。あえて本名は言わないけどね、"美紗"さん」
と言った。美紗は、
「あたしの過去を知ってるなら尚更叩き潰してやる。もう一度聞くぞ、何キロだ?」
と闘気を纏って聞いた。生徒会長は、目に被さった前髪の間から薄目で口だけ笑うという微妙な表情で、
「60丁度だよ。美紗にとっては軽いから楽勝かな?」
と答えた。美紗は、
「見た目以上にあるな。でも関係ない」
と言った。その時試合開始のゴングが鳴った。

結果は―――試合時間6分ちょっとで生徒会長がフルネルソンスープレックスで勝利した。
「ここは丸紫だよ。アマレスだったら勝ち目無かったけどね」
生徒会長は立ち上がった後、倒れている美紗を見下ろし、口に笑みを浮かべて言った。目付きは逆光かつ前髪に隠れて良く見えなかったが身に纏った闘気のせいか鬼神に見えた―――。
「兎に角―――、その体重体重言うのやめない限り、ここでは通用しないよ」
生徒会長はそう言ってリングから降りた。

それから美紗は"打倒生徒会長"に執念を燃やす様になった―――。ここ丸紫ではレスラーは皆一匹狼、決して馴れ合う事は無かったが、生徒会長は独りでは無かった。
(美紗は後で知った事だが、)同日入門である、佐々木かえでと羽富美里と良く一緒にいた。また、草薙良と行動する事もあった。美紗がターゲットにしたのはその三人だった。新人戦の後少しずつ白星を重ねてランクを上げて行き、中堅に入ってから先ずは―――、
「お前、そんな格好で舐めてるのか? 舞踏会ならよそでやれよ」
と新人ながらいきなりゴスロリ衣装の"先輩"のかえでにふっかけた。かえでは、
「あなたこそ舐めてるの? 何のつもりか知らないけど、ここでは一番の新米。それを分からせてあげるわ」
と応戦した。かえでにとって服を馬鹿にされるのはこれ以上に無い侮辱であり、絶対に美紗に負ける訳には行かなかった。しかも中堅の最上位を伺おうという位置に来ているかえでに対し、美紗は中堅に入ったばかり、である。まだまだ美紗は上位に入った生徒会長はもちろん、かえでにもまだ勝てないと思われた。
しかし結果は―――。

美紗のラリアットが完全に決まり、かえではマットに叩き付けられた後半回転し、うつ伏せに倒れた。そのかえでを仰向けにし、美紗はフォールした。かえでは動けず、スリーカウントが入ってしまったのであった。

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