百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第14章 掴めなかった栄光と得られた称号3

美紗はかえでと対戦する前から、かえでの弱点は重くて分厚く、動き辛い衣装にあると見ていた。アマレス時代から相手を兎に角研究して研究してそれで勝利をもぎ取って来た。そんな美紗にとってかえでの弱点を見つける事は訳無かった。
次のターゲットは良だった。良はグラウンドで攻めて来たが、美紗はアマレス出身だけあってグラウンド技は専門分野。センスは有るものの丸紫に来てから覚えた良とは格が違う。となるとあとは体格差で勝負が決まる。良に対してはラリアットは避けられる可能性があると思ったので、しっかり捕まえてパワーボムで決めた。
残るは美里であったが、美里はその時にはかえでの計らいでシングルからは手を引き、タッグのみの選手になっていた為、美里との対戦は実現しなかった。
「羽富の代わりにもう一度お前を沈めてやる。覚悟しな」
美紗は闘気を纏いかえでに宣戦布告した。かえでは、自分と美紗がランクで並んでいた事は知っていた。
「覚悟は決めておくわ。でも簡単には勝たせない―――。いや、私が勝つわ。美里の為にも」
かえでは言った。お互い中堅の上位になっていて、そこでぶつかった―――。
試合は、長引いたら不利になる為短期決戦に持ち込みたかったかえでと、兎に角ペースを握って長期戦に持ち込み、かえでが疲れた頃を狙ってラリアット又はパワーボムを叩き込もうと考えた美紗の思惑がぶつかった。
偶然だった―――。がぶる様に首を極めに掛かった美紗がかえでの体に被り過ぎた為に、かえではチャンスと見て思い切り後ろに放り投げた。美紗はコーナーに叩き付けられ、逆さに腰を強打し動けなかった。コーナーから落下した美紗をかえでは丸め込んだ。
「ワン、ツー、スリー」
かえでの勝利だった。美紗の、生徒会長の周りの人を潰して生徒会長の動揺を誘う作戦は失敗に終わった。しかし、その最中に生徒会長が栄子との試合に敗れたのを見る事が出来た。美紗のランクが上がっている事をアピール出来、更に栄子の攻め方を参考にすれば生徒会長を攻略出来る事が解ったので、生徒会長にプレッシャーを掛ける事には成功した。そこで早速本丸である生徒会長を落としに掛った。

試合の日―――。
「覚悟しとけよ、この前みたいには行かないからな」
美紗の言葉に対し生徒会長は動揺せず、ただニコニコしていた。

試合は8分16秒で生徒会長のジャンピングニードロップからのフォール勝ちだった。しかし、前回よりかなり試合時間は長くなった。
「栄子先輩の真似―――、少しは考えたみたいだね。でも駄目だよ、リーチが違うんだから」
生徒会長は美紗の意識が戻るとニコッと笑って言った。
「クソッ!!」
美紗は悔しさを吐き捨てた。しかし、生徒会長の顔は汗だくだった事に気付いた―――。確実に最初の対戦時より生徒会長の体力は消耗していた。

そして最後の対戦―――。高校卒業と共に引退を決めていた生徒会長は、最後の試合の対戦相手を募集した。この試合が終わったら引退し、目に被さっている前髪も肩より長い髪も入門前と同じ位短く切るという―――。美紗は迷わず名乗り出た。これを逃したら二度と対戦できないのだ―――。

珍しく試合の一月前に顔合わせをした。とはいっても丸紫の選手は皆顔見知りなのだが―――。
「美紗が真っ先に名乗り出ると思ったよ」
生徒会長はニコッと笑って言った。美紗は、
「もうお前の事は調べ尽した。あたしに最初に言った事忘れちゃいないだろうな」
と闘気を纏い聞いた。初めて対戦してから一年経つが最初とは比べ物にならない程の闘気―――。すっかり闇の戦士になっていた。生徒会長はおどけて、
「まいったなぁ〜、それだったら覚えてるよ。体重にこだわるうちは勝てないって言った事でしょ?」
と答えた。美紗は、
「そうさ。その言葉が間違いだったと思い知らせてやる。スポーツ……格闘技があれもこれも体重で分けられてるのが何でなのか、分からせてやる」
と指差した。生徒会長はその美紗の闘気を感じて、勝っても負けても自分の時代は終わりだと感じた。
「じゃ、最後のお土産として教えてちょうだい」
生徒会長は前髪をかきあげ、にっこりと笑って言った。丸紫に入ってからは、"相生高校の生徒会長"である自分を隠すために、練習生の時に前髪を伸ばして目を隠した。つまり、練習生として共に磨いてきたかえでや美里以外の人は生徒会長の目をあまり見たことが無かった。美紗に対して初めてまともに見せたその目付きには何と無く寂しさを感じた。

美紗から見れば生徒会長は充分軽量で、更に今迄の彼女の試合運びから見てラフな戦闘は嫌う。友人であるかえでとやった時は逆に容赦無かったが―――。また、彼女は早い勝負にこだわっていた。
それの意味するところは―――。

スタミナに不安あり。

これに尽きた。筋力、スタミナ、どれも鍛えれば身に付けられる。勿論生徒会長は誰よりもやっていた為一番強かった訳だが、ある程度行けばあとは天性の話になってくる。天才肌の生徒会長だったが、体力に関しては不安材料だった為に、それが露呈する前に勝負をつけていたのだった。
勿論中堅よりはずっと体力豊富である事はいうまでもない。しかし、最上位を争う中では僅かに少ない事が敗北する要因になるという事だった。
綺麗な試合を好むのもそういう所から来ていた。場外戦になればカウントを取れない訳だから時間と体力の無駄―――、それだけだった。別にラフファイトが嫌いだからではない。
それを考えて、グラウンドで生徒会長の動きを止めて場外戦で体力を奪う。最後はラリアットで締めれば良いと考えた。
後は生徒会長は技を受けてからの切り返しが巧いのでそれに注意し、押し潰しなどをした時にはいつまでもくっついていないですぐに離れる事が重要だった。

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