百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第14章 掴めなかった栄光と得られた称号4

そして試合は―――。
今迄に比べるとかなり美紗の思惑通り進められた。生徒会長はグラウンドを得意としているが、美紗はアマレス出身で専門家である。生徒会長の技の入りを潰し、逆に仕掛けた。そして場外戦を多用し徹底的に痛めつけた。
それでも、壁は越えられなかった―――。
ラリアットを出す所まで生徒会長を追い込んだが、それをかわされ、そこから切り返されて変形のバックドロップからの繋ぎで、14分42秒、生徒会長のジャンピングニードロップからのフォール勝ちだった。
しかし限界だった。仰向けになって顔を両手で覆って暫く動かなかったのは、体力が尽きて動けなかったからであり、顔合わせをしたときに感じた事―――、勝っても負けても自分の時代ではない、という事はその通りであったと感じていた。

先に起き上がったのは美紗だった。上半身を起こすと隣に生徒会長が両手で顔を覆って仰向けになっていた。
「おい、起きろよ」
美紗は生徒会長の横に座り言った。生徒会長は半回転してうつ伏せになった後体を起こした。そして頭を押さえて首を振った後、
「勝ったのは私だけど―――もう美紗の方が強いかな。いい試合だったよ」
とニコッと笑って言った。美紗は、
「勝った方が強いんだ。あたしは負けたんだからまだまだ弱い。あんた本当に辞めるのか? エーコさん攻略も出来て来たのに……」
と聞いた。生徒会長は、
「うん。私の時代は終わり。私は"生徒会長"だから―――高校卒業したら、もう違うでしょ?」
と言った。栄子対策が出来てきた事等意にも介しない、引退に際する強い決意だった。いつもニコニコしているものの半端な気持ではやっていない。
生徒会長がもし引退せず、もう一度やったら、口ではもう美紗には勝てない様な事を言ってるが多分生徒会長が勝つだろう、と美紗は感じた。勿論やるなら手を抜くつもりは無く全力だがそれでも、である。"もし"は無いのだが―――。
美紗は生徒会長がそれだけの気持でやっていた事が解り、初めて尊敬した。そして生徒会長をの右腕を掴み上に上げ、勝利を称えた。その最中に、
「クソ、あたしが勝つチャンスはもう無いんだな」
と呟いたが―――。生徒会長はそう言った美紗の表情を見てニッコリと笑った。

「生徒会長の強さを今でも追い掛けてるわ。だからだと思う―――」
かえではそう締め括った。良は、
「そうだよね……。あーあ、もう皆真面目過ぎ!」
と伸びをしながら言った。かえではクスッと笑って、
「あなたもね。いつもふざけた事言ってるけどね」
と言って立ち上がった。良は呆気に取られて、
「嫌味な奴だと思ったけど、人の事ちゃんと見てる……。そういう面もあるんだ……」
と言った。かえではリングに上がりながら、
「貴方の事は嫌いよ。言ったでしょ? 嫌いな人からでも学べるって。貴方にもいいところはあるわよ」
と言った。良は、
「やっぱり嫌味な奴だ。あたしだってあんたなんか嫌いだよ!」
と叫んだ。かえでは口元に笑みを浮かべて、
「ここは元々そういう所よ。お互い敵同士、嫌いな方が全力でやれるわ」
と言って、男性トレーナーと練習を始めた。
かわりに美紗が降りてきてドリンクを飲んで汗を拭いた。そして無言で良の隣に座った。良は少し避けた。美紗は、
「どうした?」
と聞いた。良は、
「いやさー、何で美紗は亜湖なんかと組んだのかなってさ」
と両腕を頭の後ろに回して呟いた。美紗は、
「あたしが"あんなに弱い奴等"と組むのは有り得ないって事か?」
と聞いた。良は、
「その理屈でいうとあたしは亜湖に負けた訳で―――。そうじゃなくて、亜湖は相手だからこそ面白い訳でさ」
と言った。美紗は、
「エロネタって事か?」
と聞いた。良は、
「そうだよ。亜湖もさくらも狙ってるとしか思えないよ」
と答えた。美紗は、
「ふーん。まあ香もそう思ってるから分からなくはないけど、あんまりナメてるとまた負けるぞ。お前だけじゃなく、プルトニウムもかえでも、香もな」
と言ってリング上でトレーナーと練習しているかえでを見た。かえではトレーナーに間接技を掛けられたり、投げられたりしていたが何とかロープブレイクしたりカウントツーで返したりしていた。
「亜湖だったら今のどう受ける? かえでとは違う。受けのセンスがあるのさ。それプラス生徒会長がバックについたの知ってるだろ?」
美紗は聞いた。良は、
「でも香にも教えてるから変わんないんじゃ……」
と返した。美紗は、
「いや、変わる。香は攻撃型だろ。生徒会長は香の希望を聞いて教えてる。亜湖やさくらにもそうだ」
と言った。良はハッとした。良が最初に生徒会長に教えてもらったのは受け方だった。

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