百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第14章 掴めなかった栄光と得られた称号5

「あたしは体軽いからコーナーに振られたらどうしたら―――?」

そう言って教えて貰ったのはコーナーに振られた時の切り返し方だった。生徒会長は攻撃型だが、守勢に回った時の受けが巧い。美紗もかつてそれで何回も切り返されたのだ。
「そういう事さ。香は亜湖よりは小さいだろ。とは言っても香自体それなりに大きいし相当強いけど、更に大きい亜湖が相手だとどうしても先に体力が無くなる。そこで焦ってポニードライバーに行けば、亜湖は待ってましたってか。生徒会長に受けを学べば体力温存して受けられる」
と説明した。良は、
「そっか……、まともに食らった振りして倒れて気絶した振りなんかしてたら……。相当休める」
と呟いたが、顔の前で手を振った後美紗の方を向いて、
「な、無いよ。それは無い! あの気絶わざとやりたいなんてまともな神経だったら思わないよ。あの鈍臭い亜湖があんなエロい真似、出来る訳無いよ! ビクビクっなんてエロ過ぎる」
と言った。美紗は、
「まぁ、そうだろうな。っていうか、だから完璧な受けを覚えたらそんな気絶の振りなんてする必要も無いじゃないか。タダ普通に倒れて顔でも押さえて足をバタつかせてるだけでもいい」
と言った。良は、頷いて、
「そうだよね、その線だよ」
と言った。

―――騙し気絶は実はマスターしているのだが―――。勿論亜湖にとってそれは相当恥かしい事であり、また知っているのはさくらだけなのだが。

「亜湖の事は置いといて―――一つ聞いていい?」
良が聞いた。美紗は、
「何だ?」
と言った。良は、
「美紗は今何を目標にしている?」
とズバリ核心を突いてきた。美紗は、
「そんな事聞かれたの初めてだな。ここではお互い干渉しない、そうだろ? だから誰も聞いて来なかった」
と答えた。そして、
「勝率を何処まで上げられるか―――、それだな。ここから先は自分で考えろよ―――」
と言って立ち上がった。良は、さっきかえでが言った様に、美紗は生徒会長の強さを今でも追い求めているんだな、と感じた。勝率―――、生徒会長は栄子を苦手としていたが、それ以外の人には殆ど負けなかったので勝率は物凄く高かった。今の美紗の勝率は当時の生徒会長にはまだ及ばない。
生徒会長と直接対決がもう出来ない以上、生徒会長を超えるとしたらそれしかもう無いのである。

良はその目標を聞いて、とてつもない目標だと思った。丸紫は表のプロレス団体の様な、「なんたら選手権」だのチャンピオンベルト等は存在しない。ただ闘い、そしてランクが変動する。ランクで賭けの相場が決まり、人気で倍率が変わる。
かえで、良、亜湖は人気があるので倍率が高い。美紗、栄子は人気が低いので倍率は低いがランクが高いので相場自体が高い。プルトニウム関東、ジュディは相場も人気もそこそこ、そして香は人気も相場も高い―――といった感じだった。
それしか各個人の実力を測る指標が無いためその中で生徒会長を越えるという目標を定めて、実践しているのだから正直凄いと思った。
良自身にも目標はある―――、香を倒すという。しかし、美紗は追われる立場でそういった具体的な目標がないのである。

「ワン、ツー、スリー」
かえでが男性トレーナーにスリーカウントを取られ、リング上で動けなくなっていた。暫く全く動けないでいたので良は流石に心配になり、リングに駆け上がった。
「かえで!」
良が隣に座り込むと、トレーナーは、
「動かすな」
と言った。良はビクッと震えた。もしかして頸椎をやってしまったのかと思った。トレーナーはそれを察してか、
「心配は要らない。ただ気を失っただけだ」
と言ってかえでの顔に水を掛けた。するとかえでは、
「う……」
と声を上げて起き上がった。すると目の前にしゃがみこんでいるのが良だったので驚き、そして、
「ぷっ……、クスクス……。何で草薙なのよ」
と笑った。良は、
「な、何だよそれ。心配したのに」
と怒った表情をした。かえでは上半身を起こして、
「わたしが美紗と同じ様にやってと頼んだのよ」
と大量の汗を拭って言った。そして、
「残念だけど今の私では美紗には勝てないわ。だから美紗を偵察に来た―――とかじゃなくて、兎に角上位ランクに入りたい。その為には香や栄子さんとか倒さないとだからね」
と言った。良は、
「そうだね。まああたしはあんたも倒すけどさ。絶対謝らせる」
と言った。かえでは、
「謝らないわ。わたしが勝つから―――」
と口元に笑みを浮かべて答えた。そして良の肩を借りてリングから降りた。

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