百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第14章 掴めなかった栄光と得られた称号6

「仲がいいんだか悪いんだか」
美紗が呆れるように降りて来た二人に言うと良は、
「な……っ。いいわけ無いじゃん。こんなスカシお嬢」
と脊髄反射したが、かえでは落ち着いて、
「共通の敵がいるからよ。ただそれだけ」
と答えた。美紗は、
「敢えて聞こうか」
と言った。美紗はこの二人が誰と答えるか分かっていたが―――。

「香と亜湖」

良、かえで二人ともそう答えた。美紗は余りにも予想通りの答えに、
「面白いな―――」
と笑った。美紗はそういえば、そういった感覚を持った事が無かった事に気付いた。アマレス時代も生徒会長と闘っていた時代もただ強さを求めていた。
この前初めて亜湖とさくらの二人と組んで最初は美紗もやりにくさがあったが、その時に初めて感じた違和感―――。それの正体が、
面白い
という事だった事に今気付いた。
「訳解らねえ。お前らも、亜湖もさくらも―――只の下着姿の二人なのに―――」
美紗は腰に両手を当てて呟いた。かえでは、
「ふふっ、あなたが一番分かってるんじゃないの?」
と言った。美紗は目を閉じて腕を組み、
「そうかもな」
と言った。

「亜湖さんがオーバーペースになりますね」
社長はパソコンで全選手の試合日程を確認しながら言った。それを聞いて美紗は、
「そうか。ま、もうちょっと強くなってからの方がいいか」
と答えた。美紗は久し振りの亜湖との対戦をやってみるのもいいと思い聞いてみたのだった。
「さくらさんなら空いてますけどどうしますか? あなたの望みとは逆にもう少し弱いけど―――ね」
社長が聞くと美紗は、
「まあ―――、さくらともやってみたかった」
と社長から視線を外して返事した。社長は、
「仮にも今はチーム組んでるさくらさんに本気出せるの?」
と聞いた。美紗は、
「味方だからこそ徹底的にやる。あいつは亜湖程受け強くないからな。その辺を教えてる為にもな。だから攻撃時間もやる」
と言った。社長は、
「攻撃時間―――ですか。さくらさん、攻撃に移れるかしら?」
と美紗を見据えて言った。美紗は今度は社長をしっかり見て、
「大丈夫さ。さくらもおとなしいけど、亜湖よりは攻撃的だ。それにここのルールは解っているからな」
と答えた。社長はそれを聞いてにっこりと笑った。チームがきちんとチームとして機能している。美紗は亜湖とさくらの性格の違いまできちんと見ているのを確認出来て安心した。

社長と銀蔵はさくらを呼び、美紗と対戦する事を告げた。さくらは驚き、
「わ、私が!? 直ぐに終わっちゃいます。試合にならないですよ」
と両手を顔の前で振って言った。社長は笑って、
「美紗とあなたは実力が離れすぎてるわ。試合にならないし賭けも成立しないわ―――」
と言った。さくらはそれを聞いて、ならやめたほうが、と言おうとしたが、社長は制止し、
「あなたに何か掴んで欲しいのよ、私も美紗も―――。亜湖さんと同じ闘い方は無理よ」
と説明した。さくらは、
「で、でも……、香さんみたいには……」
と言葉に詰まった。社長は、
「そうね。あなたの性格では香さんの様な攻撃型は難しいわね。でも亜湖さんみたいな完全に受けでは通用しないわ―――。ヒントとしては、生徒会長に習ったことを生かしなさい。美紗戦で試しなさい。それを美紗も望んでいるわ―――」
社長はそう言ってさくらに練習に戻るように言った。さくらは、
「失礼しました」
と言って社長室から出て練習室に戻った。

亜湖は戻って来たさくらに声を掛けた。
「美紗さんとの対戦が決まりました……。美紗さんの希望らしいです」
さくらは困ったような表情で答えた。亜湖は、
「え……? 力の差が有りすぎるよ」
と言った。さくらは勿論亜湖自身も美紗に勝てる可能性は殆んど無いからだった。しかし―――あの社長が無意味な試合を組むだろうか? さくらに賭ける人なんて皆無だろうから、賭けにならない。それでも試合を強行すれば配当金支払いでこの試合は丸々赤字になる。もっとも他の試合で充分にカバー出来るのだが、それでもいくら美紗が頼んだからと言ってただ丸々赤字の試合をやるだろうか? 亜湖はそう思った。
しかも相手は今はパートナーになっている美紗。この間の生徒会長の様に自分達を潰して教える事なんだろうか、と思った。それを聞くとさくらは、
「多分そうだと思います。それで私に新しい闘いかたを見付けて欲しい、みたいな」
とブラジャーの肩紐を直しながら言った。亜湖は、
「じゃ、頑張ろ―――。それしかないよね」
と笑顔を見せた。さくらは、
「そうですね、センパイ」
と笑顔で答えた。
今更どうこう言っても仕方がない。与えられた条件の中一生懸命やるしかなかった。分かってはいてもそれが時折苦しくなる。しかし、亜湖の笑顔がさくらを救った、そんな気がした―――。


さくらが美紗と対戦する日は、その前にプルトニウム関東とかえでの試合も組まれ、2試合になった。

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