百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第15章 壁1

「そう言えば貴方達は身体検査が未だでしたわね」
丸紫にいつもの様に来た制服姿の亜湖とさくらに社長が声を掛けた。亜湖は、
「え?」
と答えた。社長は、
「ここのルールは覚えてますわよね? 試合に出てるのだから当然ですけど」
と言った。亜湖は社長はそのルールの復唱を求めているのに気付き、
「あ、はい。本気で試合する事……と、相手の技を受けて返すのと、凶器は禁止……」
と詰まりながらも答えた。しかし、それと身体検査との関連が分からなかった。さくらも不思議に思い、
「社長……、ルールと身体検査と何の関係があるんですか?」
と聞いた。社長はマスクの下に笑顔を見せて、
「プロフィールもガチンコって事よ。サバ読みは禁止。正直な値を載せるって事よ」
と言った後人差し指を自分の目線に持ってきてそのまま亜湖に向かって伸ばした。そして、
「少なくとも亜湖さん。あなたは私より身長がある筈よ。最初の頃は気付かなかったけれど―――ね」
と言って、医務室に案内した。それから内線で洋子を呼び出した。

「あ、確かに、亜湖とさくらはやってませんでした。すみません」
洋子は社長に謝った。社長は、特に咎めはせず、
「いいのよ。別に何時やるとかは決めていないから。年に一回だけとしかね」
と言った。そして、身体検査とは言っても基本的なものを調べるだけだという事は説明した。現役高校生の亜湖とさくらに関しては高校での健康診断があるし、成人している美紗、栄子、かえで、良達は提携している例の病院で検査を受ける事になっている。実際に良は自分の身長と体重の正確なデータは身体検査と健康診断で知ったのだった。
「ここでの検査の結果は誰でも見る事が出来るよ」
洋子はそう付け加えた。身長、体重など基本的なデータであり、対戦相手の事を調べるのに必要だからという理由である。
因みに最高身長は栄子の185cmで最低は147cmの人が居るので身長差は40cm弱となる。体重も栄子とプルトニウム関東の80kg(美紗は78kg)からその147cmの人の45kg(美里は49kg)までおおよそ2倍近くの差がある。
亜湖はデータ帳を見ながら呟いた。
「美紗さんは自分で身長言ってたから……。かえでさんが167cm、草薙さんが163cm、香さんは165cm……」
洋子は、そんな亜湖を見て、
「それは後で幾等でも見られるから、先に測っちゃおう」
と言った。亜湖は、
「は、はい」
と返事した。そしてさくらも続いた。洋子はその後意地悪く笑って、
「身体検査なんだから、はい、脱いで脱いで!」
と二人に下着姿になるようにけしかけた。亜湖とさくらは、洋子の指示に従って制服を脱いで下着姿になった。何度脱いでも顔を赤くするのは相変わらずだった。
「何か段々下着姿意識してない? 特にさくらちゃんは可愛くなってるよ」
洋子がそう言うと亜湖とさくらは益々顔を赤くしていた。

「さくらちゃんは165.8cm、57kg。もうちょっと増やしてもいいね59〜60kgまでは」
洋子が言うとさくらは顔を赤らめて、
「体重増やすのはちょっと……」
と言った。すると、洋子は、
「何言ってるの? 美紗との対戦が近いんでしょ? 重量級相手に57だと軽すぎるよ。香だって60あるし、生徒会長だってあったんだから」
と言った。さくらは、
「は、ハイ……」
と元気なく返事した。もちろん美紗との試合までに60にしろという事ではない。そんなに急激に増やせば逆に動きが鈍くなって試合にならない。しかし、美紗と試合すれば嫌でも軽量を思い知らされる。さくらは体型が崩れるのを恐れていたのだが、そうならないように、生徒会長の様に増量して、美紗に対抗は無理にしても少なくともこれからの事を考えて重量級に対応出来る様にしろということだった。
「亜湖ちゃんは172cm、65kgだね。ジュディに近いね。169って聞いてたけど、167のかえでよりずっと大きいと思ったから……やっぱり170超えてたんだね」
洋子が言うと亜湖は、
「はい……」
と返事した。その曇った返事を聞いて洋子は、
「もしかして逆サバしてた?」
と聞いた。亜湖は、
「170って言っちゃうと、大女みたいに見られそうで……、中3の時169だったからその数字を言っていました」
と答えた。さくらはそれを聞いて、
「え―――?? やっぱりそうだったんですか? 169にしては私の165と比べて身長差があると思ったから……」
と言った。亜湖は高校2年、つまり丸紫に入る直前に学校の健康診断で身長を測っていたのだが、その時も172と出ていたが、さくらを含め、周りには169と言っていたのだった―――。
「ここじゃ、大女は栄子さんがいるし、逆サバなんて必要ないよ。むしろ嬉しいくらい。まあ皆には亜湖は本当の身長知らなかったって事にしておくよ」
とフォローした。

「やっぱりそうでしたのね。林さん。データ替えといて下さい」
社長は洋子から結果の報告を受けると、ウエブページ担当の林緑に指示した。緑は、
「はい、了解です」
と答えて、丸紫のホームページのデータを変更した。その変更によって亜湖の身長が170超えていた事はたちまち全選手に知られる事になる。
美紗は喜んだ。
「やっぱりその位あったか」
と言い、かえではそのデータを見て、
「ふぅん……思った通りね」
と呟いた後閉じた。良は、
「そん位大きいならちゃんと言えよ……」
と悪態をついた。

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