百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第15章 壁2

亜湖とさくらはとてもどうでもいい事だが気になった事があった―――。それはかえではどうやって身長体重、もとより身体検査を受けていたのか、である。例えば香だったら半袖シャツの体操服とブルマなので、そのままか、もしくはそれを脱いで下着姿で計測したとしても簡単に終わる。しかし、かえでである―――。
「よくもまあそんなくだらない事私に聞く気になったわね」
かえではそう言った。そして下着姿の二人を交互に見た後、
「私だってその時は下着姿よ―――。これで満足かしら?」
と言った。亜湖は、
「は、はい。ありがとうございます……」
と答えた。かえでは、クスッと笑い、
「下着は下着でも、貴方達―――、いや、普通の下着姿とは違いますわよ」
と言ってついて来るように言った。亜湖とさくらはかえでについて行き、更衣室に入ると、かえではドレスを重そうに脱いだ。すると―――。

普通のブラジャーとパンティという下着姿ではなく、ヒラヒラのワンピースの様なゴージャスな下着だった。ワンピースは膝まであるので当然パンティは見えない―――。

「こういう事ですわよ」
そう言ってかえではドレスを着た。やっぱりこの人は"かえで様"であって、何処から何処までも周りとは違うんだという事を思い知らされた。因みに美里はコスプレ衣装を脱ぐと普通の下着姿だった―――。

試合の日が来た。亜湖とさくらは学校から帰ると行動を別にした。亜湖は後から行くと言ってマンションに寄った。さくらは直接丸紫に来た。そそしてしてツインテールを揺らしながら走って更衣室に向かう時、水色のゴスロリ衣装に身を纏ったかえでとすれ違った。
「制服姿―――何か違和感があるわね」
と、口元に少し意地悪い笑みを浮かべて言った。さくらは立ち止まり、
「ど、どういう意味ですか?」
と聞いた。かえでは、
「後で教えるから早く控室に来なさいよ」
と答え、控室に入った。さくらは暫く立ち止まっていたが、更衣室に入った。
ロッカーを開けて荷物を入れ、ブレザーを脱いだ。その後ネクタイを外しスカートを下ろしてワイシャツを脱いだ。最後にロッカーからスニーカーを出して靴を履き替えた。
これでさくらの"着替え"は終わりである。さくらは下着姿で闘うから―――。
この日は先程のかえでのゴスロリ衣装と同じ系統の色だがやや薄い、空色のブラジャーとパンティを身に着けていた。靴下は紺色、スニーカーは黒を選んだ。
鏡に全身を映して確認した後、ロッカーを閉めて鍵を掛けて更衣室から出て控え室に向かった。

さくらが控え室に入るとかえでは靴紐をきつく縛っていた。それが終わると、
「来たわね」
と言った。さくらは、
「さっき言った"違和感"って何ですか?」
と聞いた。かえでは、
「私が化粧を落として薄着をしたら違和感感じるように、あなたが服着てたら違和感感じるって事よ」
と答えた。さくらは顔を赤くして、
「ちょ、ちょっと。私だってここ以外では服着てます!」
と言った。かえではクスクス笑って、
「そんな真っ赤にならなくても―――」
と言った。さくらは、
「酷すぎます」
と言った。かえでは立ち上がって、
「ま、お陰で気が楽になったわ。じゃ、行って来る」
と右手をポケットに入れて控え室からリングに出ていった。さくらは、試合慣れしているかえででも緊張するのかと思った。

さくらは試合を見る為モニターをつけた。そして椅子に腰かけてるとそこに香が入って来た。香は黙ってさくらの隣に座り、腕につけていたゴムを外して髪をポニーテールに縛り、リボンでその上から縛り、アクセントにした。
「今日試合ありましたっけ?」
さくらはいつもの体操服とブルマ姿なだけでなく、髪をポニーテールにまとめた香に聞いた。香は、
「ええ、シークレット扱いでね。だから相手は分からないわ。少なくともあなたと美紗とかえでとプルトニウムは無いけど」
と答えた。さくらは、
「そうです―――か」
と呟いた。香は、
「よかったわね、私とじゃなくて。今は誰でもいいから目茶苦茶にしたい気分だから」
と流し目で言った。さくらはそれを聞いて、
「それはあんまりじゃ……」
と言った。香は、
「電車で痴漢に遭って気分悪いの。もっとも痴漢はシメたけどそれでも―――ね」
と答えた。香が痴漢をしめあげた様子はさくらは容易に想像出来た。恐らく手を掴んだ後絞り上げてそのまま倒したのだろうと。
香に聞いてみたら想像以上だった。最初は触られても我慢していた。それは、駅に着いたら引きずり出してやろうと思ったからだった。逆に言えばその時点で男は止めていれば良かったのに、といった感じだった。
香は男の手を掴んだまま絞り上げ、抵抗出来なくして駅に引きずり出して絞め落とした。男は無様な姿を晒し、警察に担架で運ばれたのだった。
きっと男は思ったに違いない―――、女だと馬鹿にしなければ良かった。まさかこんな力で押さえ付けられ、絞め落とされるとは―――と。
香は只の女ではない。見た目は清楚で美人なお嬢様だが、ジェネラル美紗を倒そうと日々鍛えている丸紫屈指のレスラーなのだから。

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