百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第15章 壁3

「兎に角そういう事よ」
香はさくらから視線を外して言った。残念だった―――。痴漢に駅に着くまで長時間触られた為不覚にも少し感じてしまい、こういうむしゃくしゃした気分の時こそ亜湖やさくらに好きなだけ技を掛けて―――、
「まだやってないわね―――、そういえば」
香は呟いた。さくらは、
「何をですか?」
と聞いた。香は、
「何でもない。試合始まるわよ」
と話をそらした。―――言える訳無いわよ、と香は思った。亜湖でもさくらでもどっちでもいいからロメロスペシャルや弓矢固めをブラジャーを着けてる時と"外れてしまった後"に掛けて、胸の揺れを比較したいだなんて事―――。

かえでとプルトニウム関東の試合は序盤は一進一退で互角に進んだ。中盤に入ると、プルトニウム関東はかえでの顔に狙いを定めた。彼女は顔が綺麗な人―――美人や可愛いタイプの人には必ず顔面を狙う。とはいっても拳は禁止されてるし凶器も駄目なので平手打ち、顔面かきむしり、アイアンクロー、梅干し等をやっていた。
かえでの隙をついて攻守が入れ替わると、コーナーにかえでを振り、先ずは全体重で押し潰した。かえでが腰から崩れ落ちると顔を捕まえ、コーナーに押し付けながら顔面攻撃フルコースを見舞い、ぐったりしたかえでを立ち上がらせ、リングの中央まで引きずってきて強烈な張り手を入れた。かえでは膝から崩れ、そのまま前に倒れた。
「下着コンビに負けたくせに。今までなんでお前があたしより上だったんだよ。お前なんか所詮この程度だ」
プルトニウム関東は気を失ったかえでの背中を踏み付けて言った。かえでのゴスロリ衣装は大量にかいた汗を吸い込み、表面まで汗の染みが出てきていた。
レフリーに止められてプルトニウム関東は足を離した。かえでが意識を取り戻すとプルトニウム関東はかえでの長い髪を掴んで起こし、場外に振った。場外ではまず、マットを剥がし、ブレーンバスターでかえでを持ち上げた。かえでは抵抗したが体重差で負けてしまい持ち上げられてしまったので諦めて足を伸ばした。スカートはめくれ上がり衣装と同じ空色のパンティと綺麗な太股を晒し、そのあとマットの無い床に叩き付けられた。
「あぐっっ!」
かえでは歯を食い縛り、声をあげた。

プルトニウム関東は更に攻撃しようとかえでの髪を掴んで起こし、鉄柵に振り、自分もゆっくりと歩き、鉄柵にもたれかかり腰が落ちたかえでをニヤニヤしながら眺め、それから追い討ちをしようとした。

そこに待っていたのは毒霧だった―――

毒霧を仕掛けた後かえでは突っ込んで来たプルトニウム関東を避け、視界を奪われたプルトニウム関東はまともに鉄柵に突っ込んだ。
そこから形勢は逆転した。後はかえでのやりたい放題だった。シングルで毒霧を受けては致命的。プルトニウム関東の逆転は不可能だった。
かえではえげつない攻撃をしまくった。シングルで毒霧を出させる程舐めきった攻撃、そして何より、大事にしている顔をターゲットにした事が許せなかった。
最後はプルトニウム関東を抱え上げ、リング中央からコーナーに走り、サードロープに登り、反動でパワースラムをした。かえでのフィニッシュ技、かえで式パワースラムで試合を決めた。
かえでは起き上がれないプルトニウム関東を睨みつけ、肩で呼吸しながら勝ち名乗りを受けた。

控え室に戻って来た。画面で見る以上にむごたらしい姿になったかえでに対し、さくらは声が出なかった。
「かえで様!!」
美里がかえでに飛び付いた。かえでは、
「プルトニウムごときに見苦しい試合見せてごめんね。次はもっと華麗に勝つわ」
と言って香に視線を送った。かえでは体調が悪かった。それもあって苦戦したのだが、その様な言い訳は一切しなかった。誇り高きお嬢様なのだから―――。もっとも勝ったから良いのだが。
香は視線を向けられた事に対して何も答えなかった。かえではフッと笑い、
「次はあなたの番よ。美紗に何分持つか見せてもらうわ」
と、さくらに言った。さくらは唾を飲み込み、
「はい、頑張ります」
と言った。そしてかえでと美里が控え室から出て行くのを見送ってそれから二回軽くジャンプした。
暫くすると合図が出たので、さくらは両手で頬を叩き、
「香さん、行って来ます」
と言って控え室から出てリングに向かった。香は軽く手を振り、
「五分持ったら褒めてあげるわ」
と言って見送った。

入場はさくらが先で、さくらは走って入場しリングに駆け上がった。そして、屈伸運動しながら美紗を待った。
美紗はさくらがリングに上がったのを確認するとゆっくりと入場した。そしてリングに上がると、コーナーに寄りかかった。
かえでとプルトニウム関東の試合のジャッジをしたメイド姿のレフリーが引き続き試合を見る。レフリーはいつもの様にさくらと美紗にボディチェックをし、それが終わると試合開始を告げ、同時にゴングが鳴った。
さくらは美紗に対して手四つに行かず、いきなりロープに向かって走った。力勝負しても勝てないと見て、組みに行かずに倒してグラウンドに持っていこうと考えた。
しかし、ロープの反動を利用したさくらに対し、美紗も走ってはね返って来たさくらにショルダータックルを入れた。さくらは勢い良く倒れた。美紗はさくらの髪を掴みに行かず、ただ自分で起き上がるのを待った。
「くうっ……」
さくらは小さく声を上げた後ゆっくりと起き上がった。その時美紗にツインテールを掴まれた。そしてロープに振られた。
「もう一回来い」
美紗は発破を掛けた。さくらはロープで反動をつけて、さっきより思い切り美紗にぶつかったが、再びタックルで倒された。
美紗はさくらの髪を掴んで起こし、コーナーに振った。さくらは思い切り背中から激突し、
「うぐっ!」
と声を上げた。直後、美紗のボディアタックの餌食になった。さくらは前に膝から崩れ落ちた。
美紗はすぐさまさくらを仰向けにしてフォールした。
「ワン、ツー、ス―――」
スリーカウントが入る寸前にさくらは何とか返した。
「立てよ。まだまだだろ?」
美紗はさくらに声を掛け、ツインテールを掴んで起こした。さくらは四ん這いの体勢から膝を立てて立ち上がり、パンティを直した。
美紗はもう一度コーナーに振った。さくらはコーナーに激突したが、さっきより美紗と間合いが空いていたので、美紗に向かって走り、ラリアットを入れた。美紗はそれを受けて後ろに倒れた。
「あぐうっ!」
さくらはラリアットを放った右腕を押さえ、顔をしかめて声を上げた。ラリアットを武器にする程さくらは腕がまだ強くなかった上に相手が重すぎた。
しかし、美紗が起き上がる前にフォールに行かないとと思ったので横に倒れている美紗をフォールした。しかし、メイド服のレフリーがカウントに入ろうとした時に美紗は返した。さくらは美紗のラリアットを封じる為に急いで右腕を取り、腕十字を掛けた。
美紗はニヤリと笑った。そして腕十字を掛けられたまま体を起こし、立ち上がった。
「ど……どうして……?」
何故腕十字が決まっているのに美紗は立ち上がれたのかさくらには分からなかった。美紗は、
「また鍛え直そうな、さくら」
と言って腕を決めているさくらをマットに叩き付けた。さくらはリングの中央で大の字になった。

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