百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第16章 前哨戦1

「次の相手はキャサリン・デービスですね」
社長が亜湖に告げた。亜湖は、
「はい」
と答えた。前の反省から対戦で当たりそうな人は事前に調べておいた。
キャサリンは身長はかえでと同じ167cmの黒人選手で、かつて陸上選手を志したという噂だった。それがどうしてここ、丸紫に来たのかは分からないが、兎に角それだけの身体能力があり、そのバネやスピードを活かした技―――、例えば亜湖は勿論栄子の顔辺りまで狙える高いジャンプからの攻撃等である。

練習室に向かっていたら廊下で良とすれ違った。良は、
「次は誰と対戦?」
と聞いてきた。亜湖は社長との話を聞かれていたのかと思ったので、
「どこでその話を―――?」
と聞いた。良は、
「ヘェー。ホントに試合の話だったんだ。それに質問してるのはあたしだよ」
と言った。良は亜湖が社長室から出て来たので何となく聞いただけで試合の事だと分かっていた訳では無かった。
「キャサリン・デービスさん……」
亜湖は答えた。良は驚き、
「マジで!?」
と叫んだ後、不敵な笑みを見せて、
「ご愁傷さま。ま、頑張んなよ。試合数少ないからランク低いけど相当強いよ。この間クソお嬢のかえでには負けたけど、かえでの弱点に気付いたら奴でも危ないかな」
と言って練習室に入っていった。かえでの弱点とは、重いドレスからくる疲労である。
「でもあたしがキャサリンなんかに教えるわけ無いよ、かえでも香もあたしが倒すんだから」
良はそう思っていたから―――。

亜湖は良が言っていた『ご愁傷さま』の意味を知るために、ビデオで少ないキャサリンの試合を見てみた。
その中でキャサリンはトリッキーな動きで相手を惑わし、最後はネックブリーカーでしめていた。
ランクが自分より上の選手との対戦では、栄子、プルトニウム関東には勝っていた。香とは対戦が無く、美紗とかえでには負けていた。
しかし、かえでと同じ様にランクが下の選手には殆んど負けなかった。良やジュディ等も手玉に取った。

亜湖はどう闘えば―――、いや、亜湖の場合はどうやって受ければ、と言った方がいいかもしれないが、それが分からなかった。
亜湖が一人でトレーニングしてる所に香が来た。亜湖はその事を打ち明けると、
「貴方の受けを崩せるのは私や美紗だけね。かえでもかな。つまりそういうこと」
とそっけなく答えた。香は大学生になり、亜湖もここに来て早いものでもう一年になる―――。
戦法が戦法だし負けもあるので亜湖の成長というのはなかなか端から見ると解らない。しかし、香は亜湖の負けといってもさくらに足をひっぱられた結果であり、シングルだと香などランクのかなり高い選手に負けた訳であり、亜湖の体格、体力から相当強くなってるとは感じていた。
『そろそろシングルで潰しておかないとね』
香は思った。もし亜湖がキャサリンを倒すような事があれば、ランクは中堅の中位にはなると思われる。そうなると自分は勿論栄子や美紗との対戦も増える。そうなり勢い付かせない様にする必要があった。
―――亜湖なんてやられてなんぼ―――
あくまでも周りを楽しませる存在でないと困る。しかし、それを思い知らせる役はキャサリンなんかに渡さない。あくまでも香自身がやるという事だった。

亜湖はキャサリン対策をしようと思ったがコーチの洋子はタイプが違いすぎた。洋子は、
「生徒会長呼ぶ?」
と聞いた。亜湖は、
「はい、一度でも」
と答えた。洋子はその後生徒会長と連絡を取り、一回は来れるとの回答を貰った。

一方キャサリンはスパーリング等を積極的にこなし、亜湖については、
「じゃ、ワタシも下着で出てセクシーさでも勝負しちゃおうかしら」
と軽口を叩いた。キャサリンは某テキサスレスラーの女版といった感じでビキニの上にカウボーイ衣装をはおる感じで充分セクシーだ。下着になんかなったらいやらしくなることうけあいだ。
「今でも露出度高いのに―――」
話しているのはセリス・バーグマンという二期生と同時に入った、当時初の外人レスラーだった。今は引退してキャサリンにコーチしているメキシコ系の人である。
身長は161cmと良より小柄で、洋子や栄子と名勝負を繰り広げ、ランクも高かったが、洋子同様生徒会長の入門後に大型化の波に呑まれる形で引退した。洋子が丸紫で最初に下着姿で闘ったが、その時の相手がセリスであり、勝負はセリスの勝ちだった。

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