百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第16章 前哨戦3

兎に角今までの対戦相手とは違う。目の前まで走って来たと思えばいきなり視界から消え、そして足が飛んで来るといった感じである。その様な技に翻弄され亜湖は少し反撃したものの、またキャサリンの攻撃に晒された。
場外に引きずり出されそこでも足技の洗礼を受けた。
「ああっ!」
亜湖は声を上げて尻餅をついた。そしてそのまま後ろに倒れ、蹴りを受けた胸を抑えた。キャサリンは亜湖の髪を掴んで起こし、後ろを向かせるや否や強烈な蹴りを背中に御見舞いした。
「あああーっ!」
亜湖は声を上げて、それから倒れようとした。倒れていれば休めるからだった。しかし、キャサリンは亜湖を捕まえて抱え上げた。亜湖は足をバタつかせたがキャサリンは気にも留めずにいたので諦めた。そしてキャサリンは場外パワースラムを決めた。
「あああっっ!!」
叩き付けられた痛みとキャサリンに上から押し潰された衝撃に亜湖は声を上げて耐えた。上に被さっているキャサリンが退いた後、背中を反らして左手で背中を押さえ、右手でパンティを直した。
キャサリンは亜湖の髪を掴んで起こし、リングに入れた。そしてすぐにフォールした。
「ワン、ツー」
亜湖は正確にカウントツーで返した。キャサリンはすぐに亜湖の髪を掴んで起こし、亜湖をロープにもコーナーにも振らず、自分がロープに走った。
――― 隙の大きい技は返せ ―――
丸紫の鉄則である。ただ立っている亜湖にはキャサリンの動きは完全に見えた。この場合は亜湖をロープに振ってからキャサリンは走るべきだった。走らせれば亜湖の視野は狭まり、キャサリンの攻撃を受けざるを得なくなる―――。
しかし今亜湖はじっくりキャサリンの動きを見る事が出来る。飛んで来たら避ける又は叩き落とす。中段は受けながら反撃。下段はガード等色々考えられる―――。
「!」
しかし、キャサリンは亜湖の予想とは違う動きをした。目の前から消え、そして、胸から側頭部目がけて足が飛んで来た。
「ああっ!」
亜湖は声を上げてよろめいた。その瞬間、首にキャサリンの足が絡み付いてきた。亜湖は抵抗したが、
「フンッ!」
とキャサリンの気合いと共に投げられた。

「やられた!」
香はモニターを見ながら声を上げた。フランケンシュタイナーの状態から体を捻っての投げで亜湖は頭をマットに叩き付けられてしまった。
キャサリンは自分よりランクが低く、かつ体重が自分より少し重い、65kg以下の人にはこの技で決めてくる。
良はこの技で沈められ、かえでもキャサリンよりランクが上ながらこの技を繋ぎで決められ、相当追い詰められた。

キャサリンはフォールに行こうとしたがレフリーに止められた。
丸紫はあくまでもKOという決め方はしない。相手が返す意思がありながらも返せない状態にして勝利、という勝ち方をよしとしているので気絶してしまった亜湖からはカウントは取らないのである。
例外はある―――。美紗のラリアットや香のポニードライバー等、フィニッシュ技で相手が気絶した場合である―――。キャサリンの場合、ネックブリーカーがそれに当たるので今回の様なフランケンシュタイナーや蟹挟みからの投げは該当しなかった。

亜湖は腰を中心にビクッ、ビクッ、と痙攣した。顔は横を向き、口を小さく開けて、髪が掛って見えないが目は軽く閉じていた。
片腕は肘を曲げ指は握ってる訳でも完全に開いてる訳でもないちょうど中間で、もう片腕は肘を伸ばした状態になってる以外はほぼ同じだった。
足はほぼ60度、正三角形状に開いていた。
カメラ三台のうち二台が亜湖を映し、そのうちの一台は亜湖の上半身側―――表情や胸を、もう一台は足から映した。
足の方から映すのは、気絶した亜湖と言えばこのアングルは外せない、という位お約束のアングルになってきた。
中央にパンティ姿の股間を映し、可愛いパンティから出た両足が左右に広がり、膝の辺りまで入るようにおさめ、もし膝を立てていれば向こうに腕も映る。
そして細かい布の網目まではっきりと見える程にピントを合わせたパンティ姿の股間の向こうには二つの盛り上がり―――つまり胸が映っていた。更にその向こうには、顔が天を向いていれば顎を胸の間に見る事が出来るが、今回は横を向いているので髪が僅かに見える程度だった。
そんなアングルで痙攣してる所を映されているのだから改めて言うまでも無いが嫌らしさは半端無い。
足やパンティが汗で濡れていたりブラジャーをしていない、乳房を晒した状態だと更に嫌らしさがアップする。
パンティ一枚姿でしかもパンティが濡れている状態で痙攣していたらまるでイッてしまった時のようであるから―――。

亜湖はやられてなんぼ―――。
さっき香はそう思ったがつまりはこういう姿を晒すのがお似合いだ、下着姿で闘うことを選んだのだから。という事だった。
「私ならもっと面白くするわ―――」
香は呟いた。次にシングル戦をやる時には叩き潰すだけでなく、自分の欲望―――、自分の手で相手を滅茶苦茶にし、その姿を眺めて楽しむ事。その対象に亜湖を選び更におまけまでつけてやる事だった。
「フフフッ……クスクスッ」
香は笑った。
「ふーん。亜湖はあんたを慕ってきてるのに随分なんだね」
突然後ろからそう話しかけられたので香は内心驚いたが平静を装い、
「慕ってくるのは亜湖の勝手よ。私は友達になった覚えはないわ」
と声に向かって答えた。
「あ〜あ、恐いね。香の本性は」
声の主はそう言って香の前に来た。
「草薙―――さん。いつから……」
香は呟いた。声の主は良だった。良は両腕を広げ、
「最初からいたよ。ま、どうでもいいけどさ。あたしもあんたと亜湖の試合は楽しませてもらうよ」
と言った後、
「亜湖みたいに可愛い女は得だね〜。男だけじゃなくて女にもエロの対象されるからね。ほら、女は芸術、男は変質者ってか」
と両腕を広げて言った。それから腕を組んだ。香は、
「フン。下着姿なのが悪いのよ」
と良とは目を合わさずに言った。そして、
「草薙さんも顔は人気じゃないの」
と話題を変えようとした。しかし良は、香が落ち着きが無い事に気付いていた。
「へー。だからあたしにもエロ技掛けたいって? 無理無理、あたしにグラウンドなんて生徒会長以外は―――」
と言った後、
「随分必死な様だけど、もしあたしが居なかったら自分が亜湖いじめしてるの想像してオナニーでもしてたのかな?」
と言った。香は顔を真っ赤にして、
「な、なにを……突然」
と言ったがそこから先の言葉―――、つまり否定する事が出来なかった。実際少しブルマの下のパンティを濡らしていたのだから―――。
「あはははっ、図星! ま、分かるけどね。あたしも亜湖やさくらとやるときはしたくなるから」
と笑って部屋を出ようとドアを開けた。そして、
「じゃ、邪魔者は消えるから程々に楽しんでね。安心しなよ、誰にも言わないから」
と振り返って挑発的な笑顔で言い、出ていった。
「く、くそっ……。草薙さんも潰してやるわ」
香は机を叩き悔しがった。常に自分のペースでモノを運ばないと気が済まない香にとって、本性を見破られ、ここまでいいようにペースを握られる事は屈辱以外の何物でも無かった。

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