百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第16章 前哨戦5

亜湖は何故生徒会長が12分という数字にあんなにこだわるのか分からなかった。
「ほら、100mの世界記録と10000mやマラソンの世界記録。男子はみんな黒人だよね」
生徒会長はリング上で倒れている亜湖の周りを歩きながら言った。亜湖は息を乱しながら、
「は……はい……」
と答えた。生徒会長は、
「どっちも黒人。なら黒人はパーフェクト?」
と亜湖の横でしゃがんで聞いた。亜湖は、
「え? ―――それは……わかりません」
と答えた。生徒会長は、
「ダメダメ。相手の事はちゃんと調べないと」
と人指し指を立てて横に振りながら言った。亜湖は、
「でも、スポーツ歴なんてどうやって……」
と言った。生徒会長は、
「十ぱヒトカラゲに"黒人だから"じゃ失礼でしょ?」
とニコッと笑って言った。そして、
「一つは国が違うでしょ、それで傾向はわかるよね。キャサリンは何処の国?」
と聞いた。亜湖は、
「アメリカ―――」
と呟いた後、
「そっか、分かりました」
と言った。アメリカの黒人は短距離系が多い、つまり長引けば亜湖が有利になるという訳だった。生徒会長はそれから、
「亜湖ちゃんの方が体が大きいから、相手のパワーにも負けにくいから二重に有利ね」
と言った後亜湖の髪を掴んだ。亜湖は、
「な、何を……?」
と言うと、生徒会長は、
「ほらほら起きて。答えるのが遅かったから―――」
と笑顔で言った。亜湖が起き上がると、
「お灸据えてあげる」
と言って亜湖の脇の下に首を入れ、胴をクラッチした。そしてそのまま放り投げた。亜湖のフィニッシュ技のバックドロップで―――。
「や、やめ……」
亜湖はすかさず生徒会長の腕を外し、体を捻って押し潰そうとした。いくら生徒会長だからといって自分のフィニッシュ技を決められる訳にはいかない。
生徒会長のクラッチは外したが、亜湖は後ろに投げられ、後頭部をマットに打ち付け、気絶してしまった。
生徒会長は亜湖を投げ捨てた後起き上がり、
「その"外しを"破られた気分はどうかな―――、って聞こえてないか」
と言って、ビクッ、ビクッと痙攣している亜湖を見下ろしていた。あくまでも楽しそうにニコニコしながら―――。


キャサリンはフィニッシュ技のネックブリーカーからの海老固めという勝利の方程式を返されてしまったので焦った。
かと言って良を沈めかえでを追い詰めたフランケンシュタイナーは決めても亜湖が気絶してしまえば試合が止まる。
『ならば!』
亜湖の上半身を起こしてドラゴンスリーパーを決めた。
「んっ、んんんっっ」
亜湖は何とか声を上げた。キャサリンは右腕で亜湖の首をきめ、左腕で亜湖の左腕をロックしていたが、亜湖がブリッチして威力が弱まらないように亜湖の股に右足を入れ、ブリッチを阻止した。
亜湖は横に体を引きずりながらロープを目指した。その時に一つ気付いた。前半よりキャサリンの力が入っていない事に―――。
ある程度引きずった後、長い足を伸ばしてロープブレイクをした。

キャサリンはドラゴンスリーパーを解いて亜湖の髪を掴んで起こし、コーナーに振った。亜湖が背中から激突するとすかさず左からの蹴りをフェイントに、右で蹴りを入れた。
亜湖が前に崩れるように倒れる所に飛び付いて捻り倒そうとしたが―――。

高さが足りず空振りした。

亜湖はそれを見てチャンスと思った。先程のドラゴンスリーパーにしろ今のにしろ、キャサリンは攻め疲れて試合開始時の瞬発力を失っていた。こうなって来ると亜湖にチャンスだった。
先に起き上がったのはキャサリンだったので、亜湖の髪を掴んで起こし、ロープに振った。亜湖はロープに跳ね返った後ミドルキックを出した。
ボグッ!!
と鈍い音を響かせ両者共倒れた。亜湖の膝とキャサリンの膝の相撃ちだった。
亜湖は横向きに倒れ、腹を押さえた。
「あ……ぐう……っ」
亜湖は歯を食い縛り、首をフルフルと振った。
一方キャサリンは片手で腹を押さえ、大の字になっていた。
レフリーはキャサリンの意識があるか確認した。キャサリンはレフリーの手を握り、気絶していないことを示し、ゆっくりと起き上がった。亜湖より僅かに先に立ち上がったので、亜湖の髪を掴み、コーナーに振った。
『クソッ! コイツなんで立ち上がれるのよ!』
キャサリンはそう叫びながら突進し、コーナーに背中からぶつかった亜湖にタックルした。亜湖は、
「あおっ!」
と短く声を出し、反動で前に倒れそうになった。キャサリンは頭が下がった亜湖の髪と腕を掴んだが、亜湖が片膝を付いたので髪を強く引っ張り、腕を掴んでた手を離して、ブラジャーを掴もうとした。そうすれば意識が有る限り亜湖はブラジャーを外される事を嫌がり立ち上がらずを得ないからだった。
キャサリンの左手が亜湖のブラジャーに掛りそうになった瞬間、亜湖は体を付いてた膝を持ち上げ、キャサリンの左脇に右腕を差し、キャサリンが驚いて髪を掴んでいた右手を離したので、その腕を左腕で引っ張りこんで更に差した方の右腕を返す様に持ち上げながら右足を踏み込んだ。
するとキャサリンは宙を舞い、背中から勢い良く叩き付けられた。
『がはっ!』
キャサリンは突然の投げにうまく受け身が取れず、ダメージをまともに受けてしまった。亜湖は中腰になって素早くキャサリンの状態を確認した。そして左手でキャサリンの髪を掴んで、右手でキャサリンには見えないように拳を握った。
「ここで決める……っ」
亜湖はそう思った。


「ふーん、呼び戻しか〜。そんな投げ出来たんだ」
生徒会長はニコッとわらって言った。

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