百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第16章 前哨戦8

後見人云々といった法律的な事を知らなくても未成年は色々な面で制限が有ることは誰でも何と無くはわかる。つまり、亜湖とさくらが互いに独り暮らし、または二人で暮らして生活費の工面をしたりするのは極めて難しいと思った。
「今は誰のもとに?」
真希は聞いた。亜湖は、
「丸紫の社長だよ」
と答えた。亜湖は、亜湖にとって真希は同じ孤児院で境遇を共にした仲間であり信用できる数少ない人であることと、ある程度本当の事を話すことによって、逆に丸紫で闇プロレスに手を染めている事に気付かれないようにするために正直に言った。
勿論「丸紫」だけでは闇プロレスのサイトにはたどり着けない事は言うまでも無い。
「ふーん、丸紫なんだ」
真希は意味深な言い方をした。亜湖はまさか、真希が闇プロレス等全てを知っているのかと思った。そうであれば顔にモザイクかかっているとはいえ体格、体型、声、髪型から亜湖やさくらが試合してる事位すぐに気付く。この真希の答えで実は全て知られていて、下着姿で闘ってる事を軽蔑されてるのではないかと思った。
亜湖は動揺を隠せなかった。それはさくらも同様だった。真希の口が開きかけた時思わず亜湖は目をきつく閉じた。
「どうしたのさ、動揺して。あたし何か変なこと言った?」
真希が言うと、亜湖は真顔に戻り、
「え? あ……。う、ううん。なんか社長の事知ってるみたいだから―――」
と両手を顔の前で振った。すると真希は衝撃的な事を言った。
「知ってるも何も―――あの社長。昔アイドルだったんだから」


亜湖は言葉が出なかった。更に、
「昔良く話したじゃん―――、笹山忍」
と言った。亜湖とさくらは驚いた。そう、真希はアイドル歌手の笹山忍の大ファンだった。孤児院の院長に泣き付いてファンクラブに入らせて貰ったり院長にコンサートに連れて行って貰ったりする程であり、その笹山忍が事故で芸能界引退と知った時は泣きじゃくっていたのだった。
しかし、どうやって知ったのだろうか?
「ネットで調べたの?」
亜湖は聞いた。真希は、
「調べたよ。でもネット辞典とかでも、事故までしか載って無いよ。その後は一般人になったって書いてあるだけだし」
と答えた。亜湖とさくらは益々分からなくなった。ネットで調べても情報が出ないのにどうして分かったのか、それとも姿形が似ている為、真希が社長は笹山忍と思い込んでいるだけか―――?
「活躍期間が短かったからあんまり表に出ないけど、裏の掲示板にはあるんだよね―――情報が」
と答えた。そして、
「マスクしてるでしょ。蝶の」
と言った。さくらは、
「うん、顔の傷は丸見えだけど―――」
と答えた。真希は、
「そう、それはね。顔の傷を隠す為じゃない。整形したとはいっても万が一の事―――」
と言い掛けた。亜湖は、
「昔アイドルだった事が分からないよう―――に?」
と聞いた。真希は、
「そう。突き止めるの苦労したんだから。裏サイト中の裏サイトでやっと見付けた」
とニカッと笑った。そして、
「でも誰にも言うつもりは無いよ。あたしだけの秘密さ」
と言った。
丸紫のホームページには当然社長挨拶が載っている。そこには別の名前―――佐々岡ひかり、と少しコラージュしてある顔写真が載っていた。
真希の情報では改名したからその名前だという。


亜湖とさくらは、真希と別れた後、真希の言っていた事が本当かどうか知りたいと思った。しかし、直接社長に確認する以外に方法は無いので気持が引けた。事故で引退して名前まで変えたのに、それをほじくり返されたらかなり不快に思うだろう。更にあれだけの闘気を出してくる。
良くて半殺し、悪ければ東京湾に沈められかねない。やっぱりやめておいた方が良いのか―――。
しかし、社長は亜湖とさくらの未成年後見人。つまり親と同義である、年は近いが。つまり「子供が親の事を知る」のは当然の権利であり、社長に拾われなければ今の自分達はどっちにせよ無かった。だから、怒らせてしまったならそれはそれで仕方ない―――そう思った。

しかし、いざ聞こうとしようとすると気が重くなった。
そうやって聞けないまま二日が経過した。
亜湖は学校から帰り、丸紫に来ると社長を捜した。社長は銀蔵と一緒に練習室を回って安全確認をしているところだった。
「どうしたのかしら、亜湖さん。そんなに急いで―――」
社長は制服姿のままの亜湖を見ていつもの落ち着いた口調で言った。
「社長……。た、確かめたい事があるんです」
亜湖は何とか言葉を発した。社長は、亜湖の様子がおかしいので何か普通では無い事を聞こうとしている事にすぐに気付いた。
「何かしら?」
社長は、表情を変えずに尋ねた。亜湖はなかなか切り出せなかったが、右手で頬を叩き何とか言葉に出した。
「しゃ、社長は―――」

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